看護実践能力の評価

看護実践能力の評価:欧州全土の一般看護師を対象とした自己評価ツールの開発
概要
有効なヘルスケア提供という世界的な課題に取り組むため、欧州ヘルスケア訓練-資格認定ネットワーク計画[European Healthcare Training and Acceditation Network project]では欧州連合(EU)における看護師の適性、実践能力、技術、経験、および教養の透明性向上を目的としている。比較検討はEU看護師の業務を妨げると認識されているが、今のところはその比較に必要な具体的かつ確実な方法が存在しない。
目的:これは明らかに対処すべき重要な問題であるため、本稿では欧州全土における看護師実践能力の透明性を高め、最終的には看護師の移動性を改善することを目的に、看護師自己評価アンケート-ツールの開発と精神測定検査に関して報告する。
状況[settings]:本プロジェクトはロンドンの看護学校が主導するパートナーシップに基づくものであり、ベルギーとドイツ、ギリシャ、およびスペインから参加した看護やその他の学識者との共同作業である。
方法:看護師の実践能力に関する文献審査の後、108項目から成る登録看護師能力の自己評価アンケートを作成した。このアンケートは、EU加盟国で訓練を受けて資格を獲得し、さらに現在勤務中の看護師の能力に関する情報を得るためのものである。自己報告を基準に看護師としての職能を判断するわけであるが、これは最小限のストレスで最も正確に能力を評価できる方法として推奨されている。このアンケートはEU加盟国の枠組みに基づいて構成されているものの、その作成期間中には看護学教授グループや上級看護師の教育者、上級看護師の管理責任者、および他の学識者による看護能力測定法に関連していると見なされたため、アンケート内容の妥当性を証明する必要があった。
参加者:内科または外科の入院病棟/入院患者部門に属する588名の登録後一般看護師の簡易サンプルが、パートナー国の救急病院で獲得および調査された(英国 n=100、ベルギーn=113、ギリシャ n=95、ドイツ n=150、スペイン n=130)。
結果:クロンバックのアルファ係数と主要因子分析によって示されたように、精神測定検査結果は、アンケートが許容範囲内の信頼性と構成概念上の妥当性を有し、内容の妥当性を一層支持するものであることを示唆している。
結論:今後は看護師がアンケートを利用して能力間の適合性を判断できるようになると予想されるため、これを可能にすることが受入国に求められる。また、従業員の職能レベルを雇い主が把握できるようになるため、EUにおける看護師全体の移動性が大幅に改善することになる。
キーワード:看護師の実践能力;測定方法;自己評価;ツール開発
1. 序論
先進国では看護職員の不足が効果的なヘルスケアを提供する上での課題になっているため、英国(UK)などは海外から積極的に看護師を募集している。欧州連合(EU)には看護資格の相互認定に関する協定があり、加盟国は欠員を他のEU国の従業員で補うことができる。しかし、EU圏内における看護師の移動性を改善することには問題も残っている。看護師の実践能力と技術レベル、および業務経験がEU加盟国間で異なるという事実が十分に立証されておらず、さらに比較を行うための有効な方法が存在しないのである。従って、この課題に取り組むことが最も重要であるため、本稿ではEU全土における看護師能力の透明性向上に貢献することを目的に、看護能力の自己評価ツールを開発および審査した研究を取り上げている。
1.1. 背景
有資格看護師の世界的な不足は先進国と新興国(Buchanら、2003)の両方にとって問題であるため、国際看護師の配置と移動性が依然として国際的なヘルスケア問題に関する議題の中心であり、その上、世界中の保健衛生と福祉を向上させるためのミレニアム開発目標(MDG)に対して、看護師の不足が障害になっているという認識がある(BuchanとCalman、2004)。その結果、EU看護師の配置状況と移動性を対象に調査が行われている。77/453/EEC(欧州委員会、1977)の規制内容にあるように、EU加盟国間における看護資格の相互認定に関しては昔から協定が結ばれているが、倫理指針に反してEU圏内での看護師移住はそれほど多くない。いくつかのEU加盟国は新興国からの看護師募集を継続しており(Aikenら、2004)、実際に、それが新興国に少ない貴重な人材の流出を招き、倫理および道徳上の問題を引き起こしている(Buchanら、2003;Aikenら、2004;BuchanとCalman、2004)。そのため、EU看護師の移動性を改善することができれば、看護師の不足に悩むEU加盟国が、余裕のある他のEU加盟国から看護師を募集するようになるかもしれない。しかし、EUを世界で最も活動的で競争力があり、経済成長を維持する能力を有し、社会的結束が強く、さらに雇用の機会が充実している組織体へと発展させる上では、移動性の改善を政策に合わせて成し遂げる必要がある(リスボン欧州理事会、2000)。

