「血圧モーニング・サージ」

前向き調査
背景―心血管イベントは早朝の時間帯に最も多く発生する。我々は高齢の高血圧患者を対象に、早朝の血圧(BP)上昇と脳卒中の関連性を前向きに調査した。
方法と結果―調査開始前に歩行中の血圧測定と脳梗塞の脳MRI検査、および追跡検査を受けた、高齢の高血圧患者519名の脳卒中予後を調べた。血圧のモーニング・サージ(MS)に関しては、計算式「起床後2時間の収縮期平均血圧-睡眠時最低血圧を含む1時間の収縮期平均血圧」で算出した。平均期間41ヶ月(範囲1~68ヶ月)の間には44件の脳卒中イベントが発生していた。MSに基づいて患者を2つのグループへ分けた結果、MSの十分位数の最大値を示した者(MS群;MS≥55mmHg、n=53)は、追跡期間に他の者(非MS群;MS<55mmHg、n=466)よりも高い多発性梗塞発症率(57% 対 33%、P=0.001)と脳卒中発生率(19% 対 7.3%、P=0.004)を呈していたことがわかった。患者を年齢と24時間血圧で一致させた後も、MS群と非MS群の相対危険度は依然として有意であった(相対危険度=2.7、P=0.04)。MSは24時間血圧と夜間血圧降下状況、および試験開始時における無症候性梗塞の罹患率と関係なく脳卒中イベントに関連していた(P=0.008)。
結論―高齢の高血圧患者では高い血圧モーニング・サージが脳卒中リスクに関わっており、これは歩行中の血圧と夜間血圧降下、および無症候性梗塞とは無関係であった。従って、高齢の高血圧患者における標的臓器障害とその後と心血管イベントを防ぐ上では、「MSの抑制」が新しい治療目標になるかもしれない(Circulation.2003;107:1401-1406)。
キーワード:血圧、脳卒中、高血圧、脳梗塞、脳虚血

心血管イベントの発現には著しい日内変動があり、心筋酵素と心臓突然死、虚血性および出血性脳卒中はその発生率が夜間に最も低く、午前中(6時から正午)にピークになるという報告が相次いでいる。1-4 また、この概日パターンのさらなる解析によって、心血管イベント発生が日中の時間よりも、むしろ起床時間のほうに深く関与していることが確認された。5,6
p1347を参照
 血圧(BP)も同様の日内変動を示すため、午前中に最高値に到達した後は低下し、真夜中頃に最低値に達する。早朝には血圧の急上昇が、夜間睡眠からの覚醒および起床と同期して生じる。7 従ってこの血圧モーニング・サージは心血管イベントを引き起こすと考えられているが、今のところ血圧モーニング・サージ(MBPS)と同イベント間の関連性を直接実証する試験結果は出ていない。しかし、血圧の日内リズムは患者間で大きなバラツキがある。我々が以前に、昼間と夜間の平均血圧の差や比率を測定した際には、血圧が夜間に上昇または降下する程度は患者によって大きく異なり、さまざまなパターン(dipper型、non-dipper型、extreme-dipper型、夜間上昇型)が、脳卒中のさまざまなリスクレベルに関連していることが明らかとなった。8 夜間血圧が昼間血圧よりも20%以上低いextreme-dipper型の患者では、発症リスクが著しく高くなっているものの、このリスクが夜間の血圧降下や低血圧、あるいは起床時の血圧モーニング・サージに関係しているかどうかは明らかでない。我々は今回の分析で血圧日内変動リズムのどの要素(夜間血圧降下やMBPS)が、無症候性脳梗塞(SCI)と脳卒中により密接に関わっているのかを調査した。
方法
対象者
本調査の対象者は、調査開始前に平均41ヶ月間の追跡検査を受けた高齢の高血圧患者519名(平均年齢72歳)であり、これは1992年1月1日から1998年1月1日の間に6つの参加施設(診療所3施設、病院2施設、医科大学附属外来診療所1施設)で試験に登録した患者532名の98%である。これらの患者を大規模な高血圧患者コホート9から選び出す際には、次の基準に従った。
