神経芽腫の治療;移植前の超大量化学療法(Hi-MEC療法)

 

 治療は年齢と病期により異なる。腫瘍が局所に限局しているI期やII期でかっ本腫瘍に特徴的ながん遺伝子であるN一mycが増幅していない場合やマス・スクリーニングで発見される1歳未満例は比較的予後良好なため手術で腫瘍を摘出するだけか、それに短期間のvincristinとcyclophosphamide (Endoxan)による化学療法を追加するだけでよい。しかし、対側リンパ節や遠隔臓器に転移したⅢ、Ⅳ期はきわめて予後不良なため強力な化学療法が必要である。

 これら進行例に対する治療は、まずcyclophosphamide+etoposide (Lastet、 Vepesid)+pirarubicin (Therarubicin、 Pinorubicin)+cisplatin (Randa、 Briplatin)による厚生省神経芽腫研究班のNew A1プロトコールを4週毎に3回行い、腫瘍を十分縮小させた上で、患児の骨髄を大量に採取し、混入しているがん細胞をモノクロナール抗体と磁性マイクロ・ビーズを用いて選択的に除去(in vitro purging)し、液体窒素中に冷凍保存する。その後、残存腫瘍の摘出と転移部の放射線照射を行い、さらにNew A1 プロトコールを2~3回追加した後、自家骨髄移植を行う。移植前にはがん細胞を根絶するためにcarboplatin (Paraplatin) 1、600mg/㎡+etoposide 800噌/㎡+melphalan (Alkeran) 180mg/㎡から成る超大量化学療法(Hi-MEC療法)を行う、この超大量療法には濃度依存性で投与量を増やせば増やすほど殺細胞効果が増強し、かつ骨髄抑制以外には重篤な臓器障害を起こさない薬剤が選ばれる。

 以前は20%以下であった進行神経芽腫の生存率もこれら新しい治療法により50~60%と飛躍的に改善してきた。

 乳幼児の腹部や縦隔から発生する悪性度の高い腫瘍で、本邦では年間200人前後の発生がみられる。

 症状は発熱、食欲低下、顔色不良などの全身症状以外に腹部に発生すると腹部膨満やしこり、縦隔原発では呼吸困難や脊髄圧迫症状(筋力低下や麻痺)が出現する。この腫瘍は早くから骨や眼窩に転移じゃすく眼球突出や眼周囲の皮下溢血により見つかることもある。診断は摘出腫瘍の病理検査により行われるが、本腫瘍はカテコーラミソを産生するためその代謝産物であるVMA (vanillyl mandelic acid)やHVA (homovanillic acid)の尿中排泄増加を測定することによっても行える。 1985年から始まった6ヵ月の乳児を対象とする尿中VMAテストは現在では全国的に実施されるようになり本腫瘍の早期発見に役だっている。