内科および外科病棟におけるブドウ球菌感染症:Staphylococcal disease in medical and surgical ward of hospital

 I 臨床的特徴

 1.症状 内科患者では癇、癰などの皮膚感染症や褥創の感染、静脈炎、骨髄炎、肺炎、心内膜炎、敗血症などがヒト感受性の項に挙げるような患者で認められる。外科患者での創傷感染は院内感染として最も頻度の高いものであり、入院中の外科回復期患者には常にその危険性がある。複雑で長時間を要する手術ではブドウ球菌の感染を受ける機会は増し、心臓手術患者では心内膜炎が起こり得る。また人工弁、ペースメーカニ、人工関節などの埋め込み手術では、本菌の感染により摘除せざるを得ない場合がある。

 抗菌薬の繁用、特に不必要な予防投与や長期にわたる予防投与がメチシリン耐性菌も含め多剤耐性菌を選択し、それによる菌交代性感染症を増加させている可能性は否定できない。黄色ブドウ球菌腸炎は重篤であり、抗菌薬投与による菌交代性感染症として発生することが多い。外科病棟患者ではメチシリン耐性菌による菌交代性腸炎も認められる。

 2、病原体 黄色ブドウ球菌については、A一般社会におけるブドウ球菌感染症

 表皮ブドウ球菌などのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌は、中心静脈カテーテル挿入患者、腹膜還流患者、脳室一心房・腹腔シャント術患者、心疾患患者など解剖学的異常や医療器具挿入患者では、菌血症、敗血症、髄膜炎、亜急性心内膜炎などの起炎菌になり得る。

 3.検査 A一般社会におけるブドウ球菌感染症と同じ。

 II 疫学的特徴

 1.発生状況 世界的である。一般病棟に入院中の患者に発生する院内感染による敗血症は、散発性あるいは流行性に認められる。手術後の創傷感染は院内感染の典型的なものである。また院内感染患者が退院して、病院菌を一般社会に蔓延させる可能性がある。

 2.感染源、伝播様式、潜伏期、伝染期間は、A一般社会におけるブドウ球菌感染症と同じ。

 3.ヒトの感受性 糖尿病、腎疾患、肝疾患などの慢性疾患患者や消耗性疾患患者、ステロイド免疫抑制剤投与中の患者、手術後特に長期入院が必要な大手術患者は感染を受けやすい。またカテーテル留置患者では菌血症が起こり、敗血症や臓器感染症に至ることがある。そのほかについては、A一般社会におけるブドウ球菌感染症と同じ。

 Ⅲ 予防対策

 A 方針

 1.無菌操作の励行と、院内感染防止対策組織による監視を行う。

 2.医師に対して、抗菌薬の適正使用についての教育を行う。特に長期にわたる予防投与を戒める必要がある。

 3.クロキサシリン、第一世代セフアロスポリン剤、ニューキノロン、ST合剤、バンコマイシンなど分離頻度の高い耐性菌に有効な薬剤を準備する。

 4.動・静脈カテーテルを留置する場合には、48~72時間で部位を変えることが望ましい。

 B 防疫

 1.創傷からの排膿や肺炎患者の喀痰から黄色ブドウ球菌が分離される場合には、患者を隔離するか、隔離できない場合はバリアナーシングを十分に行う。また開放性の病巣は被覆する。

 閉鎖性病巣で黄色ブドウ球菌の排出がない患者は隔離の必要はない。

 2.消毒 B小児科病棟におけるブドウ球菌感染症と同じ。

 3.接触者および感染源の調査 散発について調査することは一般的ではない。多発する場合には対策を講ずる。

 C. 流行時対策

 1.疫学的に関係のある2人以上の患者が発生したときは調査する。

 2.そのほかは、小児科病棟におけるブドウ球菌感染症参照。

 D 国際的対策

 特にない。

 E 治療方針

 膿瘍形成、創傷感染などでは適切なドレナージが必要である。

 分離菌の薬剤感受性試験を行い、その結果に従い適合抗菌薬を投与する。マイナーな感染症ではニューキノロン製剤、ST合剤も考慮する。