1.2. 欧州ヘルスケアの訓練と資格認定ネットワーク
質の改善とイノベーションの促進を目的とした移行パートナーシップ計画(transitional partnership project)へ出資するEUプログラム、つまりレオナルド・ダ・ヴィンチ団体は(Leonardo、2005)、人員確保という課題に対処するために看護師の移動性改善を目標に定め、欧州全域プロジェクトへの資金提供を通してEUの看護資格、および能力に関連した問題に取り組んでいる。ロンドンのキングス-カレッジ主導のパートナーシップを基軸とする同プロジェクトには、ベルギーとドイツ、ギリシャ、およびスペインから看護学や他分野の学識者が参加しているため(EHTAN、2005)、欧州ヘルスケア訓練-資格認定ネットワーク計画(EHTAN)の目的は、EU看護師の資格認定と実践能力、技術、経験、および教養の透明性を改善することにある(EHTAN、2005:Cowanら、2005a)。EU加盟国間の相違点に関しては今のところ十分に明らかになっていないが、その原因は比較に利用できる具体的な方法や確実な方法がないためであり、これがEU看護師の移動性に対する障害になっているという認識がある。従って、現状を一刻も早く打開しなければならない。
実践能力に基づいた教育と訓練、および評価へのアプローチが国際指針として浮かび上がっており、これによって、技術と労使関係、社会的公正に関わるさまざまな政策がまとまる可能性がある(Gonczi、1994)。看護師に必要な最低限の学力と認定基準に関するEU規制は、域内市場の規制簡素化(SLIM)の繰り返しによって時代遅れであることが明らかになったため(SLIM、1997)、看護教育欧州諮問委員会(ACTN)は実践能力という概念の統一化と、規制改正が必要と判断している(ACTN、1998)。
事実、看護業務評価に対する実践能力ベースのアプローチは、重要な政策として先進諸国で採用されており(McAllister、1998;Chapman、1999)、英国や他の国々では看護の実地訓練が病院ベースの実習システムから、研究ベースのケア促進を視野に入れた高等教育機関へと移行していることが、看護へのより重要な分析的アプローチによって明らかである(Watkins、2000)。しかし、大学は卒業生に自己反省などの素養を身に付けさせることを重視する一方、雇い主(病院)は追加訓練を省くために、既に専門技術をもった卒業生を求めている(Chapman、1999)。その結果として教育者と雇い主間の緊張を和らげる必要性が生じたため、この問題に対処するために実践能力を示す枠組みが誕生したが(Chapman、1999)、ACTN(1998)の勧告内容は以前のままである。既存の能力測定法は国内の看護システムに基づくものであるため、EU加盟国間における看護能力の直接的な比較に用いることができない。また、EU新規加盟国への移住を望む看護師が増加しており、今後はさらに増える可能性があるため、明らかにこの状況に対処する必要がある。従って、本稿ではEUにおける看護能力の自己評価に必要なEHTANアンケート-ツール(EQT)を取り上げ、その開発と精神測定検査について報告する。

2. 方法
2.1. 文献調査
看護では状況の重要性を認識する必要があるためにその業務が複雑であり、さらに人間関係(Gonziら、1993)が看護能力の測定を困難にしている。しかし、看護能力に関しては数多くの文献があり、量的かつ質的な能力測定法がいくつか開発されている(Redfernら、2002)。
