インフルエンザ菌性髄膜炎

 I 臨床的特徴

 1.症状 インフルエンザ菌は細菌性髄膜炎の原因菌として首位にあり、生後3か月から3歳未満に好発する。上気道炎に引き続き比較的急に発病し、ほとんど常に菌血症を伴うが、ときに中耳炎などの隣接部位から波及する。主症状は発熱、食思不振、嘔吐、易刺激性、傾眠、痙攣で始まり、乳児では大泉門膨隆、項部硬直、おむつ交換時に涕泣することもある。発熱は仝例に、嘔吐は2/3以下、痙攣1/3以下、意識障害1/2以下で、大泉門膨隆も脱水症状があれば著明でない。進行性の意識障害を示すこともある。臨床症状からはほかの細菌性髄膜炎と区別できない。菌血症に伴う肺炎・膿胸、化膿性関節炎などを併発していることもある。致命率3~5%、後遺症(発育障害、神経学的障害) 22%程度(生存者の1/2という報告もある)で予後は大して改善されていない。

 2.病原体 インフルエンザ菌召Haemophilus influenzae b型が大部分を占め、b型以外の莢膜型あるいは無莢膜型によることは数%にすぎない。

 3.検査 髄液または血液からインフルエンザ菌を分離同定する。髄液、血清、濃縮尿を用いてカウンタ免疫電気泳動法(CIELラテックス凝集反応(LA)、ブドウ球菌共同凝集反応(COA)によって莢膜多糖体抗原を検出する。

 II 疫学的特徴

 1.発生状況 全世界に見られる。生後3か月から3歳未満に発生のピークがあり、5歳以後はまれになる。家族や保育施設で二次症例が発生しやすいo 日本では欧米よりもはるかに低率である。千葉県の調査では6歳未満児人口10万人対インフルエンザ菌性髄膜炎の罹患率は1988年に3.9、 1991年には5.6であった。

 2.感染源 ヒト。

 3.伝播様式 鼻咽腔からの分泌物の飛沫感染によって伝播され、菌は鼻咽腔から侵入する。

 4.潜伏期 2~4日。

 5.伝染期間 菌は鼻咽腔に長期生存する。有効な抗菌薬療法開始2日後には感染性は低下する。

 6.ヒトの感受性 抗b型莢膜多糖体(PRP)抗体および殺菌抗体の保有状況と関連し、低抗体価の時期に罹患率も高い。24か月未満では本症罹患後も抗体価の上昇が認められない。人種とも関係し、白人に比べて黒人、エスキモー人は有意に高い罹患率を示している。

 Ⅲ 予防対策

 A 方針

 欧米ではわが国の伝染病並みの対策がとられている。

 4歳以下の同胞には二次症例を見る危険がある。鼻咽腔におけるインフルエンザ菌b型保菌状況を家族、特に乳幼児について調査する。臨床的に発熱などの症状を見いだしたならば精査する必要があることを家族に説明して協力させる。乳児施設などで患者が出た場合、同室の乳児などの保菌状況と二次症例の監視を続ける。

 B 防疫

 定点の病院は症例を保健所へ届け出る。化学療法開始後、鼻咽腔に菌が消失するまでは隔離することが望ましく、特に乳児に接触させないようにする。インフルエンザ菌b型莢膜多糖体抗原ワクチン接種が米国では1985年に認可され2歳児とハイリスクグループに実施された。しかし18か月未満児では抗体産生が不十分なため、ジフテリアトキソイドなどを加えた複合ワクチンが実用化されて罹患率は激減した。わが国ではインフルエンザ菌ワクチンは残念ながらまだ輸入されていない。

 家族内や保育園の6歳未満の乳幼児接触者や職員には発熱など発症について監視する傍ら、鼻咽腔のb型除菌のためリファンピシン予防投与20mg/kg 4 日間経口投与、最大値600mg/日とする案が米国では最も信頼されている。わが国では本菌に対してリファンピシンの適用がないのでアンピシリン(耐性株にはクラブラン酸との合剤)または第三世代セフェム内服薬、またはセフチゾキシム坐剤を用いざるを得ない。

 4歳以下の家族がある場合には患児退院の際、除菌のためにリファンピシンを内服させる。

 特異療法としてはアンピシリン耐性株が20%を超した現在、セフォタキシム分4静注で開始する。実際には最初リステリア菌や腸球菌の存在も否定できないので、セフォタキシム十アンピシリンで開始、菌感受|生によっていずれか一剤に限定する。