(1) 診察室で測定した収縮期平均血圧(SBP)が140mmHg以上、および拡張期平均血圧が90mmHg以上の本態性高血圧(数日間にわたって1日2回以上測定した各患者の平均値)
(2) 満50歳
(3) 24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の成功
(4) 脳MRI検査によるSRI発現有無の評価
どの患者もABPM前の少なくとも14日間は降圧薬を服用していなかったが、彼らの55%に降圧薬の使用歴があった。腎不全(血清クレアチニン濃度)や肝障害、現病状、冠動脈疾患の既往歴、脳卒中(一過性脳虚血発作など)、うっ血性心不全不整脈(心房細動など)、または抹消血管疾患を伴う患者は本調査の対象外である。すべての対象者が歩行可能であり、さらにインフォームド・コンセントを与えていた。ABPMと脳MRIの結果は対象者の担当医へ報告されている。本調査は日本の研究倫理委員会と循環器学会、および自治医科大学から認可を得たものである。
診察室血圧は、安静座位の状態で5分以上経過した後に測定されたものである。糖尿病の定義は、空腹時血糖値が7,8mmol/L以上、ランダムに測定した非空腹時血糖値が11.1mmol/L以上、ヘモグロビンA1c値が6.2%以上、または経口血糖降下薬やインスリンを使用している場合と定めた。脂質異常症に関しては、総コレステロール値が6.2mmol/L以上、または脂質降下薬を使用している場合と定義した。習慣的な喫煙者を「喫煙者」と定めた。ボディマス指数は「体重(kg)÷身長(m2)」で算出した。心電図上の左室肥大に関しては、平低T波(R波の10%以下)またはST部分下降と2相性T波のどちらか一方に関連した、QRS波の異常に高い電圧(誘導V5のR波振幅と誘導V1のS波振幅の和が3.5mV以上)を示すものと定義した。
24時間ABPM
非浸襲的ABPMは、24時間連続で30分毎に血圧と心拍数を記録する3つの自動装置(ABPM-630、日本コーリン社製、TM-2421またはTM-2425、A&D社製、日本)のうちの1つを用いて平日に実施された。これらの装置の精度は既に実証済みであった。本調査で使用した歩行データは、振動測定法で得たものである。覚醒時または睡眠中血圧測定値のいずれかが80%の有効性に満たない者は調査対象外とした(n=31)。また、ABPM後のアンケートで「ABPM装置の装着によって睡眠がひどく妨げられた」と報告していた患者も除外した(n=23)。
「睡眠中の血圧」に関しては、患者が寝床に入ってから起床するまでの間の平均血圧と定義し、「覚醒中の血圧」に関しては、日中の安静時に記録された平均血圧と定めた。「早朝の血圧」の定義は、起床後最初の2時間における平均血圧であり(4つの血圧測定値;図1)、「最低血圧」の定義は、夜間の最低測定値を中心とした3つの平均血圧測定値(つまり、最低測定値とその直前と直後の測定値)、「就寝前の血圧」は寝床に入る前2時間の平均血圧(4つの血圧測定値)、「起床前の血圧」は起床前2時間の平均血圧(4つの血圧測定値)である。MBPSの計算では2つの方法を使用し、計算式「早朝SBP-最低SBP」で睡眠-トラフ時[sleep-trough]MBPSを求め、さらに計算式「早朝SBP-起床前SBP」で起床前MBPSを算出した。夜間血圧降下(mmHg)の定義は就寝前血圧と最低血圧の差である。これらの計算では必ず収縮期血圧値を用いた。
我々は睡眠-トラフ時MBPSの程度に基づいて、患者を同MBPSの十分位数最大値を示した者(55mmHg以上、n=53;MS群)と、その他の者(n=466、非MS群)に分類した。さらに、夜間SBPの低下率[100×(1-睡眠時SBP/覚醒時SBP)]が20%以上ならextreme dipper型、10%以上20%未満ならdipper型、0%以上10%未満ならnon-dipper型、そして0%未満なら夜間上昇型とした。8
MRI
