「医療モール」が皆から歓迎される理由

 医療モールとは、同一敷地やビル内に複数の診療所を併設するもので、いわば「ミニ総合病院」というべきものだ。無床診療所は過去10年間で、平均約1900ヵ所ベースで増えているが、モールーカ所で平均3~4診療所が開業するとして、増加分の10%程度を医療モールが担っている計算になる。

 医療モールが開業志望の医師の間で静かなブームを呼んでいる理由は、従来の単独開業に比べてローコストで開業できるところにある。

 医療モールの形態は80年代の米国で始まったと言われ、90年代に入って日本でも徐々に広まっていった。現在は、その形態がかなり進化してきている。

 初期の医療モールは診療所を一力所に集めただけのものが多かったが、最近では医療モール内の診療所の配置にも工夫を凝らし、受付や待合室を共有するなど、コストの削減策にも進歩が見られる。

 患者にとっては、遠くの総合病院に行かなくても、子供の風邪やお母さんの婦人病など、近所に複数の診療科を持つ医療モールがあれば利便性は高い。

 単独で新規開業した場合、無料コンサルタントと称して、結局はムダな医療機器を購入させられたり、工務店に見積もりの倍以上の建設費を請求される、あるいは、ビルにテナントして入ったが、ほかに入居者がおらず、幽霊ビル化して患者が寄りつかなかった、など失敗例が結構転がっている。この点も医療モールなら心配ない。

 通常、首都圏で単独の診療所を開設しようとすると土地所有・戸建てで初期費用は1億円から2億円は掛かると言われる。

 駅前ビルのフロアを借りる「ビル診」と呼ばれる開業スタイルでは、敷金や保証金、内装工事費用、医療機器を合計して6000万円程度が相場価格だ。

 しかし、医療モールの場合は土地オーナーに建物や内装費を負担してもらうことで、開業費用を「ビル診」の8割程度に抑えられる。

 一方、ビルや土地のオーナーにとっても医療モールは公共性が高く、20年から30年単位での安定したテナント料が見込める。

 雑居ビル化すれば資産低下は避けられないが、診療所なら資産維持も見込める。しかもアパートーマンション経営の投資利回りは平均3~4%だが、診療所を誘致するとその倍以上の10%以上の高い利回りが得られるなどよいことずくめだ。

 これが、医療モールが患者にも開業医にも不動産オーナーにも歓迎される理由だ。