ブドウ球菌性肺炎 Staphylococcal pneumonia

I 臨床的特徴

 1.症状 上気道炎に続いて高熱、咳嗽をもって発症し、呼吸障害が速やかに進行して不機嫌、蒼白、苦悶状となる。乳児では呻吟性呼吸、胸廓陥没、鼻翼呼吸が高率に出現し短時間で中毒症状を呈し循環障害に陥るO重症感がある。乳児では約半数に嘔吐、下痢、腹部膨満が見られる。咳嗽は次第に湿性を帯びるが、喀痰は喀出し難いことが多い。病勢の急激な進行が特徴的である。胸部では呼吸音減弱、小水泡音を聴き、胸腔滲出物の貯留に伴って患惻呼吸運動の遅れと濁音が認められる。

 胸部エックス線検査では初期には異常所見を示さない例もあるが、数時間後には気管支肺炎像が出現し、気瘤、膿瘍、膿胸の合併も入院例の過半数に認められるO白血球増多、核左方移動を伴う好中球増多は肺炎の中でブドウ球菌によるものが最も著しい。しかし、白血球、ことに好中球減少例は予後不良である。

 急速に進行し、気瘤、膿胸を伴う肺炎ではブドウ球菌による肺炎を疑う。鑑別診断にはエックス線上類似の所見が見られる肺炎(肺炎球菌、インフルエンザ菌、レンサ球菌性)が挙げられる。

 2.病原体 コアグラーゼ陽性ブドウ球菌。まれに未熟児や免疫不全のある患者や静脈内カテーテル留置者ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が病原になることもある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant staphylocaccus auveus :MRSA)に注意する。

 3.検査 血液、胸水、洗浄喀痰から病原体の検出、コアグラーゼテスト、メチシリン耐性のテストを行う。

 Ⅱ 疫学的特徴

 小児の細菌|生肺炎として原因菌の確定された肺炎の中ではブドウ球菌性肺炎が最も高頻度に見られるo 2歳にとに6か月)以下に多発する。肺炎の死亡率が低下した今日でも幼若乳児および老人のブドウ球菌性肺炎は肺炎致命率の首位を占めている。季節差はない。

 ヒトからヒトヘの飛沫感染あるいは皮膚化膿巣から接触感染を通しての経気道感染である。肺内に多数の小膿瘍を形成し融合する(ブドウ球菌感染症参照)。

 Ⅲ 予防対策

 耐性菌、ことにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA感染症患者は隔離して個別看護を行い、衣服、寝具、保育器の消毒、医師・看護職員の手洗いの徹底、保菌者検索などに努める。

 治療方針としてはペニシリナーゼ耐性ペニシリン、すなわちクロキサシリンまたはメチシリンが第一選択である。セフアロチンまたはセファソリンの点滴静注を行う。MRSAに対してはセフメタソールとセフアロリジンまたはホスホマイシンの併用も提唱されている。メチシリンとゲンタマイシンの併用にも限界があり、重症例にはバンコマイシンが第一選択剤である。特に膿胸合併例ではバンコマイシンを初回投与とし、 MRSAが否定されれば、ペニシリナーゼ耐性ペニシリンに変更することを考える。