量的アプローチ法に関しては、還元主義的であまりに課題指向的であるために(Bartlettら、2000)優しさや交流、意思決定などの能力測定が困難であるという批判が出ており(Bircumshaw、1989;Girot、1993)、際限のない課題が示すように、この方法は望ましくない還元主義を引き起こす可能性がある。その一方で質的測定法は明確さに欠けることがあり、施設間での利用が容易ではないため(Bartlettら、2000)、Redfernら(2002)はこれが単純な能力判断以上に、看護能力の測定を複雑にすると考えている。また、能力判断ツールは業務変更によって無効になることがあり、非言語コミュニケーションなどの目に見えにくい技術に対して感度が低く、さらに文脈変化を対象とせず、継続的な更新と修正そして使用に高い費用がかかる(Redfernら、2002)。客観的臨床能力試験(OSCE)は実施するのに多額の費用がかかり、さらに学生にとっては緊張を要するものである。妥当性に関してはシミュレーションが2番目に良いという意見があるが(Eraut、1994)、人為的条件下における行動が、実際の臨床現場における行動を反映するとは限らない(Redfernら、2002)。
直接的な観察に基づく評価方法を用いると、評価人が主観的な価値判断に陥りやすく(Chapman、1999)、さらに動作が均一性を欠いて制限されたり、あまりに不自然になったりするため(Redfernら、2002;Watsonら、2002)、ある条件下での良好なパフォーマンスが、他の条件下でも示されるという保証はない(Neary、2000)。
その上、効果的な看護業務に必要な対人スキルを測定する上では、看護師と顧客間の交流を観察する必要があるが、そのような交流を観察しやすくすると、測定自体を押し付けがましくて非倫理的および不適切で、実行不可能なものにする恐れがある(Redfernら、2002)。
しかし、現実を反映していないとして多くの評価方法が批判されているにもかかわらず、代替案がほとんど提示されていないのも事実である(Dolan、2003)。

2.2. 自己評価の正当化
上述の障壁を乗り越える方法と、残りの時間と資金、および手段が考慮された結果、自己評価ツールが最も適切で有効であるということに決まった。欧州における生涯学習の発展はリスボン戦略の重要な要素であるため(欧州委員会、2001)、生涯学習の概念は看護業務に不可欠な特徴として、自己評価技術とともに看護業務の骨組みに深くしみ込んでいる(Gopee、2000)。文献によって支持されているこの評価方法は(Cowanら、2005b)、実際にマルチメソッド評価の重要な側面として認識されており、他のアプローチ法に劣らず有効である(Normanら、2002)。そして、学生看護師の臨床能力を評価するための黄金律が存在しない一方で、臨床能力の自己評価が総合的な評価戦略の重要要素を形成するということが、Watsonら(2002)によって示唆されている。現場で使用できる臨床能力関連の効果的な評価ツールはわずかであるため、自己評価を通した徹底的な反省の必要性がBrunt(2002)によって主張されており、能力を示したり判定したりする上では自己反省が基本になるとWay(2002)は示唆している。また、断続的な自己評価は看護師に回想の機会を与えるだけでなく、認識済みの欠点に対処する機会も与えるとWaddell(2001)は述べている。さらに、人々は徹底的な反省を通して意識をコントロールするため(BoydとFales、1983)、ケアの質と正の相関をもつこの反省が、臨床能力評価の有力な方法になるという考えがある(Runciman、1990)。
2.3 概念の操作可能化[Operationalisation of term]
看護業務では知識と能力、技術、価値観、および態度という要素が複雑に交錯しているため、看護職関連の実践能力という定義に関してはほとんど合意が得られていない(Cowanら、2005b)。従って、看護能力を行動と精神のどちらか一方で判断することは全く矛盾していることから、Short(1984)とGonczi(1994)によって説明された「実践能力の全体的概念に基づく定義」の必要性が示唆されている(Cowanら、2005b)。専門的判断を組み込むことによって、この概念化は複雑な活動の構築に影響を与えるとともに、知的業務に必要な知識と技術の異なる性質を結びつけ、さらに倫理と価値観、自己反映的能力を統合し、立派に遂行する方法が一つではない可能性と、状況の重要さを認めるものである(Cowanら、2005b)。その結果として看護能力に関するこの定義は、EHTANプロジェクトの目的に合わせて操作可能化された。
2.4. 看護業務の自己評価に用いるETHANアンケートの開発
