血管イベント予測におけるC反応性蛋白(CRP)、可溶性の炎症バイオマーカーの有用性評価

最初の心血管イベントを予測する上でC反応性蛋白(CRP)、および他の可溶性の炎症バイオマーカーのレベルを評価することに関しては、その有用性について議論が展開されている。2003年に疾病対策予防センターと米国心臓協会(AHA)は、心血管リスクの全体的評価の一環としてCRPを医師の判断で使用し得ると結論付けた。1 2007年には欧州心臓病学会が、心血管リスク予測の標準モデルに対するCRP評価導入を「時期尚早」と述べており、2 2009年にはカナダ循環器学会が、後の10年間における心血管イベントの予測上の発生率が10%から20%未満のものを「中程度リスク」と定義し、同リスク下にある患者のCRP評価を推奨している。3 さらに2009年には全米臨床生化学アカデミーの検査実施ガイドラインにおいても、心血管イベントの中程度リスクを抱える患者の層別化でCRP値測定が有益になり得ると結論付けられた。しかし、フィブリノゲンと他の炎症バイオマーカーの測定に関しては、その有用性のエビデンスが確定的でないと考えられている。4 米国心臓病学会財団とAHAの2010年度実施ガイドライン協議会の報告では、中程度リスクの患者に対するCRP値評価が合理的とある。5 同バイオマーカーに関しては、国立心肺血液研究所の心血管リスク低下に関する統合ガイドラインの一部となる、コレステロールに関する最新ガイドライン(成人治療パネル[ATP]IV)などのように、更なるガイドラインが出現すると期待されている。6
我々は52件の前向きコホート試験を対象に、ベースライン時に心血管疾患の既往歴を持たない246,669人の各記録を分析した。その目的は、標準リスクスコアで使用されるリスク因子の評価に対して、循環中の炎症バイオマーカーの評価を追加した場合でも、最初の心血管イベントの予測改善を定量化することにある。我々の第一焦点はCRP値とフィブリノゲン値であり、第二焦点は白血球数とアルブミン値であった(これらはすべて急性期反応物質である)。


方法
試験管理
新生リスク因子の関連性[the Emerging Risk Factors Collaboration]はその詳細が既に示されている。7 今回の試験は共同の独立調整センターによって計画および実施され、英国ケンブリッジシャーの倫理審査委員会によって認可された。報告書作成委員会の最初のメンバー3人と最後のメンバー1人が、データと分析の正確性を保証し、公表予定の論文を提出した。調整センターに対して付帯条件なしの教育助成金援助を提供したグラクソスミスクラインは、データの収集と分析、および報告に関与していない。
試験コホート
今回の分析では次の基準を満たす前向きコホート試験のみを対象とした。
ベースライン時に心血管疾患(初回検査時に各試験で定義された心筋梗塞狭心症や発作など)の既往歴を持たない参加者を含む
明確に定義された基準によって評価された原因別死亡または血管イベント(非致死性心筋梗塞または発作)あるいはその両方をフォローアップ中に記録した
1年以上のフォローアップデータを記録した
その上、CRPフィブリノゲン、またはその両方のベースライン値データを取得し、さらに年齢と性別、喫煙状況、糖尿病の既往歴、収縮期血圧、総および高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値(すわわち、臨床リスクの標準スコアに含まれる「一般的なリスク因子」8)に関する情報を収集した試験のみを分析対象とした。
報告済みの分析で使用したいくつかのデータが、試験参加者の一部のみに対して適用可能であった。それらのデータは白血球数とアルブミン値、直接測定された低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール値、社会経済学的因子、および心血管疾患の家族歴に関するものである。致死性アウトカムを登録する上では、すべての対象試験が国際疾病分類第8、9、および10版を利用して最低でも3桁への符号化を行い、死亡証明書に基づいて確認作業を行っている。また、46件の試験では診療記録や検視所見、その他の補助的な情報も利用していた。全試験が世界保健機関の基準(または同様のもの)に基づく心筋梗塞の定義と、臨床検査結果と脳の画像診断所見に基づいた発作の定義を用いた。

