更年期障害は病気ではなく「高齢期のスタート地点」

一般的に「閉経の5年前から5年後が更年期」とよく言われていますが、卵巣機能がここまで低下した時が更年期、というような医学的な定義はありません。そもそも、日本は「更年期=更年期障害」ととらえて治療をしますが、それ自体が、貧しい発想と言わざると得ません。

特に欧米人は更年期を、「人生の折り返し地点」、あるいは「これから訪れる高齢期のスタート地点」という、人生における一時期としてとらえていて、高齢期に起こりうる様々な病気や症状を予防して、健康で元気に過ごすための、さまざまな治療や生活上の工夫を始めるといいます。「更年期障害を治す」という考え方は全体の中の、ほんの一部にすぎないわけです。

こうした海外の予防医療的な発想に対し、日本、具体的にいうと日本の医療は、健康保険の制約もあり、更年期障害の治療に偏りがちです。本当なら、これまでの生き方、暮らし方を含めて自分自身を振り返り、またそうした生活が体にどう影響を与えて来たかを客観的に確認し、これからの障害に向けてどのような対策をとっていくかを見極めていくのが、更年期であり、更年期医療なのです」

また、「更年期障害は怖い」というイメージは必ずしも正確ではなく、何かしら症状はあるものの、実際に病院での治療が必要なのは全体の2割ぐらいの人たちだというデータもあります。これといって症状が出ないまま、閉経を迎え、高齢期に入る女性もいるのです。

しかも、こうした更年期に対する先入観や誤解は、患者だけでなく、医師にも少なからずあります。そのため、適切な医療を受けられない患者が複数の病院や診療科を渡り歩いたり、何種類もの薬を飲んでも症状がとれず苦しんだりするケースも少なくありません。どこで診てもらってもよくならないという怒りや不安から、心理的な負担が大きくなり、症状が悪化することもあります。

更年期障害というと、さまざまな症状があらわれて複雑な病気のような感じがしますが、実は、その現認はいたってシンプルなんです。むしろ大変なのは、その原因を患者との診察の中から医師が見つけだすことで、問診にかなり時間をかけないとわからないそうです。そういう意味では、症状だけをみて処方するという診療をしているところでは、少なからず更年期医療を行うのは難しく、不十分な結果となってしまうのでしょう。