文献審査ではEU加盟国の看護能力に関する法定文書と、2004年より前のEU15ヶ国が実施したACTN関連の同文書を調査した結果、実践能力に関する375項目の説明文を含む、計45のプラクティス-ドメイン[practice domain]を確認した(Cowanら、2005a)。本稿で前述したように、実践能力に関するこれらの説明文は、部分的にSLIM(1997)とACTN(1998)の提案に応じたものであるが、オランダ規格[Dutch standards]などのいくつかはそれより前に定められたものであり、これらは看護能力に関するオランダ公衆衛生諮問委員会からの2つの報告結果になっている(Bakkerとle Grand-van Bogard、1992)。

スペイン人の看護師能力は92項目の説明文を含む10のドメインで構成され(ナバラ大学、2002)、ACTNでは26項目の説明文から成る5つのドメイン構成が提案されており(ACTN、1998)、英国の看護・助産師審議会(NMC)は74項目の説明文から成る5つのドメイン基準に基づき(NMC、2002)、オランダの実践能力は81項目から成る7つのドメイン(Bakkerとle Grand-van den Bogard、1992)、高等教育質保証機関(QAAHE)は102項目から成る19ドメイン(QAAHE、2001)で構成されており、これによって一般的な院内看護師の能力基準が定められている(表1)(Cowanら、2005a)。

他の文献からはより複雑な指標も明らかとなり、いくつかは看護麻酔師などを対象にしていてあまりに専門的であった(Cowanら、2005a)。確認したプラクティス-ドメイン[practice domains]のいくつには類似点があり、ほとんど同じ内容になっているところがあったため、実践能力の指標を7つの新規ドメインへ再度割り当てた。ちなみにこれらのドメインは、関連していると考えられる他の文献(Cowanら、2005a)の能力指標を組み入れたものであり、表1では45種類のドメインを示している。ミーティング期間中に新規ドメインの構築を行ったため、最終的な全体構成はすべてのパートナーが同意したものである。新規ドメインは次の通りである:評価―9項目、ケア提供―40項目、コミュニケーション―10項目、健康促進と疾病予防―10項目、自己啓発と専門能力の開発―8項目、専門的および倫理的行動―16項目、研究開発―6項目、チームワーク―9項目。
そして、法定文書(表1)から得た原案の枠組みを組み合わせ、さらに他の調査文献(Cowanら、2005a)の資料に基づいた上で、看護能力の自己評価アンケートを作成した。
EQT(付録A)は108項目に対する答えを求め、EU看護師の自己評価情報を引き出すものである。自己報告を基準に看護師としての職能を判断するわけであるが、これは最小限のストレスで最も正確に能力を評価できる方法として推奨されている(Barlettら、2000)。たとえば「評価」ドメインでは、看護師に対して最初に「患者やその親族とともに、どのくらいの頻度で完全かつ正確な(身体的、心理的および社会的領域を対象とする)臨床評価を行いますか」という質問を行い、看護師は「全くない」「時折」または「いつも」という形で答えることになる。
2.5. サンプル
5つのパートナー国でデータ収集前に適切な規制承認を得ることができた。そして、内科または外科の入院患者病棟に所属する、計588名の登録一般看護師から同意を得た上で、EQTを使用したパートナー国の救急病院で彼らの簡易サンプルを調査した(英国 n=100、ベルギー n=113、ギリシャn=95、ドイツ n=150、スペイン n=130)。ちなみに、この調査は2004年の大半を通して行われたものである。
看護師の管理人が各担当部門へアンケートを配布したが、その際には研究チームへの返却を容易にするために返信用封筒も渡したため、全体で40%の回答率を得ることができた。そして、ツールの因子分析には変量(n=108)の少なくとも4倍以上の回答者サンプルが必要であることを考慮し、回答者588名の最終サンプルは精神測定検査に適当であると判断した(Breakwellら、2000)。ちなみに、回答者の平均的な有資格期間は7.37年、標準偏差は4.37年であった。

3. 結果:精神測定の特質
3.1. 内容の妥当性
