尿路上皮癌の病期分類

目的:尿路上皮癌を病期分類するためのポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影において、11C-コリンは他のトレーサーよりも優れた診断能力をもたらすと仮定されていたため、我々はこの撮像法における11C-コリンと、既に十分な研究が行われていた18F-FDGトレーサーの有用性を比較した。
研究方法:本研究では11C-コリンと18F-FDGのポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影による限局性、および転移性病変評価を受けた膀胱癌の治療継続患者20名を対象とし、ポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影の結果に関係なく放射線療法または化学療法とともに、リンパ節摘出および根治的膀胱切除術を行った。対照標準に関しては、後続のポジトロン断層撮影と放射線像から得た病理組織学的所見(可能な場合)を基に設定した。そして我々は2標本t検定を用いて、トレーサーの最大標準化集積値と「病変部 対 バックグラウンド」比率を比較し、陽性予測値の算出を行った。
結果:計51箇所の病変部がトレーサーの異常な活動を示していた。検出した全病変の陽性予測値は11C-コリンのポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影で84.7%、18F-FDGのポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影で90.7%であり、さらに膀胱外病変の陽性予測値はそれぞれ79.4%と88.2%であった。トレーサー間で食い違う結果は11施設で確認されている。18F-FDGのポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影法では、コリンの同撮像法で欠落していた4箇所の膀胱外転移を正確に識別することができた。膀胱外部位における平均および最大標準化集積値と病変部-バックグラウンド比率はFDGで有意に高かった。
結論:比較的少人数の患者と部分的な病理組織学的分析という制限があるものの、11C-コリンのポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影は転移性膀胱癌の検出において、18F-FDGのポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影と比べてメリットを有していないようである。それどころか、18F-FDGポジトロン断層撮影/コンピュータ断層撮影の方がより高い精度をもたらす傾向がある。
キーワード:癌腫、移行細胞;ポジトロン断層撮影;断層撮影、放射型コンピュータ;コリン;フルオロデオキシグルコースF18
筋層浸潤性膀胱癌は侵襲性の上皮性腫瘍であり、高い確率で早期全身転移をもたらす。膀胱癌の正確な局所および遠隔病期分類[distant staging]は、治療と予後において極めて重要であるものの、未だに課題として残っている。転移性病変に対してはシスプラチンをベースとした化学療法が一般的であるが、膀胱に限局している癌への処置は、骨盤リンパ節摘出を伴う根治的膀胱切除術になることが多い。1根治的治療前に補助化学療法を行う必要があるかどうかに関しては、膀胱外の病変範囲を基に判断する。2-5
現在は3次元コンピュータ断層撮影による尿路造影法と核磁気共鳴画像法が、尿路上皮癌の臨床病期分類に用いる標準的手法であり、両方の撮像法は最大で40%の有意偽陰性率に関連している。6 18F-FDG放射性トレーサーを用いたPETでは腫瘍の形態学的外観だけでなく生物学的挙動、つまり腫瘍細胞によるグルコース消費量の増加も確認できるため、泌尿器におけるさまざまな悪性腫瘍の術前評価ではこの撮像法を用いるケースが多くなっている。7 しかし、膀胱癌の病期分類に関しては、18F-FDGを用いたPET/CTの場合とCTのみの場合との間に明確な差はなかった。8 膀胱外およびリンパ節病変の検出率が比較的低い原因は、取り込んだFDGの尿中排泄にあると考えられる。9
11C-コリンは泌尿器系へほとんど排泄されない放射性トレーサーであるため、骨盤内悪性腫瘍の代謝マーカーとしてはFDGよりも優れている可能性がある。対象患者数が限られていた最初の研究では11C-コリンPET/CTの精度が、18F-FDGを用いたPET/CTのものよりも明らかに高いことがわかった。9, 10 本研究では尿路上皮癌の局所および遠隔転移の評価を目的としたPET/CTにおいて、11C-コリンと18F-FDGの有用性を比較した。
研究方法
前向き症例集積研究デザインを採用した本研究は、組織学的検査で尿路上皮癌が明らかとなり、2008年2月から2010年5月にかけて単一の第3次医療施設に通院していた継続患者20名を対象に行った。そのうちの17名は再発性の非筋層浸潤性疾患である筋層浸潤性尿路上皮癌を呈していたため、根治的膀胱切除術の候補者であり、その他の3名は根治的膀胱切除術後の追跡検査を受けていた(図.1)。後に患者2名の追跡検査に関する病理組織学的データや臨床データが不十分であることがわかったため、それらの患者は分析対象から除外した。
すべての患者に対して標準的な18F-FDGおよび11C-コリンPET/CTを行い、結果に関係なく治療を施した。そして化学療法を受けた数人の患者に対しては、トレーサーの集積量変化を追跡するために2回目のPET/CTを行った。本研究は治験審査委員会が認可しており、インフォームドコンセントに関しては全患者から書面にて取得した。

