バイオテクノロジー

植物を対象としたバイオテクノロジーの基本は、品種改良です。これまでの農業でも常によい品種を求めてきました。最初は、偶然見つかった変異体を利用したのでしょう。その後人工交配で育種を続けてきました。今栽培されているイネと野生のイネではもうう通常の交配はしないというほど、品種は変わってきています。今では北海道までイネ栽培は広がっているのですから。
ところで、この品種改良の欠点は時間がかかる事です。そのスピードを上げること、これがバイオテクノロジーのもう一つの可能性です。その基本技術は組織培養。植物は動物と違って体の一部、時には一個の細胞からでも個体が生まれます。ガラス容器の中で栄養分を与え、植物ホルモンで処理するという方法で植物をつくることができるのです。最も実用化されているのは生長点培養です。植物には常に先端部分に分裂の盛んな場所があり、そこで成長していきます。これが生長点。個々の細胞は分裂能力が強く、しかもそのために欲植物に感染しがちなウィルスもいないという特別の性質をもっています。そこで一個の優れた植物の生長点からたくさんの子供をつくります。クローンです。
育種に関して、バイオテクノロジーの第二の可能性は、改良の幅を広げるということです。栽培イネと野生イネは交配しないので、野生イネには耐病性があり、この性質を現在のイネに持たせることができれば、農薬の使用も減るはずなのですが、それができません。ここに登場するのが細胞融合、遺伝子導入という二つの技術です。植物細胞の細胞壁を取り除いたプロトプラストにしますと、細胞動詞が融合し、中身も一緒になってしまいます。これは異種の細胞間でも起き、こうしてできた細胞から、ひとつの植物体ができるからです。
野生イネと栽培イネはもちろん、ジャガイモとトマト、ハクサイとキャベツなどの間でこのような融合が行われています。こうして耐病性の他、たとえばジャガイモの中の耐寒性をトマトに入れようとか、ハクサイの軟らかさとキャベツの甘味をもった野菜をつくろうなど、これまではできなかった改良ができるだけです。
遺伝子導入は植物に持たせたい性質がのっている遺伝子を細胞の中に入れる作業です。組み換えDNA技術のプラスミドを用い、植物細胞の中に望みの遺伝子を入れ、それを植物体にするわけです。この方法で害虫に強い植物をつくった例がいくつもあります。マメの中にあるタンパク質分解酵素の阻害物質を作る遺伝子をタバコに入れたというのは一例です。
マメの消化が悪いのは、その中に取り入れたタンパク質を分解する働きを抑える物質があるからです。この困った物質を利用して、消化しにくい葉っぱをつくったら虫は食べたがらないのではないか。そう考えて阻害物質を作る遺伝子をマメから取り出し、それをタバコの中に入れました。こうしてできたタバコの葉と普通のタバコの葉をタバコの大敵オオタバコガの幼虫に与えたところ、阻害物質をつくる葉っぱの方はちょっと食べただけで、あとは見向きもされたかったということです。どうして虫は、これは消化が悪いぞとわかるのか、それも不思議ですが。その他、いろいろな虫を調べ、それぞれに毒性を持つ物質を防除剤として利用することも考えられています。
生物を利用する場合は、化学的な薬品と違って、生物をよく知り、それぞれに対する対策を立てなければなりませんから、たいへん面倒ですが、これからの方法としては、まず自然を知りそれを活かす技術へと向かっていかなければならないことは確かだと思います。その中でバイオテクノロジーを活用することが大事です。