突発性正常圧水頭症(INPH)について

アルツハイマー認知症をはじめとした多くの認知症は、発症の原因についてはわからないことが多く、治療も対症療法的なものが中心です。しかし、中には手術で治せるものもあります。その一つが「突発性正常圧水頭症(INPH)」です。

突発性正常圧水頭症は、脳や脊髄の周りを流れる脳脊髄液がうまく流れず吸収も不十分で、脳室内に溜まってしまう病気です。脳脊髄液が脳を内側から圧迫することで、次のような症状が起きます。

①歩行障害(歩き方が不安定。すり足で小刻みに歩く)
認知症症状(物忘れが多い。身の回りのことに対する興味や集中力がなくなる)
③尿失禁(トイレが近くなる。トイレが我慢できない)

東北大学の研究チームが行った調査によると、INPHの患者数は国内に約31万人と推定されています。これは実に、認知症患者の1割以上にあたる膨大な数字です。しかし、医師でもこの病気の存在を知らない場合があり、適切な治療を受けていない患者はかなりの数に上ると考えられています。

診察では、MRI(核磁気共鳴画像)などを使って脳の状態を確かめた後、INPHの疑いが強い場合は「髄液循環障害検査(髄液タップテスト)」
を行います。腰椎に針を刺して脳脊髄液を30ml前後抜き取り、症状が改善すれば手術の適応となります。

治療は最近、「L・Pシャント」という手術法が普及し始めています。腰を少しだけ切開してシリコン製チューブを押し込み、腰椎から腹の空洞に向けて脳脊髄液が流れるバイパスを作ります。わずか1時間ほどで行うことができ、患者の体にかかる負担も少ないです。たいていの場合、手術の翌日にはもう足取りや話し方に改善がみられるといいます。

認知症になると、自分だけでなく、家族にも大きな負担がかかることになります。「年をとってから周りに迷惑をかけたくない」。多くの方にとって、これは切実な願いではないでしょうか。

認知症は年のせいにしてしまいがちですが、なかにはINPHのように治療により改善が見込める病気もあるということを知っておく必要があります。