欧州大陸諸国(ドイツやフランスなど)の社会保険制度


フランス、ドイツをはじめとする欧州大陸諸国には社会保険方式を採用している国が多いです。社会保険方式であるから基本的な枠組みは日本とほぼ同じですが、国によって運営方式、保険料負担、給付内容・給付方法などに多少相違があります。

社会保険方式を採用する国の医療提供体制は原則的に自由開業ですが、診療所と病院の機能が明確に区分されているなど、日本とはかなり様相が異なります。ドイツの一部の病院は外来診療を行うようになりましたが、欧州大陸諸国では病院は専門的治療のための施設であり、患者は最初に診療所で受診し、必要があれば診療所の紹介で入院します。日本との相違点の2番目は医薬分業です。診療所は薬を取り扱わず、外来患者は医師の処方箋を薬局に提示して薬を受け取ります。ドイツの薬剤師はかなり強い権限が与えられており、処方箋に記された薬と成分が同じなら低価格のものを患者に引き渡すことができます。なお、ドイツは皆保険と紹介されることがありますが、高額所得者を任意加入としており、皆保険ではありません。

医療保険は代表による自治組織が運営しており、政府直営・自治体公営の保険はありません。日本の医療保険には多額の公費負担が投入されていますが、欧州大陸の医療保険医はほとんど工費は投入されていません。これは自治を守るためであり、日本の保険者が国庫負担金・補助金の獲得に熱心で行政の介入に追随しているのとは対照的です。なお、フランスは自治組織による運営でありますが、国の強い統制のもとにおかれていて、日本に酷似しています。

保険料は労使折半負担です。医療保険料率は日本に比べかなりの効率です。これは、自治を堅持するため公的資金の投入を忌避していることによります。さらにドイツでは高額所得者を任意加入とした影響があります。日本の健康保険は標準報酬月額96万円以上の者は98万円とみなして保険料を算定していますが、ドイツの平均賃金上限は約47万なので、高い保険料率が必要です。ちなみに欧州大陸諸国の医療保険料率は13%強で、日本に比べて5ポイント程度高くなっています。

給付は医療サービス現物給付のほかに、病気または出産休業中の所得補償給付などが構成されています。現物給付の給付率は、外来医薬品、治療用装具、眼鏡などには一部負担金が課されますが、被保険者・被扶養者を問わず原則10割です。ただし、ドイツは年収の2%を限度に一部負担金が課されます。

仏蘭西医療保険は外来医療給付に償還払方式という特異な給付方式を採用しています。これは患者が治療費の全額をいったん支払い、保険が治療費の一定割合を現金で給付する方式です。治療内容・使用医薬品によって償還率に差が設けられており、平均償還率は80%前後と推計されています。償還払方式は日本では療養費と称しています。ただし、日本の療養費は現物給付が受けられない場合の例外的な給付です。

診療報酬、薬価は保険者団体と診療者団体の交渉によって定めている国が多く、日本のような公定料金は例外的です。欧州大陸諸国において料金交渉が可能なのは、医療保険の運営に国がほとんど介入しておらず、また保険者が診療側と対抗し得るほどに強大な力を有しているためです。欧州大陸諸国、とくにドイツ疾病金庫は、日本の保険者機能強化の有力なモデルです。

そのほかの特徴としては、ドイツの医療保険者は介護保険者も兼ねていること、ドイツ・フランスでは予防給付が実施されていることが挙げられます。また、ドイツでは国民に加入する疾病金庫を選択する権利を与えていることも重要な特徴です。