抗癌剤の薬物動態とTDM:テガフールとウラシルの併用や, CPAの腎毒性軽減のためのメスナ

 抗癌剤は,有効量と中毒量の差が小さいため,厳密な投与量の調整が必要である。特に肝障害,腎障害等個々の患者の病態を考慮した投与計画には,吸収,代謝,排泄,血漿蛋白結合などの薬物動態を十分把握しておくことが不可欠であり,中でも各薬物の活性化の過程並びに消失過程を理解しておく必要がある。例えば肝機能が低下している患者では,肝で活性化を受けるCPA, FT等は,効果が抑制される可能性があるが,主に肝代謝により不活性化されるADM等では,反対に体内蓄積が懸念される。よってADMは中程度の肝障害時(ビリルビン値25~51μmol/ I )には通常の約半量に,重症時には1/4に投与量を調節する必要がある5)。

 抗癌剤の薬物動態は未だ解明されていない部分が多いものの,フッ化ピリミジン系抗癌剤6)や白金化合物7)等で次第に解析が進み,合理的な投与設計が試みられつつある。

 現在抗癌剤では, MTXのみに特定薬剤治療管理料が認められている。MTXの大量療法時には,投与開始48時間後の血中濃度測定が中毒発現の指標に必須とされており, 0.9,μmol/ 1 を越えた場合,骨髄抑制,肝障害,腎障害,下痢等の中毒症発現の可能性が高く,投与間隔の延長や拮抗剤ホリナートカルシウム(ロイコボリソ)の投与が施行される。

 相互作用

 抗癌剤について文献並びに各添付文書に記載のある相互作用とその機序をみると、相互作用も未だ解明されていない部分が多く,今後とも情報の集積が望まれる分野である。

 この中で併用頻度並びに発現する症状の重篤度から最も重要と判断される組み合わせは, 6-MPとアロプリノールであろう。 6-MPの適応症である白血病は,抗癌剤に対して感受性が高く高尿酸血症を生じ易いため,その治療にアロプリノールが併用される可能性が高い。6-MPがアロプリノールにより代謝阻害を受け,作用増強と重篤な副作用をきたしたとの症例報告がある。両者を併用する場合には6-MPの投与量を1/4に減量し,骨髄抑制の発現の有無を確認する。本邦で免疫抑制剤として用いられるアずチオプリンは, 6 MPのプロドラッグであり, 6-MP同様の注意が必要である。

 他に,種々の相互作用が知られている抗癌剤にMTXが挙げられる。 MTXは体内消失が腎排泄に依存する代表的薬剤であり,約80%が未変化体で腎排泄される。プロペネシド, NSAIDs,アミノダリコシド系抗生物質ペニシリン抗生物質等の酸性薬物との併用によってお互いの排泄が抑制されるため作用増強と副作用発現に注意が必要である。また蛋白結合率が高いNSAIDs,バルビツール酸誘導体などとの併用により,血中のMTXの遊離型濃度が高くなり,副作用の可能性が増大する。一方, MTXによる免疫抑制作用のため,感染防止の各種ワクチンの効果は減弱する。更にMTXは,陰イオン交換樹脂である高脂血症治療剤コレスチラミソに吸着されるため,両者を併用する場合は投与間隔を十分とるのが望ましい。

 直接的な相互作用ではアルキル化剤の相互作用がよく知られている。CPAやBUS等のアルキル化剤は,求核基(例えばチオール基)を含む薬剤との併用で作用が減弱する。  

 逆にこれらの相互作用を積極的に取り入れた治療がbiochemical modulationの手法である。これは抗癌剤の薬物動態を他の薬物の併用で修飾することによって,抗腫瘍活性を高めたり,副作用軽減を図るものである。例としてテガフールとウラシルの併用や, CPAの腎毒性軽減のためのメスナ(sodium 2 - mercaptoethane sulfonate)の併用13)等がある。