ヒストプラスマ症

かつては極めてまれな、しかし必ず死亡する疾患と考えられていたが、今日では流行地の大部分の住民が感染し、そのほとんどは自然治癒する全身性真菌症であることが分かった。病原体は、最初原虫と考えてHistoplasma capsulaturnと命名されたが、その後これが二相性の生活環を持つ真菌であることが明らかにされた。

 臨床症状は次の5型に分けられる。1)無症状型(病原菌から作製した抗原ヒストプラスミンによる皮内反応で陽性を示すだけで、ときに肺原発巣の石炭化を認める)、 2)急性良性呼吸器型(軽い呼吸器症状で、見逃される場合が多い。多数の散布性小石灰巣を、肺、肺門リンパ節、脾などに残すことがある)、 3)急性散布型(粟粒結核に似ており、経過が早く、死亡に至る。肝脾腫を伴う。小児やAIDS患者に多い。4)慢性散布型(発熱、貧血、肺炎、肝炎、心内膜炎、髄膜炎、口、咽頭、胃腸などの粘膜潰瘍があり、多くは無症状だが、数週から数年の経過をとる亜急性のものは治療をしないと致命的である。大人の男性に多い)、 5)慢性肺型(臨床症状とエックス線所見は慢性肺結核に類似する。 40歳以上の男子に多く、病変は進行と停止を繰り返すが、ときに自然治癒も見られる。呼吸不全か肺性心が死因となる)。

 診断は、潰瘍滲出液、骨髄、喀痰、血液などの塗抹染色標本か、潰瘍、肝臓、リンパ節、肺などの生検標本から菌を検出するか、ペア血清について抗ヒストプラスマ抗体の上昇を証明するが偽陰性となることもある。

 本症の感染は、アメリカ大陸、ヨーロッパ、アフリカ、東アジア、オーストラリアなどに広く見られており、特に米国東部および中央部は流行地で、ヒストプラスミン反応陽性率が全住民の80%にも達することがある。ただし、臨床発症例、特に重症例は世界各地ともまれである。

 わが国でも、ヒストプラスミン反応は全国的に男女各年齢層について実施されたことがあるが、陽性者はほとんど認められず、少数の陽性者も外国居住経験者か米国産の土壌を取り扱う陶器工場の従業員が主になっていた。なお、わが国でも本症の症例として1例が報告されたことがあるが、確認されるに至っていない。

 感染源と病原巣は土壌で、特にニワトリ小屋のあと、コウモリのいる洞窟、ムクドリの集まる木の周辺などの土壌に注意。塵埃に混じった菌の芽胞を吸入することにより感染が起こる。潜伏期は5~18日で、通常は10日。ヒトからヒトヘは感染しないのが普通である。

 予防対策としては、流行地の場合、ニワトリ小屋などの土壌から塵埃がたたないように水をまいたり、3%ホルマリンを使用する。また、このような場所ではマスダを用いる。臨床例にはアンホテリシンBが有効o

 なお、アフリカヒストプラスマ症 African histoplasmosis というのは、Histoplasma duboisiiが病原体で、主として皮膚または骨の亜急性肉芽腫を起こし、アフリカのみに見られる。病原巣、感染経路、潜伏期などは不明。