開発期間中、EU看護能力に関する文書から得たEQTの枠組みは、看護能力測定法の評価経験をもつ5人の看護学教授と5人の看護教員、6人の上級研究員、そして他分野の学識者たちがさまざまな角度から考察し、さらに審査と再審査、および評価を行った。この過程では評価尺度が測定向きの特徴(看護能力)に関連していると想定したため、その結果としてツールの内容や「表面的」妥当性を確認することができた。そしてEQTをパートナー国の言語(フラマン語、ドイツ語、ギリシャ語、スペイン語)へ翻訳した後、今度はそれを英語へと訳したが、質問の意味が全く変わってしまうようなことはなかった。
3.2. 構成概念妥当性
クロンバックのアルファ係数が示す項目間の相関度調査や、因子分析(表2)を通してEQT構成概念の妥当性確認に取り掛かった。そして、EQTの基本的な概念構造を明らかにするため、主要因子分析(探索的)に着手した。項目間の相関関係を調査すると、因子分析でEQTの構成概念妥当性に関する情報を得られるが、共通する特徴を測定したり、変数のクラスターを識別したりする上で、項目がどれほど有用であるかを調査すると、内容の妥当性をより詳しく知ることもできる。EQTの計107項目は有意な因子負荷量(>0.4)を示したため、主要因子分析に基づいて21の構成要素(ドメイン)に組み込んだ(カイザーの正規化を伴うバリマックス回転)。組み込まれなかった第15項目(ケア提供)は0.355の最大因子負荷量を示していた。表2では単一の構成要素に対して、3つ以上の分類先を持つ項目を示している。

3.3. 信頼性:内部整合性
EQTの信頼性に関する調査では、構成概念妥当化にも適した技術「クロンバックのアルファ係数の算出」を通して内部整合性の測定を行い(Breakwellら、2000)、複合データセットの調査前には、各パートナー国から得たデータセットを調査した。この方法では各国の整合性スコアが不十分なものになるため、許容スコアでマスクすることが不可能となる。

表4では、すべてのパートナー国から得られた複合データのクロンバック-アルファ係数を示している。8つのプラクティス-ドメインにおける計40の値では、スペインのデータセットに含まれる2つを除くすべてが0.7を超えていたため、これは他のパートナー国とスペインのプラクティス-ドメインの大部分における、ツールの十分な内部整合性を示唆している。さらに、アンケートを対象としたスペインのクロンバック-アルファ係数は許容可能な0.961であった。パートナー国で得られた複合データセットのクロンバック-アルファ係数は、そのすべてが0.7を超えていたため、これは十分な内部整合性を示している(表4)。
看護師が報告の際に利用する頻度の例は、EQT項目で説明されている機能を果たすため、表5では5ヶ国のドメインに基づいて実践能力の平均スコアを示している。「全くない」「時折」「大抵の場合」または「いつも」という答えに対してはそれぞれに1点から4点を与え、その後に平均スコアを算出することになる。全体の平均値は研究開発で最も低く、ケア提供とコミュニケーションのドメインで一番高かった。
3.4. 制限
利用可能なデータ量を増やすためには、より多くの作業に着手する必要があることから、EQTに関しては25カ国のEU加盟国で採用することができる。また、看護能力測定の「黄金律」ツールというものは存在しないため(Normanら、2002 IJNS)、特にEU全体での利用に関しては、そのような測定との相関によるEQT基準の妥当性確認が不可能であった。その上、資源と時間という制約によって、時間や異なる評価者間、または並行テスト間で妥当性を評価することもできなかった。事実、並行テストは存在すらしていない。
EQTは対象となる職務能力の測定ツールであることから、その国のさまざまな医療業務を反映できる可能性がある。しかし、EU看護師の移動性促進に関しては、業務からその情報をさらに得ることができるため、さまざまな業務を把握することも必要となる。
ロンドンでのデータ収集期間中に英国看護師記入のアンケート受け取りで問題が生じたが、これは非EU諸国で訓練を受けた多くの外国人看護師が、英国で雇用されている状況を反映している。そして、忙しいスケジュールの合間に長くて退屈なアンケートを記入することは、有資格看護師にとって非常に面倒であることが原因で、この問題はさらに悪化してしまった。実際にEQTの長さに関しては、すべてのパートナー国で看護師からの苦情が出ている。しかし、一般看護の複雑性はツールに反映されており、さらに繰り返しや不必要な項目に対する批判の声はなかった。

