十全大補湯はシスプラチンの腎障害を予防

白金製剤であるシスプラチンは、日常診療で非常によく用いられる抗がん剤です。このシスプラチンの重篤な副作用として腎障害があります。シスプラチンが腎臓から排出されるために腎臓の細胞を破壊してしまうのです。これを予防するのが十全大補湯(じゆうぜんたいほとう)です。十全大補湯に含まれるリンゴ酸がシスプラチンと結合してリンゴ酸ジアミノプラチンという化合物になります。この化合物は抗がん作用はシスプラチンに劣りませんが、腎障害の副作用は軽くなります。こういうメカニズムで十全大補湯はシスプラチンのよる腎障害を軽減するのです。

十全大補湯はまた白血球、赤血球などの血液細胞を減らす抗がん剤の副作用の一つである骨髄抑制を軽減する目的でも用いられます。これに関してはリンゴ酸ではなく、別の成分がその役目を担っていることがわかっています。漢方薬にいろいろな生薬が入っている理由はここにあります。異なる働きを持つ複数の成分が入ることによって複合的な効果を上げているのです。