小児科病棟におけるブドウ球菌感染症:Staphylococcal disease in pediatric ward of hospital

 I 臨床的特徴  1.症状 新生児・乳児は臍炎、膿痂疹、皮下膿瘍、蜂巣炎などの化膿性皮膚疾患、上顎洞骨髄炎、眼窩蜂巣炎、リッター一病などを起こしやすい。皮膚の化膿性疾患は全身のどこの部位にも生じ得るが、起こりやすい部位はおむつの当たっている部位や腋窩など摩擦を受けやすい部位であり、臀部から背中一面にわたる皮下膿瘍形成が見られることもある。敗血症などは基礎疾患のある小児に見られることが多い。  2.病原体 黄色ブドウ球菌については、A一般社会におけるブドウ球菌感染症と同じであるが、多剤耐性の病院株(例えばファージ80/81や型別不能株)やメチシリン耐性株、また表皮剥脱毒素産生株などによることが多い。  表皮ブドウ球菌などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌は、新生児・未熟児など感染防御能の劣った患者や、中心静脈カテーテル挿入患者、腹膜還流患者、脳室一心房・腹腔シャント術患者、心疾患患者など解剖学的異常や医療器具挿入患者では、菌血症一敗血症、髄膜炎、亜急性心内膜炎などの起炎菌になり得る。  3.検査 A一般社会におけるブドウ球菌感染症と同じ。  II 疫学的特徴  1.発生状況 世界的であり、院内感染が問題である。  2.感染源 A一般社会におけるブドウ球菌感染症と同じ。  3.伝播様式 医療スタッフの手指を介する伝播が主であり、空気感染はまれである。  4.潜伏期 通常4~10日であるが、病原菌の定着後数か月を経て起こることもある。  5.伝染期間 A一般社会におけるブドウ球菌感染症と同じ。  6.ヒトの感受性 新生児・乳児は感染しやすく重篤になりやすい。慢性肉芽腫症患者、高lgE症候群などの免疫不全患者では、黄色ブドウ球菌に特異的に感染しやすく重篤になる。また小児外科患者など基礎疾患のある患者では、カテーテルの留置、ブドウ球菌に無効な抗菌薬投与などに伴って黄色ブドウ球菌預血症が起こり、敗血症や臓器感染症に至ることが多い。  Ⅲ 予防対策  A 方針  1.無菌操作を厳密に行い、患者に接触するたびに手洗いを行う。  2.新生児室では患者をいくつかの部屋に分けての収容や、母子同室制の導入は多発の危険性を少なくできる。  3.新生児の皮膚・臍のケア 新生児、特に低出生体重児では皮膚・臍の感染が全身疾患につながるので、十分なケアが必要である。低出生体重児ではドライスキンケアなどを取り入れ、清拭などをするときは皮膚を傷つけないように注意する。臍はイソジン・ハイポ、アルコールなどで消毒し、サルチル酸末をまぶすなどして乾燥させる。  B 防疫  1.隔離 疑いのある患者も含め、黄色ブドウ球菌感染症患者は隔離あるいはそれに準じた扱いとする。隔離できない場合にはバリアナーシングを十分に行う。  2.病室勤務の医療スタッフに黄色ブドウ球菌による感染病巣があるときは的確な治療をし、被覆などの処置を厳密に行うとともに、基礎疾患のある患者や新生児のケアは避ける。  3.消毒 黄色ブドウ球菌で汚染された可能性のある医療器具、器材は、すべて高圧蒸気、乾熱、ガスなどで滅菌するか、焼却処分する。汚染されたシーツなどのリネン類、衣類、タオルなどは熱が加わる形で洗濯する。  C 流行時対策  1.同時期に小児病室、特に新生児室における化膿性皮膚疾患の複数症例の発症は、院内流行の端緒となり得るので厳重に監視する。患者、母親などのすべての感染病巣の培養を行い、分離された菌株について薬剤感受性パターンなどの検討を加え流行株存在の有無を確認し、流行と判断されたら以下の対策を講ずる。また、分離された菌は保存し、型別など疫学的調査に備える。  2.小児病室で流行が発生した場合、感染患者は隔離し、全患者が退院するまで接触者を含めて監視する。新しく入院する患者に対しては、事前にベッド、マットレス、リネン、保育器、器具などは消毒あるいは滅菌したものを使用する。  3.病棟勤務者については流行株による化膿巣の有無を調べ、培養陽性者は可能であれば直接患者に接する勤務を避ける。また、感染巣に対して治療を行う。可能であれば鼻前庭の培養検査を行い、流行株の保菌状態を調べ、保菌者はポピドンヨードなどの局所塗布で除藕を試みる。  4.看護手技が適正かどうかを再検討する。厳重な無菌操作や手洗いを励行する。感染患者や監視状態にある患者を扱う看護者とそうでない看護者を分ける。  5.陰股部など汚染されやすい部位では部分的なクロルヘキシジン浴を考慮する。  D 治療方針  一般的な治療は、A一般社会における感染症と同じ。  小児では生命にかかわるような重篤な感染症が多いので、メチシリン耐性菌に対してバンコマイシンを使用する。バンコマイシンを病院に常備しておく必要がある。  医療器具に関連した感染ではそれを除去することが基本であり、それができない患者や免疫に欠陥のある患者には、クロキサシリン、バンコマイシンなどを非経口投与する。