考察
精神測定検査ではクロンバックのアルファ係数が示すように、ツール内全項目の均一性評価と、項目間の相関度調査によって、EQTに許容可能な信頼性があるという可能性が明らかとなり、また、クロンバック-アルファ検査結果もある程度の構成概念妥当性を示唆するものであった。その上、開発過程ではツールが看護能力測定に関連していると考えられたため、これによってツール内容の妥当性が証明されることになった。また、主要因子分析結果もEQTの構成概念妥当性と、内容妥当性をさらに支持するものであった。

看護業務では知識と能力、技術、価値観、および態度という要素が複雑に交錯しているため、看護職関連の実践能力という定義に関してはほとんど合意が得られておらず(Redfernら、2002;Cowanら、2005b)、実際に、この複雑性はEQTの主要因子分析に反映されている。いくつかの構成要素は1項目のみを含むものであるため、それらの項目はそれ自体の新規ドメインや、その他の項目から成る新規ドメインに属している可能性がある。従って、同じ概念を取り入れた新規項目の追加は、EQTを長くするということを代償に、「簡潔」な構成要素の信頼性改善を促進するだろう。いくつかの構成要素は1つ以上のドメインと互換できるため、異なるドメインに割り当てた項目間の類似点を反映するかもしれない。実際に項目18と22(ケア提供)、および項目60-67(健康増進)に関してはすべてを構成要素3へ組み込んだため(表5)、たとえば患者とのケア計画立案を提唱している項目18と、健康増進のための患者との意見交換を提唱する項目60との間にある類似点に関しては、その存在を確認することできる。さらに、項目の中には1つ以上の構成要素に組み込んだものがある。従って、合理的なアプローチ法は最も高い因子負荷スコアに基づいて、これらの項目を構成要素(ドメイン)へ割り当てることなのかもしれない。しかし、どのドメインにこれらの項目が属するのかを確かめるためには、さらなる研究が必要であることを我々は主張する。
EQTの長さに関しては苦情が出ているものの、因子分析では一つの項目(項目15:ケア提供)のみでツールを縮小した。「治療計画の一環として安全に臨調検査を実施すること」は優良な看護ケアを促進させるため、我々はこの項目が依然として妥当性という課題に直面していると考える。また、この項目が有意な因子負荷スコア「>0.4」よりもわずかに小さいスコアしか与えないことは注目すべきである。能力測定はあまりに長いと面倒なものになり、逆に短すぎると包括的ではなくなってしまうため、そのバランスを取ることが重要になる。従って、EU看護師の能力を測定するのに十分な範囲を持つツールに関しては、縮小化が適切ではないと我々は示唆している。
EHTANプロジェクト-チームは現在のところ、他のEU加盟国への移住を望むEU看護師を対象にした、EQTのWebバージョンを開発している。そのため、EU看護師はオンラインで自身の実践能力を自己評価し、現在働いている国と移住先の国における既定スコアと、自身の平均的な能力スコアを比較できるようになるだろう。そしてこれによって、さらなる能力開発を見込める、看護レベルの高い職場が明らかとなる。また、移住看護師の将来の雇い主も、移住看護師と母国で訓練を受けた看護師との間にある能力レベルの差を調べる上で、ウェブサイトを利用できるようになるかもしれない。

5. 結論
EHTANプロジェクトにはいくつかの制限があるため、次の問題点を考慮に入れなければならない。一つ目は、複雑な看護業務はその評価が難しいことであり、二つ目は、看護能力の定義と測定法をめぐる意見の不一致がツールの妥当化を妨げること、そして三つ目は、ツール保証の必要性がEU全体で高まっているものの、能力測定法の普及率に大きな変化が見られないことである。四つ目は、明らかに有用であるにもかかわらず、精神測定テストで成果を挙げていないツールがあるため、その項目を維持することである。
国際的な利用に適した看護能力の定義については、依然として合意に至っていない状況である。また、EU全体で利用できるデータを追加する必要があるため、これらの制限を考慮すると、最初の精神測定テスト結果は期待できるものであるが、さらなるテストが要求されることに変わりはない。実際に、妥当性および信頼性テストの全タイプを含むアンケート-ツールの精神測定評価は、さまざまな方法を利用する累積的なプロセスであるため、ツールが使用される限り存続する可能性がある。今後は看護師が情報に基づいて、実践能力間の一致性を判断することがさらに可能となり、また、受入国と雇い主が従業員の能力レベルの差異を把握できるようになると予想される。その一方で本稿で前述したように、EU加盟国間で看護スタッフの実践能力と技能レベル、業務経験の違いを比較する方法は今のところ存在しないため、この課題に対しては可能な限り早く対処する必要がある。

