東洋毛様線虫症

小腸上部に寄生する小さく、細い線虫による感染症。成虫は粘膜内に頭部を穿人させて寄生しているが、病原性は低く、目立った病変は起こさない。少数寄生ではほとんど無症状で、多数寄生すると腹痛、貧血、食欲不振、下痢、全身倦怠、胆嚢炎様症状などを起こすことがある。病原体は東洋毛様線虫Trichostrongylus orientalis。検査所見としては特に特徴的なものはない。診断は糞便検査によって虫卵を見いだせばよい。雌成虫の産卵数が少ないため適当な集卵法を用いる必要があるが、低比重卵のため硫酸マグネシウム飽和食塩水などを用いた浮遊法による方がよい。虫卵はかなり卵分割が進行してから排出されるので、外見上鉤虫卵に似ているが、通常まず間違うことはない。しかし、夏季など鉤虫卵の卵分割が進行しているときは紛らわしいこともある。培養法(濾紙培養法など)によってフィラリア型幼虫まで発育させればより確実に同定はできる。  日本、朝鮮半島、台湾、中国に分布しており、わが国ではかつては東北、北陸など寒冷地域に多く感染者が見られた。これは本線虫のフィラリア型幼虫が低温に対し抵抗力が強いためと思われる。近縁の種、例えばT. colubriformisなどが中近東に分布している。本線虫はヒトのみに感染しているため、ほかの動物はまず感染源とはならない。小腸上部の粘膜内に頭部を穿入させて寄生している雌成虫から生み出された虫卵は糞便とともに排出されると好適な条件下では約2日で孵化し、第1期(ラブジチス型)幼虫が現れる。これはさらに外界で発育して数日後にはフィラリア型幼虫となり、野菜などに付着して経口感染する。いわゆる土壌伝播線虫の一種である。経口的に感染した後は体内諸臓器を移動せず、そのまま下行し、小腸で成熟し、約1か月後に産卵を始める。したがって、潜伏期は少なくともこの期間以上となるが、虫体数に依存しているので変化が大きい。また、実験的にはフィラリア型幼虫の経皮感染も起こり得るとされているが、この場合は肺を経由して咽頭、食道と移動するものであろう。しかし、経口感染が主感染経路であることに間違いはない。  予防のためには集団検便と駆虫によって保虫者に対する対策を行うのと糞便処理を確実に行って感染ルートを断つのがよいO野菜など感染源となるものに対する知識も普及徹底せしめる。治療には鉤虫と同じくパモ酸ピランテルを用いるが、鉤虫よりやや感受性は低い。