副腎癌:Mitotane(オペプリム)単剤および併用投与

 副腎癌には副腎皮質癌のほかに髄質由来の悪性褐色細胞腫があげられるが、ここでは副腎皮質癌に対する薬物療法を中心とした治療の現状について述べる。

 種々の薬物療法が著しい進歩をとげた今日でも、副腎皮質癌においてはいまだ有効な化学療法が確立されていない。また、放射線に対する感受性も低いため、治療の中心は外科的切除に限られている。転移巣も含めて切除可能な病変はできる限り切除する。現在のところ化学療法はこれを補う補助療法にとどまる。最も効果が期待される薬剤としてはMitotaneがあげられる。ここではMitotane単剤での治療の現状を述べ、次いでMitotaneと他剤の併用あるいはMitotane無効例に対する化学療法の成績などについて述べる。

      1. Mitotane単剤の投与法と治療効果

 Mitotane (オペプリム)は殺虫剤DDTの近縁物質DDDの光学異性体0、p'一DDD: 1、 l-dichloro-2- (o chlorophenylJ-2 (p chlorophenyl) -ethaneである。本剤は副腎皮質細胞の直接破壊作用のほか、副腎皮質における種々の酵素系、すなわち、 cholesterol desmolase、 3βhyd-roxysteroid dehydrogenase、 11βhydroχylase、 21-hydroχylaseなど
酵素活性を阻害することにより、ステロイドホルモソの生合成をも抑制する。また本剤は副腎外、とくに肝におけるステロイド代謝にも影響を与え、Cortisolから17-OHCSへの代謝も阻害する3)~7)。

 進行性副腎皮質癌におけるMitotane単剤での投与法および抗腫瘍効果を示した。最も副腎皮質癌に対して有効と考えられているMitotaneですら可測病変改善率は22~61%であり、その効果持続期間は平均8.9ヵ月から32ヵ月である。本剤の特徴の一つにその強い副作用発現(消化器症状、神経・筋症状、皮膚症状、肝機能障害など)があり、このため十分量の投与が困難となっている。このためまず1~3g/日の少量から経口投与を開始し、副作用の発現の状態をみながら漸次増量する。何らかの消化器症状は必発であるので、消化器系の合併症の有無は投与前に確認しておく必要がある。

 Mitotaneを経口投与するとそのおよそ40%が速やかに腸管から吸収され、血中濃度は急激に上昇する。一方、半減期はきわめて長く、長期にわたって体内に蓄積する。投与中止後1年以上たってもその代謝物が血中から検出される。このため増量して行く場合、時々血中濃度を測定しておくことが望まれる。本邦では発売元の日本ルセル社で血中濃度の測定が可能であ
る。 Von Slooten らの報告によれば血中濃度10μg/m 以下では効果はみられず、効果のみられた症例は全て14μg/ml以上であり、25μg/ml以上に維持しえた症例で100ヵ月以上の長期寛解例が認められている。多量投与で血中濃度が上昇すると副腎不全を生ずる可能性が高く、こうした場合にはあらかじめhydrocortisoneの補充を行っておくべきである。

 本剤はその作用機序などから内分泌活性のものでより効果が期待されると考えられていたが、その後の報告では内分泌活性癌と非活性癌とにおける奏効率に明らかな差異は認められていない。また、本剤の強い副作用発現に対して、他剤との併用によりMitotaneの減量の試みが種々検討されているが十分な臨床的成果は得られていない。

        2. Mitotaneと他剤の併用療法

 Mitotane単剤投与に関しては表1の如く比較的多数例での検討がなされているが、それ以外の治療法について副腎皮質癌がまれであることもあってまとまった報合がみられない。Mitotane との併用では少数例であるが、Streptozocin、 Tegafulで有効例が報告されている。Erikssonら11)は進行癌3例にMitotaneとStreptozocinを併用してうち2例で著しい腫瘍の縮小を認めた。手術療法の併用により、 6.5年および20ヵ月以上の長期寛解が得られたと報告している。また、中村ら12)はMitotaneとTegafulの併用により肝、肺の転移巣の著しい縮小がみられ4年以上生存じた症例を報告している。これらの症例はいずれも内分泌活性癌であった。一方、JensenらはMitotaneに5-FU、 Etoposide、 Doxorubicin、 Cisplatinなど種々の薬剤の併用を18症例で試みたがいずれも全く効果がみられなかったと報告している。