標準予測モデルにおけるリスク因子として肥満度指数と心血管疾患の家族歴あるいはその両方を測定した分析と(補足用付録の表S7)、過剰なCRPまたはフィブリノゲン値を除外した分析、および試験開始時に脂質レベルや血圧を下げる薬剤を服用していたとされる参加者を除外した分析では、CRPまたはフィブリノゲン情報を追加することの有用性がほぼ同じであった(補足用付録の図.S3)。また。スタチン服用および非服用参加者の心血管イベントを予測する上では、総コレステロール値の情報もほぼ同じように効果的であった(相互作用 P=0.74)。
CRPフィブリノゲン、および1つ以上の他の炎症バイオマーカーの共同情報は、参加者の約3分の1のみで適用可能であったが、白血球数またはアルブミン値を分析に追加した際に確認したC指数の改善度は、CRPまたはフィブリノゲンの追加時に確認したものと著しく異なるものではなかった(表2)。D測定を用いた分析では、前述の結果と質的に類似する結果を確認した(補足用付録の表S8)。一般的なリスク因子とCRPまたはフィブリノゲンの測定値を含むモデルから、1度に1つのリスク因子を除外した分析では、CRPまたはフィブリノゲンの値を除外した結果が、総コレステロールまたはHDLコレステロールの値を除外した結果と大まかに似ていた(補足用付録の図.S4)。
臨床的に関連するサブグループを対象とした評価の有用性
CRPまたはフィブリノゲンに関する情報の使用は、男性の心血管リスク区別を改善したが、女性では改善しなかった(相互作用P≤0.001)。さらにCRPに関してはその予測値が非喫煙者よりも習慣的な喫煙者のほうで高くなっていた(相互作用P<0.001)(図.2)。臨床的に関連する他のサブグループ間では、心血管リスク区別に有意差がなかった(補足用の付録における図.2と図.S3)。CRPおよびフィブリノゲン値の情報を用いた場合の性別による心血管リスク区別改善度の異なりは、喫煙状況に基づいて参加者を層別化した(または喫煙者を除外した)後続の分析でも存続していた。さらに、ベースライン時にホルモン治療を受けていたとされる女性を除外した分析においても、同治療に関する情報は不完全であるが、性別間で改善度の異なりが確認された。
我々は性別に特異的な所見をさらに調査するため、男性と女性の両方を対象に少なくとも10年のフォローアップを行った15件の試験(男性19,467名でその心血管イベントが2784件、および女性25,157名でその心血管イベントが2323件)のみから得たデータを用いて再分類を評価した。これらの試験では、男性のCRP測定による再分類の最終的な改善率が1.24%(95%信頼区間[CI]、-0.20~2.69;P=0.09)であり、女性の場合は0.36%(95%CI、-0,70~1.42;P=0.51)であった。性別による効果修飾は、HDLコレステロールまたは収縮期血圧の測定において確認されなかった(補足用付録の図.S5)。同様に、3つの各年齢層(40歳から60歳未満、60歳から70歳未満、および70歳以上;p=0.62)の参加者を対象とした試験データのみを基に、CRPまたはフィブリノゲンの分析を実施した際にも、年齢による効果修飾のエビデンスは存在しなかった(補足用付録の図.S6)。
疾病予防の可能性に関する評価
我々は心血管イベントのリスクが後の10年間で10%から20%未満の人々を対象に、標的CRPまたはフィブリノゲンの評価をモデリングした。40歳以上の成人100,000人の集団を対象に、欧州標準集団の年齢プロファイルに類似する同プロファイルと、今回の試験で確認された年齢特異的および性別特異的な心血管イベントに同一と推測される同イベントの発生率を用いて(補足用付録を参照)、従来のリスク因子のみを基にリスクを計測すると、後の10年間で10%から20%未満の予測上の心血管疾患リスクを呈するとして、15,025人を最初に分類できると考えられる(図.3)。スタチン治療への割り当てがATPIIIガイドライン15に基づいて行われると仮定すると(つまり、20%以上の予測リスクを呈し、10年間の予測リスクとは無関係に糖尿病などのリスク因子を有する人)、中程度リスクの参加者13,199名は現時点において、スタチン治療を受けるための基準を満たしていないことになる。この参加者13,199名に対してCRPの追加評価を行うと、690名(5.2%)は20%以上の予測リスクへ再分類され、そのうちの約151名は10年以内に心血管イベントを引き起こすと考えられる。また、同一の参加者に対してフィブリノゲンの追加評価を行った場合には、625名(4.7%)が20%以上の予測リスクへ再分類され、そのうちの約134名が10年以内に心血管イベントを呈すると予想される。20%以上の予測リスクを抱えるとして再分類された人に対して、ATPIII基準に基づいたスタチン療法を開始すると仮定した場合、CRPを標的としたそのような評価を行えば、10年間でさらに約30件(つまり、0.20×151)の心血管イベントを防げる可能性がある。また、フィブリノゲンで同様の評価を行った場合には、10年間で約27件(つまり、0.20×134)の心血管イベントを未然に防げる可能性がある。
すなわち、心血管イベントの中程度リスクを抱える人々にCRP評価を行えば、スタチン療法をさらに約23人(つまり、5.2%×440)に対して開始した結果として、同評価を受けた440人(つまり、13,199÷30)につき10年間で1件のイベント発生を防止できる可能性がある。また、これと同様にフィブリノゲン評価を行った場合には、490人(つまり、13,199÷27)につき1件を未然に防げる可能性がある。一方、カナダ3と英国16のガイドラインで推奨されている通りに、20%以上の予測リスクを抱える人のみを対象にスタチン療法を開始した場合には、CRP評価を行うことによって、中程度リスクを抱える(同評価を受けた)約360人につき1件の心血管イベントをさらに防げる可能性がある(補足用付録の図.S7)。そのような改善が男性のみに限られていることが、後の分析で明らかになった場合には、CRP値を評価された中程度リスク下の男性約390人につき、1件の心血管イベント発生が防止される可能性を意味する(これと同様に女性のみを対象にした場合には、740名につき1件が防止される可能性がある)。

