マイコプラズマ肺炎

 I 臨床的特徴

 1.症状 発病は亜急性で全身倦怠、発熱、頭痛、乾性咳嗽で始まる。体温は39℃以上に及ぶことが多く、半数は悪寒を伴う。鼻症状は少なく、咳嗽は乾性から次第に湿性になり、激しさを増す。発作性で頑固であり、発熱そのほかの症状が消失してからも咳嗽は数週間持続する。年長者は粘性、ときに膿性の痰を喀出する。咽頭痛、嗄声、胸骨下疝、中耳炎や発疹、ときには神経や心合併症など多彩な症状を伴う。水泡音が聴かれるが、胸部理学的所見は症状の強い割には乏しい。

 胸部エックス線像は間質性びまん性の肺浸潤像で代表され、肺胞型、間質型肺炎の陰影が混在して肺門部から外方に広がるものが多く、区域性ないし肺葉性に分布して、いわゆる異型肺炎像を示す。初期の浸潤像は臨床所見から想定されるよりもしばしば広範にわたっている。 ときに濃厚な硬変像や無気肺像が見られる。肺門リンパ節腫脹も小児では約1/3に認められ、結核との鑑別が必要であるo胸膜炎の合併も7~10%に見られる。胸部エックス線所見は咳嗽の持続とは無関係で1~16週間(平均4週間)で消失する。当初、原発性非定型(異型)肺炎といわれた疾患はクラミジア、各種ウイルスを病原とする症候群と考えられるに至った。細菌二次感染および中枢神経合併症は少ない。

 鑑別診断には細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、オウム病および初期結核がある。

 2.病原体 肺炎マイコプラズママイコプラズマ属の中でヒトに病原性を示す。 3、検査 咽頭ぬぐい液や喀痰、穿刺液、血液からの分離を試みるが1~4週間を要する。乳児では抗体陰性例が多いので特に病原体の検索が必要である。血清抗体価4倍以上の上昇または単独血清では補体結合反応(CF) 64倍以上、間接血球凝集反応(IHA) 320~640倍以上を陽性とする。寒冷凝集反応も過半数(50~90%)で陽性(512倍以上)を示すが、特異的ではない。抗原検出法としてDNAプローブを用いる迅速法が検討されている。

 Ⅱ 疫学的特徴

 1.発生状況 マイコプラズマ肺炎は世界的に散発ないし流行しており5~25歳に多発するので、施設や学校、軍隊で問題になる。乳幼児にも以前考えられていたほど少なくない。抗体価の上昇が悪いため、乳児では培養しない限り見逃されやすい。また乳幼児では軽症の傾向があるが重症例もまれではない。

 2.感染源、伝播様式 ヒトからヒトヘの鼻咽頭分泌物が飛沫感染を起こす。潜伏期は2~3週。発病1週間前から咽頭に検出される。家族内感染もしばしば見られ重症例も少なくない。感染力は発病時に最大で10日前後、持続例でも6週後には消失する。

 肺炎マイコプラズマ感染症は有熱性上気道炎から下気道炎、肺炎までさまざまである。年齢にもよるが肺炎は感染者の3~30%に発症するO3~5年ごとの流行はおそらく集団としての感染防御能の低下に基づくものと推測されるが、抗体保育率だけからは説明できない。免疫持続期間は不明、2回目の感染はあり得る。死亡例はまれである。

 Ill 予防対策

 流行時には密集した閉鎖環境を避けるO異型肺炎が結核感染症サーベイランス事業の対象疾患であるため、定点から保健所へ年齢、患者数が報告されている。隔離の義務はないが気道分綰物が感染源になることに注意すべきである。

 自然治癒傾向はあるが、ごく軽症例を除いて適合抗菌薬エリスロマイシン、年長者にはテトラサイクリン系剤を投与する。肺炎マイコプラズマは細胞壁を有していないので、ペニシリン系剤、セフェム系剤は無効である。エリスロマイシンは最小阻止濃度からみて優れている。テトラサイクリンは8歳以下には投与しない。エリスロマイシン治療中にまれながら耐性株が出現するというが、治療効果に影響はない。