甲状腺癌の化学療法

 甲状腺癌は発生頻度が低く、ほとんどの症例は手術療法で完治するので、化学療法が試みられる症例が限られてくる。従って世界的にみて、大規模なプロトコールスタディを行って、治療方法を比較して標準的治療を確立することに困難さがある。特に日本では個別的に症例を集積した散発的な報告が多く、いわゆる、クリェカルトライアルは行われていない。ここでは主に外国で報告されている文献を中心に紹介しておきたい。

 選択される薬物はanthracycline系のadriamycin (ADM)、白金系のcisplatin (CDDP)、抗生物質系のbleomycin (BLM)、 pepleomycinなどが主で、最近ではetoposide (VP16)なども使用されている。これらを二剤または三剤組み合わせるのが主流である。しかし、現在までのところ単剤でADMに勝る抗腫瘍効果はないが、多少優れていることから併用療法が標準的な治療と言えよう。

 その根拠となる代表的な報告が嶋岡らが1976年から6年間にわたりまとめたECOGでの多施設共同で行った成績で、 ADM単剤(60ng/sqm)とADMにCDDP (40mg/sqm)を併用した両群間の無作為比較試験の結果、 ADM単剤では41例中17例、 17%がPRの奏効率を示し、うち分化癌31%、未分化癌5%、髄様癌25%であった。併用群では43例中11例、26%に効果(CR12%)が見られ、 p<0.10とわずかに併用群が勝っていた。組織別効果は分化癌16%、未分化癌34%、髄様癌33%であった。その後、 Southe-stern Cancer Study Group (SCSG)3)でも同様に、 ADM 60胃/sqmにCDDP60mg / sq mを併用した成績は、28例中わずか2例、7%の低い奏効率であった。

 一方イタリアのBesiらはADM、 CDDPにBLMを併用したBAP療法では21例中9例. 43%の抗腫瘍効果(うちCR 10%で、分化癌38%、髄様癌38%、未分化癌60%)を報告している。 Sokal らは5)未分化癌を対象にADM 60mg/sqmにBLM 30mg/sqmとVCR 2 mg/sqmを併用したABC療法では64%の奏効率を得ている。

 稀に見られる悪性リンパ腫は未分化癌、とくに小細胞癌との鑑別診断が大切である。早期に甲状腺皮膜に浸潤するので手術的に摘除することが困難であることから確診がつけば化学療法、放射線療法を行うことである。代表的な化学療法は6)VEPA(CHOP)で、 VCR、 CPA、 ADM、 prednisoloneか、これにMTXを併用したVEPAMとがあるが、 VEPAMの方がよりCR率が高いと報告されている。