考察
52件の前向きコホート試験から得た個々の参加者データから成る分析において、我々は最初の心血管イベントのリスク予測で用いた標準リスク因子に対して、CRPまたはフィブリノゲンに関する情報を追加することの有用性を審査した。そして次に、従来のリスク因子のみを用いた初回スクリーニングによって中程度のリスク(10年間における10%から20%未満の予測上のリスク)下にあると判断された人々のCRP、またはフィブリノゲンを評価するシナリオを構築した。仮に炎症バイオマーカーのそのような測定が、ATP-IIIガイドラインの推奨に基づくスタチン療法の開始と連動している場合には、15 約23人の追加対象者に対するスタチン療法開始の結果として、CRP値を評価した約440人、またはフィブリノゲン値を評価した約490人につき、10年間で1件の余分な心血管疾患アウトカムを防げることが、我々のデータによって示唆される。CRP値とフィブリノゲン値の両方を対象とした分析結果は、どちらかのバイオマーカーを単独使用した場合のものと大まかに似ていた。
我々の主要モデルを考慮すると、CRPまたはフィブリノゲンの評価は、集団サブグループにおける心血管イベントに関して、同様のリスク予測を与える可能性がある。しかし、探索的な分析による結果は、これらのバイオマーカーによるリスク区別が男性のみで改善することを示唆している。我々はCRPフィブリノゲンを含む多くの因子間における相互作用を調査したことから、この結果は少なくともある程度までは偶然による影響を受けている可能性があるが、現時点ではそれを十分に説明できない。従って、同結果の解釈は慎重に行う必要がある。その一方、後の分析で同じ結果を確認できた場合には、中等度のリスク下にある男性のみを対象としたCRPまたはフィブリノゲンの評価が、スクリーニングの効率を高めることを意味する。
冠動脈性心疾患と心臓発作のアウトカム(転帰)が同様のリスク因子と治療に関連していることから、最近開発されたリスク予測スコアではこれらのアウトカムを組み合わせる傾向にある。そのため、我々の試験では主要アウトカムを(致死性または非致死性の冠動脈性心疾患あるいは心臓発作と定義した)心血管イベントと設定した。しかし、リスクスコアによっては冠動脈性心疾患17のみに関連しているものや、心臓発作のみに関連しているものがある。18 我々の試験結果は、選択アウトカムがすべての心血管イベントあるいは単に冠動脈性心疾患イベントのみを含むのかどうかに依存して、予測におけるリスク因子の有用性が著しく異なることを確認するものである。さらに、心発作のみを予測するリスクスコアは、本稿の対象外となる他のリスク因子、例えば心房細動などに関与している可能性がある。18
同試験の強度と潜在的限界は配慮に値する。16ヵ国の集団を対象とした我々の分析では、リスクを再分類および区別するための複数の方法において、それらの結果が広く一致していることが明らかとなった。一般的な10年期間と標準の臨床的リスクカテゴリーを採用したが、我々はそのような再分類分析が、期間とリスクカテゴリーの重要な選択によって大きく左右されることを認める。試験間における炎症バイオマーカーレベルの異なりは、我々の結果の不均一性にほとんど影響しておらず、その不均一性は主にコホートにおける年齢幅の違いに起因するものであった。スタチン使用に関する情報が不完全であったことから、そのことによって、アウトカムに対するリスク因子またはリスクモデルの影響度評価が左右されたかもしれない。我々はすべての適格者がスタチン投与を受けると仮定したため、同モデルはスタチンの潜在的有用性を過大評価している可能性がある。その一方、仮にそれほど保守的でないモデル仮定、例えばより効果的なスタチン投与法や、12,19 生涯リスク評価などのより長い時間枠を設定した場合には、本分析で評価された臨床効果よりも少し高いものが示されることだろう。しかしそれでも、この試験から得られた結果は、そのようなシナリオのモデリングに寄与するものである。
他のいくつかの結果に関しては更なる調査を必要とする。炎症バイオマーカーの測定では、コスト効率24,25と実用性、臨床的有益性を考慮し、(画像バイオマーカーを含む)他の新生バイオマーカー4,5,20-23を使用して比較を行わなければならない。26 ここで調査したバイオマーカーと、複数の主な非血管性疾患および心血管疾患のリスクとの間で、予測上の関連性が既に確認されていることから、27-29 更なる調査を実施し、様々な慢性疾患のスクリーニング用バイオマーカーに関してその有用性を判断する必要がある。30
最後に我々は、既存の心血管疾患を呈していない人々を対象とした従来の心血管リスク予測モデルに対してCRP値、またはフィブリノゲン値の情報を追加することの有益性を調査するため、52件のコホート試験で得られた個々の記録を分析した。その結果、現行の治療ガイドラインに基づき、一般的なリスク因子のみの初期スクリーニングを行った場合、心血管イベントの中程度リスクを抱える人々のCRPまたはフィブリノゲンを追加評価すれば、この評価を受けた400~500人につき10年間で1件の追加イベントを未然に防げる可能性が明らかとなった。

