静磁場を利用した治療器具「ピップ・エレキバン」には効果があるのか?

静磁場を利用した治療器具でよく知られているのは「ピップ・エレキバン」などの磁気ばんそうこうです。これは薬の錠剤くらいの大きさの特殊な永久磁石を皮膚に張り付けるもので、肩こりなどに効果があると言います。エレキバンの場合、磁場の強さは皮膚表面で800ガウスです。これを貼ると皮膚が熱くなる気がするそうですが、私が張っても何も感じませんでした。つまりエレキバンを貼付したときの感じ方には個人差があります。

主にカエルを実験材料として神経のインパルス伝導速度、筋肉の収縮、血管の血流などに対するエレキバンの効果が調査れましたが、はっきりした結果が出ませんでした。そこでカエルよりヒトに近縁の純系ヌードマウスを実験動物として、以下のような実験が行われました。

実験動物を麻酔し、実験装置によりその体温を一定に保つ。麻酔をするのは動物の動きを止め、実験操作による情動反応を除外するためです。ヌードマウスの尾は全く毛が生えておらず皮膚が露出しています。この尾部の正中線に沿っての皮膚表面の温度分布を、赤外線サーモグラフィーで記録しました。麻酔後マウスの状態が安定すると、尾部に沿っての温度分布が一定になります。ここでエレキバンを尾部の一部に近づけ、そのまま放置すると、尾部の皮膚温度が次第に上昇しました。エレキバンを遠ざけると、皮膚温度は以前の値に戻りました。なお、エレキバンと同じ形の金属片を尾部に近づけても効果は見られませんでした。

この効果は繰り返すことができ、何匹化のマウスで同様な結果が得られました。この結果はエレキバンの何らかの静磁場の作用により、エレキバンに近接している血管が拡張し、その結果、この部分から尾部先端にかけての血液が増加し、皮膚温度が上昇したことを示唆するものでした。エレキバン製造元の役員はこの結果に大変喜んだことでしょう。