癌患者の服薬指導に必要な知識


 ここ30年間,臨床に供された抗癌剤は50品目余りにのぼり,その適応も造血器腫瘍から固形癌へと拡がり,癌患者の延命率・治癒率向上へと大きく寄与してきた。種々の併用療法とその改良法の確立,並びに支持療法の薬剤の開発等によって,癌の薬物療法の選択肢は非常に拡大してきたが,それに伴い薬剤師に必要とされる知識・技術も増大の一途をたどっている。

 また,最近問題となった5-FUと抗ウイルス剤ソリブジンの相互作用の例が象徴するように,今,薬剤師のチェック機能が強く問われている。個々の患者の投与薬剤全てについて薬物動態と作用機序を理解した上で,相互作用の把握と治療への情報提供を求められているのである。

 ここでは癌患者の服薬指導を取り上げ,それに必要な基礎知識を解説し,癌の薬物療法の領域における薬剤師の役割について記載する。


 まず癌の病態あるいは合併症状から考えられる投与薬剤を挙げ,投与設計や副作用・相互作用の判断の基礎となる薬物動態に触れた上で,起こり得る相互作用,副作用とその対処法,癌性疼痛の管理,そして抗癌剤の製剤学的注意事項をまとめる。

 癌患者への投与薬剤

 薬物治療の中心となる抗癌剤に加えて,抗癌剤による副作用軽減のため支持療法の薬剤が併用される頻度が高い。例えば後述するように白血球減少にG CSF製剤,悪心・嘔吐に制吐剤等である。各種感染症の治療には抗生物質・抗真菌剤・抗ウイルス剤も投与される。癌性疼痛に対しては鎮痛剤が投与され,患者の精神状態により必要に応じて抗不安剤抗うつ剤が用いられる。症例によっては,術後あるいは病状の進展に伴い栄養管理のためにTPNが施行され,高カルシウム血症や褥瘡の治療薬剤が用いられることもある。また抗癌剤に高感受性の癌では高尿酸血症が生じ易く,その治療薬が併用される可能性が高い。