中心磁場1.5Tの超伝導マグネットを使った脳MRI(ToshibaMRT200FXⅡ、東芝;SIGNA-Horizon version 5.8、General Electric社;Vision、Siemens社)検査はABPMの開始後3ヶ月以内に実施された。T1強調画像とT2強調画像は厚さ7.8mmまたは8.0mmの横断面であり、T1強調画像の低信号域(3~15mm)が示す無症候性脳梗塞(SCI)は前述のように8-10、T2強調画像の高信号域病変としても確認可能であった。多発性SCIの定義は梗塞部位が2箇所以上あるものと定められていた。検出されたSCIはそのすべてが直径15mm以下のラクナ梗塞である。我々は氏名や特徴という情報を加えずに、被験者のMRI画像を無作為に記録および解釈した。判定者間一致と判定者内一致(非SCI、1箇所のSCI、多発性SCI)を示すk統計量は、我々の研究室でそれぞれ0.70と0.80であった。
追跡調査とイベント
患者の降圧薬療法の実施状況と心血管イベント発生状況の調査を目的に、診療記録がABPM後に断続的に調査された。追跡調査は1996年から1998年の20ヶ月の間に開始されたものであり、1ヶ月間から68ヶ月間に及び、その平均期間は41ヶ月であった。患者が通院しなかったときには、電話による聞き取り調査が行われた。追跡期間中はMS群と非MS群との間に有意差がなかった。脳卒中イベントの診察は、同イベント発生時に患者にケアを与えていたそれぞれの医師が行った。そして、神経科の開業医が症例を審査し、脳卒中イベントの診察を確認した。脳卒中の診察基準は突発性の神経障害であり、これは他の疾患プロセス(神経障害を示唆するもの)を経ずに突然発生し、24時間以上持続するものと定義されていた。脳卒中イベントには虚血性脳卒中(脳梗塞と脳塞栓)、出血性脳卒中(脳出血くも膜下出血)、そして他の未定義のものが含まれた。発症から24時間以内に消失した一過性の虚血発作は本調査の対象外とした。
試験開始時の適格患者計532名のうち、追跡検査を受けた者は519名(98%)であったため、データ分析の対象人数は519名に制限された。また、最後の追跡検査時に降圧薬投与を受けた者は、そのうちの292名(56%)であった。
統計分析
データは平均±SDで示している。連続的な測定値と有病率の平均値に関しては、2グループ間の差を検出するために、両側t検定(対応なし)とカイ二乗検定を用いた。補正相対危険度(RR)とオッズ比の95%CIは、それぞれCox回帰分析と多重ロジスティック回帰分析で算出した。Cox回帰分析では比例ハザード性が主要な予測因子であることがわかった。脳卒中リスクに対する夜間血圧変動(extreme-dipper型、dipper型、non-dipper型、上昇型)と睡眠-トラフ時MBPSの影響を調べるための1つの連立モデルでは、血圧変動の4タイプを比較するために3つのダミー変数を用いた。統計計算ではSPSSバージョン8.0J(SPSS)を使用した。両側検定で差がP<0.05であれば、統計的に有意と判断した。
結果
試験開始時の特徴と無症候性脳梗塞
全サンプルの平均±SD睡眠-トラフ時MBPSは34±18mmHgであり、その十分位数最大値(MS群)を示すカットオフ値は55mmHgであった。
平均年齢と診察室血圧は、非MS群よりもMS群で有意に高かった(表1)。就寝前と睡眠中の血圧は2グループ間で有意差がなかったが、起床時と早朝の血圧は非MS群よりもMS群のほうで有意に高くなっていた。早朝SBPと最低SBP間の差を示す平均±SD睡眠-トラフ時MBPSはMS群で69±12mmHg、および非MS群で29±13mmHgであり、また、起床前MBPS(早朝SBPと起床前SBPの差)はMS群で34±21、非MS群で9.1±14mmHgであった。診察時の脈拍数と歩行中の脈拍数、および早朝の脈拍数の間に有意差はなかった(MS群77.8±11.9bpm 対 非MS群75.6±10.9bpm、P=0.25)。さらに、血圧モーニング・サージは非MS群よりもMS群で高かったが、このことはグループ間における脈拍数変化の違いに関連していなかった。