表1. ベースライン時の特徴と、心血管疾患の初回発症ハザード比
プラス-マイナスの記号は平均±SD。C反応性蛋白に関するデータは38件の試験から得られたものであり、これらの試験では参加者13,568名がフォローアップ中に初めて心血管疾患アウトカムを呈した。また、フィブリノゲンに関するデータは40件の試験から得られたものであり、同試験では参加者12,021名がフォローアップ中に初めて心血管疾患アウトカムを呈した。ダッシュ記号は、使用されたモデルが各マーカー情報の最大化を目的に2つの異なるデータセットに基づくものであったことから、要約統計量がCRPまたはフィブリノゲンのどちらにも適用できないことを示している。CRPはC反応性蛋白を意味する。
ハザード比に関しては、測定値の1SD増加分当たり、または関連性のある対照カテゴリーと比較して計測した。必要に応じて、年齢と性別、喫煙状況、収縮期血圧、糖尿病状態、総コレステロール値、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値、およびC反応性蛋白値やフィブリノゲン値に基づいてハザード比を調節した。
性別に基づくハザード比は利用不可能であるが(NA)、その原因はこれらのモデルが性別によって層別化されているからである。

図1. 非脂質に基づくモデルへ脂質マーカーとC反応性蛋白またはフィブリノゲンに関する情報を追加した後におけるC指数の変化
非脂質モデルは性別によって層別化された、年齢と収縮期血圧、喫煙状況と糖尿病状態を含むリスクスコアを意味する。CIは信頼区間を意味し、CRPはC反応性蛋白、HDLは高比重リポ蛋白である。

表2. 一般的なリスク因子を含むモデルへ、炎症バイオマーカー情報を追加した後におけるC指数の変化
一般的なリスク因子には、年齢と収縮期血圧、喫煙状況と糖尿病状態、総およびHDLコレステロール値が含まれる。「参照(reference)」は比較モデルの引用を示している。CRPはC反応性蛋白、CVDは心血管疾患を意味する。
フィブリノゲンを用いたモデルへのlogeCRP追加の比較、P=0.003。

図2.  サブグループに基づいて一般的なリスク因子を用いたモデルに対し、C反応性蛋白またはフィブリノゲンの情報を追加した場合のC指数の変化
P値はサブグループ間におけるC指数変化の差異を表している。エラーバーは95%信頼区間を意味する。各々の比較を目的に、全サブグループ値の情報を用いた試験のみを採用した(従って、サブグループの総数が必ずしも全体の総数に等しいとは限らない)。採用した試験のすべてが、全サブグループ値の完全な情報を有していたわけではないため、サブグループ間の比較(例、男性 対 女性)は、試験間の差により信頼性に欠ける可能性がある。「10年間における予測上のCVDリスク」は、フラミンガム-リスクスコア2008年版の基準に基づいて計測された、10年間における予測上の心血管疾患イベントを示している。

図3. 最初に心血管リスク因子のみの検査を受け、その次にC反応性蛋白またはフィブリノゲンの検査を受けた100,000人当たりの再分類モデリング
再分類は一般的なリスク因子とCRP値(22件の試験で参加者72,574名)またはフィブリノゲン値(27件の試験で参加者83,061名)の完全な情報データに基づく。成人治療パネル[ATP]IIIガイドラインに従うと、中程度リスクグループの1826人(糖尿病患者など)のみに治療が推奨され、同グループの13,199人が現時点でスタチン治療に不適格とされる。モデリングの詳細に関しては補足用付録を参照のこと。CVDは心血管疾患を意味する。