「透析間隔により死亡リスクは異なるのか?」

過去20年間でいくらかの改善が見られたものの、米国で血液透析を受けている患者の生存率は最低水準にとどまっている。米国の維持透析はほとんどの地域で週に2度の1日間隔、および1度の2日間隔を置いて3回行われているため、透析日次第で多くの患者が金曜日から月曜日、あるいは日曜日から火曜日の間に透析を受けていないことになる。末期腎不全患者では代謝と体液が正常範囲から逸脱することへの耐容性が低く、さらにほとんどの患者が顕性の心血管疾患を発症することから、透析の2日間隔は不必要に死亡リスクを高めるのではないかということが長い間懸念されてきた。
そのため、この懸念を解消するかもしれない連日の血液透析処置は過去数年間にわたって大きく注目されており、実際に、カナダと米国で綿密にデザインされた2件の臨床試験が左室重量や生活の質など代用アウトカムの改善を示している。この結果は血液透析の間隔と頻度に関してさらに調査する必要性があることを示唆しているため、この全国調査において我々は、長い透析間隔が米国における血液透析患者の超過死亡率に関連しているという仮説を検証した。
方法
目的
我々は2005年から2008年の期間に米国で週に3回の維持透析を受けた患者記録を調査し、2日空けた後の血液透析日イベントを他の日のものと比較して考察を行った。我々の目的は全死因死亡率、心臓や血管または感染などを原因とする原因別死亡率、最も一般的な5つの死亡原因(心停止、治療の中止あるいは尿毒症、心筋梗塞敗血症脳卒中)の原因別死亡率、循環器疾患による入院率、心筋梗塞とうっ血性心不全脳卒中または不整脈を原因とする初回入院の割合、そして心血管に関する複合アウトカムの各要素に差異があるかどうかを判断することであった。
試験対象患者と測定結果
本試験では末期腎不全患者臨床パフォーマンス指標(CPM)プロジェクトの参加者を対象とし、新規データの収集は行わず、データ抽象化形式に関しては国立衛生研究所の臨床免除プロセス[clinical exemption process]を経てその認可を得た。CPMプロジェクトは血管アクセスや透析中の量素クリアランス、貧血管理、血中アルブミン値を含む透析治療の特定要素を対象とした年1回の横断的調査である。各試験実施年の12月末日に血液透析クリニックで血液透析を受けたすべてのメディケア適用成人(18歳以上)を試験サンプルに適格であるとした上で、その中から無作為に患者を選び出し、さらに米国18地域の末期腎不全ネットワークに基づいた層別化を行った。年1回の全国調査のサンプルサイズに関しては、選択した臨床パフォーマンス指標普及率の95%信頼区間が末期腎不全各ネットワークの10%以下であったため、調査への非回答を補うために30%のオーバーサンプリング戦略を用いた。