MS群は非MS群よりも心電図上の左室肥大を呈することが多く(P=0.08)、さらにより高い起床前SBP(+4mmHg、P=0.23)および24時間SBP(+5mmHg、P=0.06)を示す傾向にあったが、その差は統計的に有意なものではなかった。また、最後の追跡検査時における降圧薬の使用率に関しても、グループ間に有意差がなかった。
試験開始時の検査ではSCI(特に多発性SCI)が、非MS群よりもMS群で頻繁に検出されていた(表2)。多重ロジスティック回帰分析で年齢と24時間SBPを調整した後は、MBPSが多発性SCIの独立決定因子となった(OR1.91、95%CI1.04~3.51、P=0.036)。1名以上のMS被験者に対して年齢(範囲2年)と24時間SBP値(範囲4mmHg)が一致し得る非MS被験者145名を特定し、さらにバランスのとれた計画をシミュレートするために調整を加えた結果、グループ間の比較結果(表3)は全サンプルの場合と本質的に同じであることがわかった。
脳卒中の発生率
平均期間41ヶ月(範囲1~68ヶ月)の間に44件の脳卒中イベントが発生していた。MS群の脳卒中発生率は非MS群のものよりも高かった(19% 対 7.3%、P=0.004)(表2)。年齢と24時間SBPで一致させたグループでは、重み付けCox回帰分析で算出したMS群のRR(非MS群が対照)が依然として有意であった(RR=2.7、P=0.04;表3)。睡眠-トラフ時MBPSを基に全対象者を四分位に分けた際には、脳卒中の発生率が四分位の上位で有意に増加していた(Q1=4.6%、Q2=5.5%、Q3=9.2%、Q4=14.5%、x2=10.2、P=0.017)。
表4では全サンプルにおけるMBPS(連続変数)のCox回帰分析結果を示している。年齢と24時間血圧、および試験開始時のSCI罹患率脳卒中リスクに関連していたが、他の交絡因子(性別、ボディマス指数、喫煙状況、糖尿病、脂質異常症)は有意でなかった。睡眠-トラフ時MBPS(早朝SBP-最低SBP;モデル1)は有意な各交絡因子と関係なく脳卒中イベントに有意に関連していた。睡眠-トラフ時MBPSの代わりに起床前MBPS(早朝SBP-起床前SBP)をモデル1に加えると、起床前MBPSは脳卒中リスクに関与する傾向にあったが(10mmHg増加;RR 1.14、95%CI 0.99~1.31、P=0.07)、この関連性は有意でなかった。
降圧薬の効果を調べるために表4のモデル1へ投与期間(0=なし、1=追跡時にあり)を加えたところ、睡眠-トラフ時MBPS(10mmHg増加;RR 1.24、95%CI 1.07~1.43、P=0.004)と降圧薬(RR 0.41、95%CI 0.22~0.79、P=0.007)のそれぞれが、脳卒中リスクと有意に関連していた。
夜間血圧変化のさまざまな測定基準間の関係
睡眠-トラフ時MBPSの定義は夜間血圧低下と部分的に関係しているため、我々は夜間血圧降下度合の影響も調査した。extreme-dipper型とdipper型、non-dipper型、および上昇型の発現率はMS群でそれぞれ51%(n=27)、36%(n=19)、11%(n=6)、および2%(n=1)であり、非MS群で18%(n=85)、46%(n=213)、27%(n=126)、および9%(n=42)であった。別の見方をすれば、24%のextreme-dipper型とほんの8.1%のdipper型、および4.5%のnon-dipper型と2.3%の上昇型がMS群へ分類されたことになる。
これらの発現率には有意差があるため(x2=32.0、P<0.0001)、我々は3つのダミー変数を用いて、これら4つの夜間血圧降下度合カテゴリーを同一のCox回帰分析へ加えた(表4、モデル2)。脳卒中リスクはMBPS(10mmHg増加;RR 1.25、95%CI 1.06~1.48、P=0.008)と、上昇型(RR 2.71、95%CI 1.02~7.21、P=0.047 対照はdipper型)へ分類されることの両方に有意に関連していた。このモデルではextreme-dipper型へ分類されることが、MBPSと関係のない脳卒中リスクに対して有意に関連していなかった。
