脳内のRNA量を増やせば記憶力が良くなる!?


記憶のRNA説を唱える研究者は少なくありませんが、彼らの提出する証拠は、みな荒っぽいものです。いくつかを簡単に説明しましょう。まず水中に住む下等な無脊椎動物プラナリアは、電気ショックを与えると体を丸めます。そこで光を照射してから電気ショックを与えることを繰り返すと、プラナリアは光を照射しただけで体を丸めるようになります。つまり学習の結果、条件反射ができたことになります。プラナリアは二つに切断すると、頭側半分からは尾が、尾側半分からは頭が再生されて二匹のプラナリアになり、いずれも条件反射を示します。この再生中、実験駅にRNA合成を阻害する酵素を入れておくと、頭部から再生したものは条件反射がみられましたが、尻尾から再生したものには条件反射がみられませんでした。この結果は、尾部から再生したプラナリアは新たに脳を作り、RNAを合成しなければなりませんが、RNA合成が阻害されるため、条件反射の記憶が失われたと説明されました。

スウェーデンのヒデンらの研究はもっと実証的です。彼らはラットが餌にたどり着くため、細かい網の上を体の平衡を取りながら登っていかなければならない実験装置で、綱渡りの学習を行わせました。学習が成功したところでラットの脳を化学分析すると、ラットの平衡感覚をつかさどるニューロン内のRNA量が増大するとともに、その塩基組成も変化することを見出しました。さらに右利きのラットの左前肢に餌をとる動作を学習させると、やあり左前肢の運動を支配する大脳右半球のRNA量が増大し、その塩基組成も変化しました。

これらの研究以外にも多くの報告があり、いずれも学習によりRNA量の変化と塩基組成の変化がみられるといいます。これらの研究結果はいずれもRNAが記憶物質であるという過程と矛盾していませんが、しかしRNAが記憶物質であるとも結論できません。また、近年はこの説に特筆するような進展はないようです。