年間調査では患者の人口統計学的および臨床的特徴に関する情報や、血液透析の提供に関連した医療機関の変動要素に関する情報を前歴年の最後の3ヶ月間に収集した。人種(アメリカ先住民やアラスカ先住民、アジア人、太平洋諸島系、黒人、白人などのカテゴリー)と民族(ヒスパニック系や非ヒスパニック系)は透析担当者が判断したが、患者数の少ないカテゴリーがあったため、本試験の部分集団解析では白人と黒人のみを対象とした。治療関連の変動要素は前年12月のものである。
2005年初めにはCPMプロジェクトで各患者の週間透析回数が記録された。本試験では週に3回受けている患者を対象としたが、透析関連の血中尿素濃度が日曜日に測定されていた者は対象外とし、透析日が月曜、水曜と金曜、あるいは火曜、木曜と土曜であるかどうかを透析前の尿素濃度測定日を基に判断した。33,927人の患者を検査した結果、透析を週に3回受けていない者が921人、血中濃度の測定を日曜に受けた者が703人、これら両方に当てはまる者が238人であったため、合計で1862人(5.5%)の患者を試験対象から除外した。
公的に利用可能な米国腎臓データシステム(USRDS)標準分析ファイル(SAP)を使用し(CPM_HD05、CPM_HD06、CPM_HD07、CPM_HD08、DEATH、HOSP1、HOSP2、PATIENTS、MEDEVID95、MEDEVID05、WAITSEQ_KI、WAITSEQ_KP)、USRDS識別番号(USRDS_ID)でリンクした。患者ファイル(PATIENTS)は透析治療開始日と腎不全発症時期を求めるために利用し、腎移植希望者番号ファイル(Waitlist Sequence file:WAITSEQ_KIとWAITSEQ_KP)は患者がベースライン時に腎移植リストに載っていたかどうかを調べる上で、さらに入院ファイル(HOSP1とHOSP2)はフォローアップ期間における心筋梗塞(国際疾病分類第9版、臨床修正版[ICD-9-CM]コード410)、うっ血性心不全(ICD-9CMコード428)、脳卒中(ICD-9CMコード430~434)、そして律動不整(ICD-9CMコード426および427)による初回入院日を求めるために使用した。また、亡くなった患者の死亡日時および原因を調べる上では死亡ファイル(DEATH:メディケアおよびメディケイドサービス[CMS]フォーム2746のデータ要素を含む)を用いた。
統計分析
血液透析週間[hemodialysis week]の定義を次に示す。血液透析期間1(HD1)は月曜の参加者が月曜と水曜および金曜に透析を受け、火曜の者が火曜と木曜および土曜というスケジュールになることを意味する。HD1+1はそれぞれ火曜または水曜であり、HD2は水曜または火曜、HD2+1は火曜または金曜、HD3は金曜または土曜、HD3+1は土曜または日曜、そしてHD3+2は日曜または月曜である。従って、HD1は2日空けた後の透析を示している。転帰分析のフォローアップは2005年から2008年にかけて調査実施年の1月1日に開始し、指標イベントの最初の発生日または2009年6月30日のどちらか早いほうで終了した。

ポアソン回帰モデルを用いて、イベント発生率とその試験集団の信頼区間、および透析間隔や年齢、性別、人種または民族、末期腎不全の主要原因、血管アクセス方法、透析期間中の体重増加に関わる状態、腎移植待機者リストへの登録状況、糖尿病、そして循環器障害を原因とする最近の入院状況で定義したサブグループの信頼区間を算出した。年率に換算したイベント発生率の計算値は、フォローアップ間隔[follow-up interval]の7分の1のみがHD1のイベントを含み、7分の6(他の曜日)が他のイベントを含むという事実を説明するものであった。
原因別死亡率に関しては2004死亡届(CMS-2764)に記載された分類方法を用いたが、イベント数が少なかった肝疾患と消化器疾患、および代謝と内分泌腺の異常は「その他」に組み込んだため、試験対象とした主な死亡原因は心血管系の障害や感染症などである。さらに我々は最も一般的な5つの死亡原因、つまり心停止と透析中止または尿毒症、心筋梗塞敗血症、および脳卒中による死亡率を調査し、SASソフトウェア(バージョン9.1、SAS Institute)を用いてデータ分析を行った。
結果
試験参加者の特徴
試験集団のベースライン時における特徴は表1に示している。平均年齢は62.2歳で、患者の24.2%が1年以下の透析治療を受けており、45.1%が女性、36.3%が黒人、そして13.9%がヒスパニック系であった。患者の43.7%では糖尿病が末期腎不全の原因であり、透析のための血管アクセスでカテーテルを使用していた患者は27.7%であった。
2.2年の平均フォローアップ期間では試験集団の41.1%が死亡し、17.4%で心臓、2.7%で血管系、そして4.8%で感染症が原因であった。また、患者の9.0%は心筋梗塞で入院し、33.1%はうっ血性心不全、7.1%は脳卒中、25.9%は律動不整、そして45.8%は何らかの心血管イベントで入院していた(表2)。これに続くイベントの発生率は、透析を長く空けた後の日で他の日よりも高くなっていた[全死因死亡率(100人/年あたりの死亡件数 22.1 対 18.0)、心臓を原因とする死亡率(10.2 対 7.5)、感染症関連の死亡率(2.5 対 2.1)、心停止による死亡率(1.3 対 1.0)、心筋梗塞による死亡率(6.3 対 4.4)、心筋梗塞による入院率(6.3 対 3.9)、うっ血性心不全(29.9 対 16.9)、脳卒中(4.7 対 3.1)、そして律動不整(20.9 対11.0)と何らかの心血管イベント(44.2 対 19.7)]。ほとんどのイベント発生率は長い透析間隔の後で最も高かったものの、鋸歯状のパターンが全死因死亡率、心臓を原因とする死亡率、および心血管系の障害による入院率に見られ、イベント発生率は透析日の前と後の日でより低くなっていた(図1)。

