乳癌の病期別分布:穿刺吸引細胞診(needle biopsy)や切除生検

 わが国における乳癌患者数は近年急速に増加しており、女性の癌死亡の中で第1位になることは確実視されている。欧米における乳癌発生数は例えば米国では1992年には女性の実に8人に1人がその生涯の間に乳癌になると報告されている。わが国ではそれほどでないにしても、その3ないし4分の1程度の発生頻度が予想されている。

 乳癌の症例数が増加するにつれ、その診断や治療の面でも様々な研究や診療上の開発が行われており、その方面での進歩も著しい。

 従来、日本の乳癌の特徴は、欧米に比べ好発年齢のピークがやや若く40歳代にあったが、近年次第に50歳前後に移動しつっある。欧米の乳癌のピークが50歳代にあり、それに近づく傾向を示している。ピークは40歳代でそれも48~49歳に認められており、次いで50歳代、60歳代と続いている。最近は人口の高齢化に伴い70歳以上の高年齢の乳癌も増加してきている。また20~30歳代でも以前に比べて増加してきているようである。

 乳癌の診断の基本となるのは第一に乳房のしこりであり、ついで乳頭の異状分泌である。乳癌の場合、乳房の疼痛はあまり関係がない。この他腋窩リンパ節の腫脹や乳頭のへこみなどが認められることもある。乳房の形の左右差がみられることもある。いずれにしても視触診だけでも80%以上の診断は可能であるが、それを更に確実に診断するために乳房のX線撮影(マンモダラフィー)や超音波検査などが行われる。さらに診断がつかない場合は穿刺吸引細胞診(needle biopsy)や切除生検を行い正確な診断が下される。

 実際に病院をおとずれる乳癌患者はしこりを主症状とする場合が多く、自己検診でみっけた人も最近は増加してきている。簡単に説明すると、I期とはしこりの大きさが2.Ocm以下、II期は2.1~5.Ocm、Ⅲ期は5.1cm以上、Ⅳ期は大きさに関係なく肺、肝、骨などの遠隔臓器にすでに転移があるものを指している。その他に腋窩リンパ節転移の有無も予後に重大な影響を及ぼす因子である。I期の乳癌は言いかえれば早期癌であり、病期の小さいものほど予後は良い。

 当院のような東京という大都会の患者がそのほとんどを占める施設でありながら、Ⅲ期(Ⅲa十Ⅲb)とⅣ期といった進行した乳癌が20%以上みられることはかなり特異的なことと考えねばならない。すなわち乳癌患者の4~5人に1人は手遅れの状態であるということである。

 乳癌治療の第一は手術療法であり、その他に放射線療法、ホルモン療法、化学(抗癌剤)療法などが行われている。 Ⅰ~Ⅱ期の場合には手術療法のみでも完全に治癒する可能性が高く、すべての症例を治癒させる目的で、他の治療法が加えられている。放射線療法は手術と同様局所療法であり、乳房温存療法の際に残存する癌細胞に対して用いられることが多い。これに対して、ホルモン療法や化学療法は局所のみならず全身的な治療として行われている。

 当院における乳癌の手術成績をみると病期別の粗生存率で示してあるが、他病死を含めてI期の5年生存率は94.1%、 Ⅱ期では85.1%、Ⅲa期で70. 6%、Ⅲb期では50. 6%、Ⅳ期-C30. 0%である(ⅢbはⅢ期の中でもさらに局所進展の強い場合を言う)。I期ではほとんど手術だけでも治癒する可能性が高いが、II期以上となると何らかの補助療法が必要である。

 Ⅲ期、Ⅳ期となると手術のみでは不十分で、かならず何らかの全身的な治療が行われる。再発乳癌の場合も同じで、この場合はホルモン療法や化学療法が例外なく行われている。

 従って乳癌の薬物療法としては、手術に際して行われる手術補助療法と、進行・再発乳癌に対する主療法としてのホルモンあるいは化学療法に大きく二つに分けられる。