脳卒中の発生時間と病型
我々は44件の脳卒中イベントのうち36件でその発生時間を特定した。MS群では9件の脳卒中イベントのうち7件(78%)が朝の時間帯(午前6時から正午)に発生したものである一方、非MS群では27件のうち11件(41%)が同時間帯に生じていた(x2=3.70、P=0.05)。extreme-dipper型では10件の脳卒中イベントのうち6件(60%)が朝の時間帯(午前6時から正午)、および3件(30%)が夜間帯(夜の12時から午前6時)に発生していたが、他のグループ(dipper型とnon-dipper型)では26件のうち12件(46%)が朝の時間帯、および2件(7.7%)が夜間に発生していた(x2=5.48、P=0.06)。
44件の脳卒中イベントのうち30件が虚血性のものであり、6件が出血性、そして8件が未知のタイプであった。脳卒中の病型はMS群と非MS群の間で有意差がなかった。
考察
過度のMBPSは高齢の高血圧患者における脳卒中発生の予測因子であり、これは歩行中の血圧値と標的臓器障害とは関係していないことが、本調査によって初めて明らかとなった。最も高い睡眠-トラフ時MBPS(>55mmHg)を示したMS群では、脳卒中の発生率が非MS群(MBPS<55mmHg)のものよりも高くなっていた。年齢と24時間SBPで一致させた後は、「MS群 対 非MS群」のRRが3.2であった。MSおよび非MS群の分類は無作為に行ったものであるため、我々は睡眠-トラフ時MBPSの連続変数を用いて分析を繰り返し、MBPSと脳卒中リスク間の有意な関連性を再度確認した。
MBPSの定義
MBPSの定義についてはコンセンサスが得られていないが、我々はMBPSを2つの方法で定義し、睡眠-トラフ時MBPS(早朝SBP-夜間最低SBP)と起床時MBPS(早朝SBP-起床前SBP)と定めた。睡眠-トラフ時MBPSは脳卒中有意に独立して関連しており、睡眠-トラフ時MBPSの10mmHg増加は脳卒中リスクを22%上昇させていた。起床時MBPSの場合は脳卒中リスクが14%上昇していたが、これは有意でなかった(P=0.07)。従って、MBPSの臨床的に意義のある定義は、睡眠-トラフ時MBPSから得られるという可能性が、我々の調査結果によって明らかとなった。
MBPS 対 夜間血圧降下
睡眠-トラフ時MBPSの定義は部分的に夜間血圧降下のものに関連しているため、我々はMBPSと夜間血圧降下度合との間の関連性を調査した。前述の通り、高齢の高血圧患者ではextreme-dipper型で無症候性脳梗塞が頻発しており8,10、さらに脳卒中の予後も不良である10。本調査ではMS群患者の51%をextreme-dipper型へ分類した。サンプルのほんの10%(十分位数の最大値)を構成するMS群は、extreme-dipper型112例の24%を占めるため、extreme-dipper型とMS群にはかなりの重複部分がある。extreme-dipper型では睡眠中の虚血性脳卒中だけでなく早朝の脳卒中も多いが、これは主に過度のMBPSによるものと考えられるため、その原因は「extreme-dipper型とMS群の重複部分」によってある程度説明できるかもしれない。 