PET/CTプロトコル
PET/CT開始前の6時間は食事を控えるよう患者に指示した。画像は集積化8スライスPET/CTスキャナー(Discovery ST, GEメディカルシステムズ社、ウィスコンシン州ミルウォーキー)を使用して得たものであり、さらに最初の画像は10~12mCiの11C-コリン静注5分後に、低用量で非診断的な腹部/骨盤CT(30mAs)を行って獲得したものである。PETでは3次元モードでベッドポジション毎に120~150秒間撮影した。CTデータは減弱補正で使用し、投影データのオンライン復元では製造会社提供の3次元反復ソフトウェア(Vue-Point<img src="/images_e/e/F075.gif" alt="レジスタードマーク" width="15" height="15" border="0" />)を用いた(GE;反復2、対象28、スライス厚3.27)。最初の画像を獲得した後は、11C-コリン投与の約40後に10~15mCiの18F-FDG静注を行った。18F-FDG取り込み中の間は患者を快適で暖かい環境に置き、身体活動を最低限に抑えた。そして適度に希釈したヨード造影剤(1,000cc)を経口投与し、18F-FDG投与60~70分後に2回目の画像収集を開始した。スキャン前の検診で禁忌を認めなかった場合に限り、自動装置を用いて静脈注射用カニューレ(Dual-Shot、GE-Nemoto)経路でヨード造影剤(Ultravist<img src="/images_e/e/F075.gif" alt="レジスタードマーク" width="15" height="15" border="0" /> 300)を注入した(1秒当たり100ml、2.0ml)。そして自然呼吸時に頭蓋底から大腿中央部にかけてフルトルソ診断用ヘリカルCT(120kV、80~280mAsに調整、スライス厚2.5mm、ピッチ0.875)を行い、その後すぐに2次元モードでPETを開始して、患者の体格にもよるがたいていの場合は6、7回のベッドポジション毎に120~150分間の撮影を行った。投影データは製造会社提供の2次元反復ソフクトウェア(VuePoint)を用いてオンラインで復元したものである(GE;反復2、対象28、スライス厚3.27)。

画像評価
製造会社提供のプロプライエタリ・ソフトウェア(Advantage Workstation 4.2、GE Healthcare)を用いて、病変部における11C-コリンおよび18F-FDG集積度の定量分析を行い、膀胱腫瘍および膀胱外病変部における両放射性トレーサーのSUVmax値とL/B比を求めた。SUVmax値を得る上では病変部に集積した11C-コリンと18F-FDGをすべて対象にするために、軸位断像と冠状断像、および矢状断像から成る3次元ROIを手動で設定した。そして、コンピュータ断層複合撮影法を用いて11C-コリンと18F-FDGのPET/CT画像を注意深く配列し、病変部全体を対象とした同一のROIを両トレーサーの画像上に表示した後、膀胱内の尿[urine]バックグラウンドROIを使用して膀胱腫瘍における集積量の比較を行った。膀胱外に病変がある場合には、臀部筋肉上にバックグラウンドROIを置いてL/B比を算出した。

対照標準
外科的切除標本の組織学的検査が可能であった場合には、その結果から対照標準を得ることができた。そして、広範囲に及ぶリンパ節切除と膀胱前立腺全摘術を受けた患者を対象にして、解剖学的領域を基にリンパ節の評価と病変部の特定を行い、健康診断でリンパ節の腫脹が明らかとなった患者1名に対しては、鼠径部リンパ節の生検を行った。また、PET/CTと外科的処置の間に化学療法や他の治療を受けた患者を対象とした際には、病理組織学的データが利用可能な場合に限り、放射線/臨床データを対照標準として使用した。フォローアップ中のPET/CTで病変の進行や化学療法後の退縮を確認した際には、「充実性腫瘍のPET反応基準」と「充実性腫瘍の反応評価基準」に基づいて検査結果を真陽性と判断し、11 1年以上のフォローアップで病変部の拡張を確認しなかった場合には良性とみなした。
統計分析
両トレーサーを用いたPET/CTの結果を対照結果と比較し、各トレーサーのPPVを1箇所単位で計算したが、対照となる組織学的研究が患者の大半で行うことができ
ず、さらに病変部位全体の正確な測定が実行不可能であったため、おおよその正診率[General sensitivity and specificity]を求めることができなかった。そのため、我々はp<0.05を統計的に有意とした上で、ペアt検定を用いてSUVmax値とL/B比を比較し、陽性結果の追加評価を行った。

