抗癌剤の副作用:骨髄抑制と悪心・嘔吐

 副作用の発現は全身に及び,その多くがdose limiting factor (DLF)となるが,特に骨髄・消化管粘膜・毛母細胞など代謝回転の速い細胞ほど抗癌剤の影響を受け易い。以下,図2をもとに解説するように,あらかじめ各抗癌斉りの副作用の種類と,自覚症状の有無,出現時期等を理解し,対処法を計画しておく必要がある。各症状は,抗癌斉lによる副作用か,あるいは病状の進行によるものか,精神的なものかの判断が求められる。なお副作用の程度の判定には,日本癌治療学会の副作用記載様式に基づき4段階評価を行った玉置らの方法が参考になるという。

 1)骨髄抑制

 骨髄抑制はほとんどの抗癌斉肘こより用量依存的に認められ,中でもアルキル化剤, MMC,白金製剤等で高度である。

 白血球減少症は,白血球数2,000/m (好中球数1,000/・1)が目安とされ,これ以下になると易感染症となる。 CPA, Ara~C, ADM, VLB, VP-16では投与後1~2週で最低値となった後,1週間前後で回復する。 MMCやACNU, MCNUは4~5週で最低となり1~3週で回復するパターンを示す。感染症予防が最大の課題であり,患者の隔離,清潔操作,皮膚・粘謨の滅菌を行う。近年G-CSF製剤で顕著な効果が示されているが,現時点で予測できない副作用や経済面への配慮も忘れてはならない。

 血小板減少症は,血小板数100,000/mi以下をもって診断され,種々の組織で自然出血が発現する。血小板減少の最低値並びに回復は同じ薬剤の白血球減少より数日ほど早い。重篤な場合,血小板無効症やGVHD等を考慮して慎重に血小板輸血を行う。

 2)悪心・嘔吐

 投与後数時間以内に出現し,投与量が多いほど強い傾向を示す。通常投与中止により消失するが,患者の苦痛は非常に大きく,食欲不振による栄養状態の悪化も懸念される。 CDDPやDTICなどはほぼ全例に高度の悪心・嘔吐をきたす。この発現タカニズムは,血中の抗癌剤が直接CTZを刺激するか,または抗癌剤の刺激で腸管細胞から産生された化学伝達物質が, CTZを経てあるいは直接嘔吐中枢に作用するものと考えられている。

 制吐剤のうちグラニセトロンは, CTZや迷走神経及び消化管の神経終末の5 -ht3受容体と選択的に結合して嘔吐刺激をブロックする。症状出現後の投与でも速やかに効果が得られ,副作用も少なく抗癌剤の効果を損なわないことから,非常に有力な支持療法であるが,薬価が高いため症状の程度により他剤との使い分けが必要である。