図2では全患者の死亡率と心血管系を原因とする入院率を要約し、さらに以前の透析療法期間、年齢、性別、人種または民族、末期腎不全の原因、血管アクセス方法、透析間隔における体重増加に関連した状態、腎移植待機者リストへの登録状況、糖尿病、および最近の心血管系障害による入院で定義した25のサブグループのものも示している。サブグループ「ヒスパニック系」、「糸球体腎炎による末期腎不全」、「最低90日間にわたる透析アクセス用カテーテルの使用」、「腎移植待機者リストへの登録」における死亡率を除いて、非オーバーラップ95%信頼区間の全体を観察した。
考察
本試験では米国で透析を受けている成人の比較的新しい代表集団を用いたところ、ほとんどの試験対象イベントが長い透析間隔後により多く発生し、全死因死亡率や心疾患による死亡率、感染症関連の死亡率、心停止による死亡率、および心筋梗塞による死亡率などが高くなっていた。また、同様の傾向は心筋梗塞やうっ血性心不全脳卒中、律動不整、何らかの心血管イベントによる入院率にも見られた。そして長い透析間隔後の過度の有害事象は一般的な現象になる一歩手前であるという可能性が、サブグループ分析によって明らかとなった。
「長い透析間隔後は発症リスクが高くなる」という広く行き渡った臨床的概念があるにもかかわらず、転帰と透析スケジュール間の関連性を調査する試験は比較的稀である。突然死と心停止を対象にした同試験結果は、本稿で述べた心停止による死亡のものとほぼ同じであり、たとえばBleyerらは、1977年から1997年に米国で血液透析を受けた患者を対象に試験を行い、突然死と心疾患による死亡の7日パターン[7-day pattern]を報告して、心疾患を原因としない死亡の割合は均一であるものの、月曜と火曜では突然死や心疾患による死亡が多発していることを示している。また、透析治療の開始後12時間と週末の透析間隔の最後の12時間では、突然死のリスクが非常に高いことが他の試験によって明らかとなった。KarnikらはFresenius Medical Care North America社関連の透析治療を受けた患者77.000名を対象に、1998年10月から1999年6月の間に透析治療室で発生した400例の心停止を調査して、心停止の発生頻度が100,000回の透析治療のうち7回であり、週3回の透析スケジュールで100人/年あたり1.1回に等しいことと、心停止が月曜に発生しやすく、心停止後48時間における死亡率が60%であることを見出している。
本試験では透析日における死亡に関して、それが透析中またはその前あるいは後に発生したかどうかを確認することができなかった。さらに透析を受け損ねた場合の影響が調査不可能であり、朝と夕方のシフトのどちらに患者が割り当てられていたのかも不明であった。透析治療を受け損ねたり短縮したりするケースは米国でかなり多く、このことは高い死亡率に関連している。ある試験では透析時間のシフトが考慮され、1990年から1993年の間に米国で血液透析治療を開始した患者6939名の転帰が調査された。そしてシフト関連の死亡率の差が明らかとなったが、これは60歳以上の患者間のみで確認され、さらにその死亡率は朝のシフト、午後のシフト、そして夕方のシフトの順に高くなっていた。また、Bliwiseらの試験でも朝のシフトにおける死亡率が最も低かった。
異なる日のイベント発生率を比較する際には同一集団を考慮したため、対象外の合併症が試験結果に影響を与えているとは考えられない。非実験計画では原因と影響が明確に特定できないため、解釈は慎重に行う必要がある。たとえば死亡率と心血管系障害による入院率は長い透析間隔後の透析日で最も高いことから、血液透析自体が問題であり、有害転帰は透析を提供しないことで避けることができるという意見が出るかもしれないが、いくぶん直感に反したこのような仮説は、有害事象発生率が週末の透析後1日目に最も低く、その2日目そして次の透析日の順に高くなるという事実によって支持されるものではない。また、これまでの無作為対照試験では、透析患者の心血管イベントと死亡の発生率を低下させる介入治療が特定されてこなかった。
本試験の制限要素には非実験計画以外に、心血管イベントを特定する上での後ろ向きデータ使用や管理規定への依存などがあった。さらに、原因別死亡の分類は試験集団の正確性によって制限される可能性がある。残存腎機能に関しては正確な評価を行うことができなかったが、透析治療期間1年未満の患者サブグループでは全試験集団と違い、長い透析間隔後で予想以上に高い死亡率が見られなかったことは興味深い。コスト情報の収集は行わなかったが、透析集団の入院が非常に高くつくことを考慮すれば、2週間毎の追加透析上流コストと、他の医療費に関連した下流コストを比較することは適切であるかもしれない。
制限があるにもかかわらず何か魅力的な特徴を有する本試験は、デザイン次第で米国全土の透析集団を幅広く示すものである。長い透析間隔に関してはその調査結果がサブグループ内と転帰間で類似し、さらに死亡率(特に心疾患によるもの)と心血管イベントによる入院率が高くなっていた。また、イベント発生率に見られる原因不明の不均衡は、いくつかの例で臨床的意義を与えているようであった。そのため、透析サービス提供状況の調査を目的とした対照試験に対して、本試験は臨床的均衡をもたらすものである。