結果
対象患者(18)の臨床的および病理学的特徴を表1にまとめた。フォローアップの平均期間は14ヶ月(範囲は3~27ヶ月)であり、研究プロファイルに関してはそのフローチャートを図1に示している。最終的には患者7名に膀胱前立腺全摘出術、および2名に経尿道的膀胱腫瘍切除術を施した。PET/CT研究の実施後には術前補助化学療法を行ったため、同患者7名のうち2名に根治的膀胱切除を施行した後は、その組織学的所見を対照基準として使用しなかった。PET/CTと手術間の平均日数は53日(範囲は19~80日)である。
異常なトレーサー活性(11C-コリンおよび/または18F-FDG)を示す計51箇所の解剖学的部位を特定した。その内訳は膀胱が12箇所(24%)、膀胱外部位が39箇所(76%)であり、後者では骨盤内が25箇所、腹腔内が8箇所、鼠径部が4箇所そして大動脈周囲が2箇所である。組織学的データは51箇所のうち16箇所の部位で利用可能であった。2件の研究のいずれかで特定していた膀胱外部位の病変は、病理組織学的研究で3名の患者から確認した。22箇所の部位に関しては、フォローアップPET/CTにおける化学療法への応答度を基準値とした。2回行った撮影間の平均期間は3.6ヶ月(範囲は1.13~7.8ヶ月)であり、化学療法施行後からフォローアップ撮影までの期間は34日(範囲は19~77日)である。対照となる造影剤を用いてフォローアップCTを行い、そこから得た疾患進行状態の基準に基づいて、腹部における他の13箇所のトレーサー活性を真陽性と判断した。表2では腹部の病変部位におけるトレーサー活性の詳細と、腫瘍量の測定で用いた対照標準を示している。
11C-コリンPET/CTの精度
46箇所の部位で11C-コリン集積量が増加し、そのうちの39箇所(膀胱で12箇所、膀胱外で27箇所)で悪性腫瘍が発生していた。7箇所の偽陽性部位はそのすべてが膀胱外のものであり、病理組織学的検査ではそのうちの4箇所に炎症過程があることがわかった。1箇所単位の分析における11C-コリンPET/CTのPPVは、検出したすべての病変部で84.7%、膀胱腫瘍で100%、および膀胱外病変部で79.4%であったが、同トレーサーは腫瘍が発生している骨盤内部位4箇所と、大動脈周囲1箇所を示していなかった(図.2)。
18F-FDGを用いたPET/CTの精度
43箇所の部位で18F-FDG集積量の増加、そのうちの39箇所(膀胱で9箇所、膀胱外で30箇所)で悪性腫瘍の真陽性を確認した。1箇所単位の分析では18F-FDGを用いたPET/CTのPPVが、検出したすべての病変部で90.7%、膀胱腫瘍で100%、および膀胱外病変部で88.2%であった。膀胱腫瘍3例と骨盤内腫瘍2例に関しては18F-FDGの集積量が記録されなかった(図.3)。表3では11C-コリンおよび18F-FDGを用いたPET/CTの病理学的/臨床的検査結果の相関関係をまとめている。
トレーサーの比較
11C-コリンと18F-FDG間の相違点は、3箇所の膀胱部位と8箇所の膀胱外部位で確認した。ちなみに後者の内訳は骨盤内が5箇所、鼠径部が2箇所、後腹膜が1箇所である。表4では検査結果と対照標準間の相関関係、および部位を詳細にまとめている。
すべての部位におけるトレーサー集積量の平均SUVmax値に関しては、18F-FDGが11C-コリンよりも有意に高かった(それぞれ9.5±8.3 対 5.5±5.2、p=0.003)。膀胱部位と膀胱外部位の別々の分析では、18F-FDGの平均SUV値が高くなる傾向があり(膀胱部位 14.9±9 対 7.8±7.4、膀胱外部位 8.9±6.5 対 4.4±4.3)、また、膀胱腫瘍では11C-コリンと18F-FDG間でL/B比に有意差がなかった(それぞれ2.4±3.8と3.5±1.4、p=0.38)。しかし、転移腫瘍に関しては18F-FDGのL/B比が11C-コリンのものよりも有意に高かった(4.6±3.4 対 2.5±1.7、p=0.02)。

