皮膚真菌症

1 臨床的特徴

 1.症状 表在性真菌症の一種で、いろいろな白癬菌によって起こる。大別して、(A)病変が主として皮膚角層に限局する浅在性白癬と、 (B)真皮に炎症性組織反応を伴う深在性白癬とに分け、それぞれ数型に細分される。

 浅在性白癬の頭部白癬tinea capitis では初めは小丘疹であるが、次第に周辺に広がって頭部に境界のはっきりした、ほぽ円形の鱗屑面を形成し、毛髪は折れやすくよく脱毛する。Trichophytonの菌種では螢光は見られない。黄癬favusはTrichopkyton schoenleiniiによって起こされた一種の頭部白癬で、悪臭を放ち、帽子状の黄色の痂皮を頭上にかぶっている。わが国には現在ほとんどない。体部白癬tinea corporis は手足、頭、ひげ以外の躯幹と四肢の皮膚感染症で、病巣は輪状に広がる。そして周辺は通常紅斑状、小水疱性または小膿疱性で、また乾燥落屑状ないし湿性痂皮状を示す。病巣が周辺に進むと中心はきれいになり、一見正常の皮膚のようになる。(A一4)股部白癬tinea cruris は境界がはっきりしており、大小いろいろな紅斑の辺縁には、小結節、小水疱または鱗屑を生じ、中央部は色素沈着、苔癬化している。陰股部に多く対称性で男子に多い。(A-5)足白癬tinea pedisは臨床的に小水疱鱗屑型、趾間型および肥厚型に分けられ、小水疱、落屑√膿疱、びらん、角質の増生などのいずれかを示す。水虫Athlete's footとして知られ、ときに爪白癬を合併し、また体部ことに手に二次感染を起こすこともある。しかし、これらの皮膚病巣に真菌がまったく存在せず単に真菌産生物質によるアレルギー反応に過ぎないこともある。(A-6)爪白癬tineaunguiumでは爪甲の混濁、肥厚、変形が見られ、もろくなって破壊することがある。

 深在性白癬としては、 (B-l)ケルスス禿瘡kerion celsi は膿疱性毛包炎の状態から融合して炎症性腫瘤となり、圧迫すれば毛孔から排膿する。後頭部に発生することが多い。(B-2)白癬性毛瘡tinea barbae (寄生菌性毛瘡sycosis parasitaris)は毛孔性膿疱を生じ間もなく膿瘍を形成するが、ケルスス禿瘡と似ている。髭毛部、特に口囲に多い。成人男子に発生する。

 慢性湿疹や乾癬などを始めとして、いろいろな非感染性皮膚疾患と鑑別を要する。トリコフイチン反応は深在性白癬では陽性であるが、表在性白癬では不定である。確実な診断は培養などを含めた菌学的検査に待たねばならない。

 2.病原体 わが国の頭部白癬の主な原因菌はMicrosporum canisである。 3.検査 鱗屑、水疱蓋などはピンセットで取るか、メスの刃を皮膚面に直角に当てて掻き取る。爪では表面は削って捨て去り、深部の方から採取する。毛髪は毛抜きなどで抜き取る。これらの検査材料をスライドグラス上において10~20%KQH液を謫下し、カバーグラスをかけて加温、数分ないし十数分後に軽く圧し、無染色で鏡検する。KOH液に青インクを加えると観察が容易になる。培養に当たっては皮膚をアルコールで清拭してから、前記のようにして検査材料を取り、通常サブロ=・ブドウ糖寒天培地に25~27℃で培養する。少なくとも3週間観察する。同定は形態や培養性状によって行う。

 II 疫学的特徴

 1.発生状況 全世界に存在し、特に温暖、多湿の地方に多い。頭部白癬はわが国では第二次世界大戦後に著しく蔓延したが、近年激減した。一般に男児に多く成人は少ない。このような関係はケルスス禿瘡の場合も同じである。体部白癬には成人もときどき罹るが小児に多く、性別では男子に多い。白癬性毛瘡は成人男子の疾患であり、股部白癬も青壮年者に多く男女の比は8:1という。足白癬、爪白癬も成人男子に多く、夏に発生ないし悪化し冬に軽快して、毎年再発することが多い。一般に表在性白癬は多発するのに対し、深在性白癬は著しく少ない。イヌやネコも白癬菌に感染する。菌種は国や地域および動物によっていろいろである。

 2.感染源 患者の皮膚病巣や菌で汚染された器物、衣類、じゅうたんなど。一般に菌は不潔な環境でよく発育する。一般的に病原巣はヒト、ときにイヌ、ネコ、ウシ。M. cardsはイヌやネコに感染する。わが国では近年、輸入ペットからヒトにも広がっている。またgypseumは土壌に存在する。

 3.伝播様式 感染源に直接接触すると、ときに感染する。患者の毛髪で汚染された理髪用具、化粧道具、布団、風呂、いすなどにも注意すること。

 4.潜伏期 10~14日といわれる。足白癬および爪白癬では不明のことが多い。

 5.伝染期間 ヒトに病巣の存在する期間。器物、衣類などでは汚染した菌の胞子の生存期間。

 6.ヒトの感受性 軽度に抵抗性を持っているヒトもあるが、ヒトは大体感受性を持ち、ことに小児は頭部白癬に罹りやすい。また、多汗のヒトも陰股部を侵されやすい。小児の頭部白癬が青春期になると自然に治癒するのは、皮脂の低級脂肪酸の産生に関係があるといわれる。高温、多湿の季節に多発し、再感染も少なくない。

 Ⅲ 予防対策

 A 方針

 家畜ことにイヌやネコから感染しないようにする。消毒していないタオルや衣類の使用を避け、更衣室やシャワー室、ペンチなどもよく消毒されている場所を選ぶようにする。流行地ではウッド燈による子供の検査を行う。感染予防には社会教育も必要。

 B 防疫

 保健所への届出、患者の隔離や行動の制限などすべて不要。しかし、米国では市町村保健機関への届出を求め、白癬と近縁な黄疸を有する場合は、治癒するまで入国を延期させられる。汚染された衣類、靴下などの消毒を完全にすべきである。予防接種はない。

 グリセオフルビンを1~4週間内服させると有効である。外用にはサリチル酸、トリコマイシンあるいはイミダソにル系抗真菌薬の軟膏などを用いる。ケルスス禿瘡では抗細菌性抗菌薬も併用し、また足白癬ではサンダルなどを用いて患部を空気によく触れさせること。爪白癬はグリセオフルビンの内服を爪が生え変わるまで続ける。

 C 流行時対策

 学校や施設などで流行したときには児童、両親および保護者に対して、本症に関する教育を行う。もし体育館などでの足白癬の感染が多くなったら感染源になるようなものの消毒を徹底的に行うようにする。