表1. ベースライン時における試験集団の特徴
試験集団は血液透析患者32,065名で構成されるが、203名は長年にわたる透析のデータが欠けており、502名は透析期間の長さ、596名は透析前の体重、629名は透析後の体重、647名は透析中の体重増加、154名は尿素減少率、3411名は報告されたKt/V、50名はボディマス指数、197名は血中アルブミン濃度、そして112名はヘモグロビン濃度のデータが欠落していた。プラスマイナス記号は平均±SDである。
Kt/Vはクリアランス測定値であり、Kは透析器の尿素リアランス、tは透析時間、Vは患者体内の尿素分布容積を意味する。
ボディマス指数は、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った値である。
心血管系を原因とする入院に関しては「心筋酵素やうっ血性心不全脳卒中あるいは律動不整による入院」と定義した。

表2. 年率換算の死亡率と心血管系障害による入院率
死亡に関してはそのすべてを、4つの広範な原因別グループのうちのどれか1つに割り当てた。
最も多く報告された5つの死亡原因が表に載っている。

図1. 異なる透析曜日における年率換算の死亡率と心血管系障害による入院率
棒線「I」は95%信頼区間を示し、CHFはうっ血性心不全、CVDは心血管系疾患、HD1は最初の透析曜日でHD1+1がその次の日、HD2は2回目の透析曜日でHD2+1がその次の日、HD3は3回目の透析曜日でHD3+1がその次の日、そしてHD3+2は3回目の透析曜日の2日後を意味し、MIは心筋梗塞である。

図2(見開きページ). 長い透析間隔後の透析日と他の日におけるサブグループの年率換算の死亡率と心血管系障害による入院率
長い透析間隔(2日間)後の透析日のイベントは黒丸、他の日のイベントは白丸で示しており、水平バーは95%信頼区間、CVDは心血管系疾患、そしてESRDは末期腎不全を意味する。