付録A
アンケート
概要
あなたは有資格看護師であるため、この試験に参加するよう招かれました。本試験の目的はEU加盟国間で看護師の実践能力と技能レベル、方法、および業務経験を比較することにあります。比較に利用できる方法が今のところ存在しないため、これらの差異に関する情報は十分に記録されていません。欧州看護スタッフの実践能力と専門技術レベルを比較、および評価する方法が開発されれば、欧州諸国間で看護スタッフを比較することが可能になるため、適格性と経歴、資格証明書の作成および透明性の評価を通して、看護情報を他国の医療システムへ組み込むことが容易になるでしょう。次の項目ではあなたが現在の職場において、どれくらいの頻度で業務を遂行しているのかを尋ねます。可能な限り正直に自身を評価し、次の該当欄に印を付けてください。
N=全くない、O=時折、U=大抵の場合、A=いつも
どれくらいの頻度で、
1. 患者やその親族とともに完全かつ正確な臨床評価(身体、心理、および社会的領域を対象とするもの)を行いますか。
2. 外見的に健康な人の健康状態を正確に評価しますか。
3. 患者の社会的環境を正確に評価しますか。
4. 患者の家庭環境における健康問題を正確に認識しますか。
5. 患者の社会的背景と家庭事情を正確に評価しますか。
6. 1っ以上の健康障害(身体的、心理的、社会的、または文化的なもの)を引き起こす危険性のある患者を正確に特定しますか。
7. 予防的な健康管理措置の利益を受けられるかもしれない患者を正確に特定しますか。
8. 予防的な健康管理措置の有効性を正確に評価しますか。
9. 患者中心の目標を反映しているケア目的を認識しますか。
10. 組織の方針に沿い、有用な資源を用いてケア活動を計画しますか。
11. 適切なケア計画を立てますか。
12. 患者の問題に適した介入を選択しますか。
13. 独自に適切な介入を実行しますか。
14. 他のケア提供者と共同で適切な介入を実行しますか。
15. 治療計画の一環として(カテーテル挿入などの)臨床手順を安全に実行しますか。
16. 患者個人のニーズに応えるため、計画を効率的に更新しますか。
17. 患者のニーズに応えるため、治療介入を適切に調整しますか。
18. 自身の患者と一緒に適切なケア計画を立てますか。
19. 適切と判断した場合には、予測できない事態に対処するためにケア業務を調整しますか。
20. ケア手順の効果的な評価を実施しますか。
21. 必要があれば、ケア手順の評価に基づいてケア計画を再設計しますか。
22. 必要ならばホームケア継続の可能性と、患者の財産を正確に評価しますか。
23. 患者の退院計画を立てますか。
24. 退院計画を効果的に実行しますか。
25. 患者に対して、さまざまな診断や介入に対する心構えを適切に準備させますか。
26. 院内感染を防ぐための活動を正確に実施しますか。
27. さまざまな検査の説明を患者に対して適切に行いますか。
28. 検査に適した資源(機器、使い捨て用品、薬品など)を選択および準備しますか。
29. 検査が行われる環境を適切に準備しますか。
30. プロトコルに従って処置を行いますか。
31. 患者の身体的および心理的な安全を保証しますか。
32. 検査中の合併症から患者を保護するため、機敏に予防措置を講じますか。
33. 行動や出来事を正確に記録しますか。
34. 実施した検査の有効性評価を目的に、患者の状態を定期的に追跡調査しますか。
35. 医学教育を正確に行います。
36. 発症性の高い患者に対して適切なケアを提供しますか。
37. 悲嘆に暮れる患者に繊細なケアを提供しますか。
38. 高齢患者に安全ケアを提供しますか。
39. 末期患者向けの緩和ケアを適切に行いますか。
40. 痛みに苦しむ患者向けの治療的処置を実行しますか。
41. 緊急状況でケアを効率的に提供しますか。
42. 患者の栄養要求を十分に満たしますか。
43. 患者の衛生状態を良好に保ちますか。