考察
本研究では膀胱癌の病期分類を目的としたPET/CTにおいて、11C-コリンが18F-FDGよりも高い診断学的価値をもたらすかどうかを判断した。18F-FDGを用いたPET/CTによる膀胱癌の病期分類については、文献を通していくつかの報告が発表されており、さらに18F-FDGの術前PET/CTを対象としたある初期研究では、60%の検出感度と88%の特異度、および78%の精度を報告している。12 Kibelらが42名の患者を対象に行った最近の前向き研究では、70%の検出感度と94%の特異度という高い率が示された。13 しかし、それとほぼ同時期にSwinnenらは、CT単独と比べてFDGのPET/CTにはメリットがないことを発表している。8 さらに18F-FDGの生理的な尿中排泄が、同トレーサーの利用範囲を大幅に制限しているという報告がある。14

コリンはリン脂質の生合成、つまり細胞膜の構築に必要な代謝成分である。癌細胞の増殖亢進はリン脂質の増加に伴って生じるため、腫瘍ではコリン集積度が高くなり、それと同時に泌尿器系へのコリン分泌量が減少する。そのため、骨盤内悪性腫瘍の病期分類ではコリンが有望なトレーサーとなる。尿路上皮癌の病期分類における11C-コリンの有用性を評価したのは、今のところ患者数が限られていた2件の研究のみである。Picchioらは根治的膀胱切除と骨盤内リンパ節切除を勧められていた膀胱癌患者27名を対象に、11C-コリンを用いてPETと腹部CTを術前に実施し、10 膀胱の残存疾患の検出感度が11C-コリンPETで96%、およびCTで62%であり、転移疾患への換算値が84%と50%であったことを報告している。転移疾患検出におけるCTの特異度は78%であったが、擬陽性結果はPETで得ることができなかったため、彼らの結論は、膀胱の残存腫瘍検出に関しては11C-コリンPETとCTの間にほとんど差がない一方で、リンパ節腫瘍の検出では11C-コリンPETのほうが優れている可能性があるというものであった。Gofritらが11C-コリンPET/CTを用いて進行性尿路上皮癌の患者18名を評価した際には、9 原発性膀胱腫瘍が全患者で正確に示され、術前における膀胱外のトレーサー集積が腹部CTによって4名の患者で確認された。また、転移疾患の病理組織学的証拠は、手術を受けた患者4名のうち3名に対して利用可能であった。
本研究では18F-FDGを用いたPET/CTの使用増加とともに、11C-コリンPET/CTの利用という貴重な初めての経験を得ることができた。また、本研究は同じ尿路上皮癌患者を対象に、2つのトレーサーの性能を比較した初めての経験的研究である。対象患者数が比較的少数となる本研究では、11C-コリンPETが18F-FDGのPETと比べてメリットを有していなかった。また、膀胱外転移の特定では18F-FDGのPETが11C-コリンPETよりも高いPPVを示していた(88.2% 対 79.4%)。
完全な組織学的対照標準(つまり、根治的膀胱切除およびリンパ節切除標本)が5名の患者のみに対して利用可能であり、陰性予測値が計算不可能であったため、トレーサーの絶対的な精度ではなく、相対的性能のみを基に結論を導き出した。18F-FDGのPETでは11C-コリンPET/CTで検出されなかった4箇所のリンパ節転移と、有意に高い膀胱外18F-FDGのSUVmax値とL/B比を確認できたため(表4)、転移の広がりを特定する上では、18F-FDG集積が少なくとも11C-コリン集積と同程度に良い結果をもたらすと考えられる。しかし、18F-FDGの場合は3例の膀胱腫瘍が認識されなかった。11C-コリンの集積量増加を確認した膀胱部に、FDGが全く取り込まれなかったわけであるが、我々はその理由を見出すことができなかった。
結論
この予備研究には制限があったものの、18F-FDGの代わりに11C-コリンをトレーサーとして使用しても、尿路上皮癌に対するPET/CTの検出精度は向上しないことがわかった。それどころか、膀胱外疾患の検出では18F-FDGを用いたPET/CTのほうが、11C-コリンPET/CTよりも優れた診断能力をもたらす可能性がある。従って、尿路上皮癌の診断と病期診断を正確に行うためにも、18F-FDGと他の新規トレーサーの使用データをさらに収集する必要がある。