半夏瀉心湯:カンプトテシンの副作用(ひどい下痢)を抑える

カンプトテシンという抗がん剤はいろいろながんに対して使われていますが、ひどい下痢になりやすいという副作用があります。下痢は基礎体力を落とし、栄養状態を悪化させます。その苦痛で抗がん剤治療をあきらめてしまう場合も多いです。半夏瀉心湯という漢方薬はこれをぴたりと止めることができます。

そのメカニズムもよく知られています。カンプトテシンは肝臓で代謝されて活性化物質となりますが、グルクロン酸抱合されて胆汁と一緒に腸に分泌されます。そのまま腸から便となって大概排出されてしまえば問題ないのですが、腸内細菌によってグルクロン酸が外されると重篤な下痢をきたす物質になるばかりでなく、再び腸管から吸収されて肝臓に達し、そこでグルクロン酸抱合を受けて腸に分泌されるという腸管循環を繰り返し、体内をぐるぐるめぐることになります。こうした悪循環を断ち、体外に排出させるためには、腸において腸内細菌によってグルクロン酸が外れるのを防ぐことができればいいということになります。

半夏瀉心湯に含まれる黄芩のバイカリンという成分にもグルクロン酸がついています。このため、腸内細菌はバイカリンのグルクロン酸を外すために使われ、還付とて秦の活性化物質のグルクロン酸が外れる量が減ります。グルクロン酸が外れていないカンプトテシンの活性化物質は、そのまま弁中に出されます。こうして半夏瀉心湯はカンプトテシンによるひどい下痢を抑えるのです。

半夏瀉心湯の効用は日本ですでに論文になっており、医療現場では幅広く用いられていますが、残念ながら世界には知られてはいませんでした。ところが2010年に米国のエール大学から、黄芩を使って日本の研究結果と同じような内容の論文が「サイエンス・トランンスレーショナル・メディシン」に掲載されました。「サイエンス」というのはアメリカ科学振興協会(AAAS)の発行七得る学術雑誌で、世界で最も権威がある科学雑誌の一つです。もう13年も前に日本で論文になっていたものなのに、ここに掲載されるとインパクトが全く違い、世界の人が驚いたのです。

上記の説明で分かる通り、半夏瀉心湯では黄芩が大事な生薬となります。この黄芩湯にも黄芩が入っており、メカニズムは同じです。これに注目して処方を変えてエール大学が世界の一流雑誌に掲載したのです。同じような内容でもエール大学から出ると世界一流誌掲載か、と残念に思う気持ちもありますが、世界が漢方薬に注目している事実が改めて説明できた点では非常に大きな意義を持ちます。