血圧降下度合(extreme-dipper型、dipper型、non-dipper型、上昇型)とMBPSを同じCox回帰分析モデルへ組み込むと、脳卒中リスクはMBPS(10mmHg増加、RR 1.25、P=0.008)と、上昇型(RR 2.71、P=0.047 対照はdipper型)へ分類されることの両方に有意に関連していた。このモデルではextreme-dipper型への分類が、MBPSなしで脳卒中リスクに有意に関連していなかったため、夜間の血圧低下はモーニング・サージほど重要ではないようである。extreme-dipper型における脳卒中リスクの増加は、その基本的なメカニズムが過度の血圧モーニング・サージと、夜間の血圧低下による脳低灌流のいずれかによって決まる可能性がある。前者のメカニズムを支持する根拠は2つあり、その一つ目は、extreme-dipper型では脳卒中の60%が朝の時間帯(午前6時から正午)に発生し、ほんの30%が夜間(夜12時から午前6時)のものである一方で、dipper型とnon-dipper型では脳卒中の46%が朝の時間帯、および7.7%が夜間に発生したということである。二つ目は前述の通り、高度の夜間血圧低下パターンからは、MBPSなしで脳卒中の発生を予測できなかったことである。
発生時間と脳卒中の病型
虚血性および出血性脳卒中の両方が、非MS群よりもMS群で朝の時間帯(午前6時から正午)に集中する傾向が強かった。そのため、アテローム硬化性脳血管に働くせん断応力増大などの血行力学的機序を通して、過度のMBPSが脳卒中を引き起こしているという考え方は合理的であるが、朝の時間帯に変化する因子は他にもいくつかある。それらには交換神経活動、特にα-アドレナリン作動の亢進があり、11,12 血小板機能亢進、血液凝固亢進や線溶低下、血液粘性増加、血管けいれんなどの深刻な危険因子も含まれる。6,13,14 深刻な危険因子の増強作用に関しても、非MS群よりもMS群のほうで強く、さらに早朝の脳卒中発生に寄与している可能性があるため、今後の研究でさらに調査する必要がある。
無症候性脳梗塞(SCI)との関連性
いくつかの試験でMBPSと標的臓器障害との関連性が示されており、Kuwajimaら15の報告では高齢の高血圧患者23名において早朝の起床後SBP変化が、心臓拡張機能を示すA/E比と左室重量係数に対して有意に関連していた。無症候性脳梗塞は後続の臨床的な脳卒中の強力な予測因子であり(概算OR 6~10)9,16、脳卒中の最も重要な高血圧標的臓器障害マーカーであると考えられる。本調査においては、試験開始時の脳MRIで検出されたSCIの罹患率とMBPSの有意な横断的相関と、脳卒中イベントとMBPSの有意な相関を確認した。この相関関係は多発性SCIで特に強かった。SCI罹患率は同試験集団における脳卒中イベントの強力な予測因子であり、MBPSと脳卒中リスクの関係はSCIの影響を受けていなかった。従って、高齢の高血圧患者から「高度のモーニング・サージ」グループを特定することには、標的臓器障害の評価後でも何らかの臨床的意義があるかもしれない。
降圧治療薬
調査対象は脳卒中リスクに対する降圧薬の効果ではなかったが、降圧薬の利用が脳卒中リスクの低下に有意に関連していることが確認された。その上、MBPSは降圧薬利用に関係なく脳卒中リスクに有意に関連していた。従って、降圧薬によるMBPSの抑制が脳卒中予後を改善するかもしれない。
調査の限界
今回の前向き調査はその規模がある程度大きかったものの、脳卒中の数は比較的少なかった。さらに、日本と米国または欧州諸国との間には、心血管疾患の疫学で顕著な相違がある。日本では冠動脈疾患が多くないものの、脳卒中に関しては白人や黒人よりも発症数が多い。我々の新しい調査結果の一般化可能性を確認するためには、日本人の大きなサンプルと他の人種を対象にさらなる研究を行う必要がある。
結論
過度のMBPSが高血圧の日本人高齢患者における脳卒中の独立予測因子であることが、本調査によって明らかとなった。先行研究ではextreme-dipper型で脳卒中リスクが高く、その基本的メカニズムが夜間における過度の血圧低下よりも、むしろモーニング・サージにあるという可能性が示されたが、本調査結果はこれをさらに拡大するものである。また、高血圧患者における標的臓器障害と後続の心血管イベントを予防する上で、血圧モーニング・サージが新しい治療標的になる可能性が明らかとなった。今回の結果に関しては、MBPS抑制を目的とした降圧薬を用いて、大規模な無作為化対象試験と他の人種で確かめる必要がある。