44. 適切な薬剤投与に必要な技術を示しますか。
45. 効率的な患者移動に必要な技術を示しますか。
46. 患者向けの心理的ケア技術を示しますか。
47. 患者に対して尊敬と共感を持ち、効率的に活動とプロトコル、および検査を行いますか。
48. 患者との治療的関係を開始、構築、および維持しますか。
49. 看護ケアの質を保証するために有効な措置を取りますか。
50. コミュニケーションを円滑にするために環境を促進しますか。
51. 患者やその親族、および来訪者と効果的にコミュニケーションを取りますか。
52. 意思の疎通が困難な患者とコミュニケーションをうまく取りますか。
53. 新しい情報やコミュニケーション技術を活用しますか。
54. ケアに関して患者が理解しているかどうかを確かめますか。
55. 読みやすく、よく構成された簡潔な看護書類を仕上げますか。
56. 系統立った正確な方法で経口剤を渡しますか。
57. 別分野の専門看護師と効果的にコミュニケーションを取りますか。
58. 安全上の懸念を関連機関に効果的に伝えますか。
59. 患者情報を他者に効果的に知らせますか。
60. リスク予防と健康増進の違いに関して、患者にアドバイスを与えますか。
61. 健康に対する環境の影響を正確に認識しますか。
62. 健康問題に関する患者の知識を正確に評価しますか。
63. 患者の理解を促進し、選択と個人の好みを認める形で健康情報を提供しますか。
64. 健康増進のアドバイスに対する患者の要求を認識しようと努めますか。
65. 環境上の危険を特定し、可能であればそれらを取り除いたり防いだりしますか。
66. 必要であれば患者とその家族に対して、生活スタイルを変えるよう促しますか。
67. 患者の独立生活技能の発達や維持に関する、サポートや教育を提供しますか。
68. 臨床リスクを認識しますか。
69. 臨床リスクを管理するために適切な処置を取りますか。
70. 他のスタッフへの教育に関与しますか。
71. 自身の知識と技能を評価しますか。
72. 知識を得るためにさまざまな学習方法を効果的に利用しますか。
73. 技能を獲得するためにさまざまな学習方法を効果的に利用しますか。
74. 職場の積極的な学習環境に貢献しますか。
75. 回想によって自身の専門的技術の開発ニーズを特定しますか。
76. 生涯学習によって専門的技術の開発ニーズを促進しますか。
77. 継続的な訓練の中で専門的技術の開発機会を求めますか。
78. 他の医療従事者の評価に関与しますか。
79. 個人や団体の価値観、習慣と意見を尊重していますか。
80. 患者の権利に基づいて専門的技能を開発しますか。
81. 患者の権利に対する潜在的な侵害行為を正確に認識していますか。
82. 患者の権利に対する侵害行為を正確に特定した上で、事態を解決するために適切な措置を取りますか。
83. 看護の道徳法則に従ってケアを提供しますか。
84. 自身の判断と行動に対して責任を取りますか。
85. 看護ケアの倫理的ジレンマを正確に認識していますか。
86. 専門的業務基準への意識を維持していますか。
87. 患者情報の守秘義務を保持していますか。
88. 患者の尊厳を守りますか。
89. 患者のプライバシーを守りますか。
90. 文化的影響を考慮して提供した看護ケアの根拠を明確にしますか。
91. 自身の能力の限界を認識し、必要であれば他のスタッフに助けを求めますか。
92. 自身の役割の範囲を認識し、必要であれば他のスタッフに助けを求めますか。
93. 自身の職務のコスト面と利益面を考慮しますか。
94. 業務に必要な研究データを慎重に評価しますか。
95. ケア計画を慎重に評価しますか。
96. 研究活動を行いますか。
97. 研究結果(研究ベースの情報)に基づいて業務を遂行しますか。
98. 専門能力関連の研究開発に関与しますか。
99. 診療監査に関与しますか。
100. 学際的チームメンバーと協力しますか。
101. ケアチームの一端としてケア計画を評価しますか。
102. 異なるチームメンバーの考え方に配慮しますか。
103. 他者の意見を尊重すると同時に、自身の考えを明確に示しますか。
104. 同僚間での専門的議論を促しますか。
105. 関連情報を体系的に記録しますか。
106. 他の専門家の実践能力を認識しますか。
107. 他の専門家の役割を認識しますか。
108. 知識と能力を踏まえて、他者に仕事を効果的に任せますか。