なぜ民間療法や健康食品に手を出してしまうのか

アメリカのように保険制度が十分でない国では、保険に入れる人はまだいいのですが、保険に入っていない人は医療費が非常に高くて簡単な手術も受けられないと聞きます。ある意味で、民間療法に頼らざるを得ないのはわかります。また、一方で病気になるとお金がかかって大変だから、病気にならないように健康食品を一生懸命になって取るのもわかります。

日本のように、国民皆保険制度が充実している国では、民間療法に頼らなくても、病院や診療所に行って、簡単に診療・治療を受けることができます。

では、なぜ民間療法がはやるのでしょうか。

医療不信が原因と言いますが、総じて日本の医療は国際的にみてもかなり高い水準にあります。なんといっても長生きする人が多い。これが証拠です。

医療水準は高いのですが、個々の医療を実行する医師に対する不満はあると思います。病院に行くと長い時間待たされて、診察は3分間。
いろいろ聞きたいことはあるけれど、医師も忙しそうだし、時間がない。中には、患者と向き合い、できる範囲で時間をとろうとする医師もいますが、多くは診察に追われ、患者とじっくり話すことはあまりありません。

最近は、医師は患者の顔を見ないでコンピュータばかり見ている。これには患者の検査数値を見るという理由があるのですが、もっとコミュニケーションをとりたいと思っている患者には不満があります。もともと病気になって心細いわけですから、ただ薬を処方するだけでなく、○○はどうすればいいのか、何に注意していけばいいのか、生活上の注意もいろいろ聞きたい。

それが聞けない。聞いてはいけないと一方的に思い込んでいる節もありますが。

民間療法、健康食品の類には、やって見るだけで病気がよくなるとうたっているものがあります。たとえば、血糖値がみるみる下がったという体験談があると、糖尿病の人は気になります。特別に食事に工夫しなくてもいい、毎日運動しなくてもいい、これを摂るだけと言われれば、心が動きます。

糖尿病をコントロールするには、カロリー計算をして食事を摂らなければいけません。運動も思いつきでやるのではなく、毎日続ける必要があります。

糖尿病と診断された知り合いで、ほぼ毎日プールで水中ウォーキングをしている人がいます。慣れてしまえば、どうということもないよ、と言いますが、慣れるまでが大変だったようです。もちろん家族の協力も必要です。この知り合いは、運動を続けた結果、体重も減り、糖尿病の数値であるヘモグロビンA1cが下がり、いまでは薬もやめています。

毎日体を動かすのは大変ですし、食事をコントロールするのは厄介です。そこに、これだけでいいと言われたら、そんなに効果がなくても飲んでみよう、やってみようという気になります。

先ほど紹介した知り合いとは別の人ですが、血糖値を下げるというお茶を飲んでいます。飲んでいる理由を聞きました。答えは、飲まないより飲んだほうがましだろうという返事です。

それほど期待はしていないが、ほかのものを摂るよりいいだろうという考えです。

健康食品や民間療法の多くを支えているのは、この、何となく体にいいという感覚かもしれません。

バランスのいい食事をして、適度に体を動かすこと。これが健康の基本であることは分かっているが、常にそうできないのが人間です。ついつい食べ過ぎてしまう、運動不足と分かっていても階段を上るよりエスカレーターを使ってしまう。わかっているのですが、できません。

こうした人間の弱さに付け込んでいると言ったら、言い過ぎでしょうか。確実に害があることがわかればやめるでしょう。しかし、有効だという証拠もないのに私たちをひきつけているのは、民間療法や健康食品の送り手が私たちの弱みをよく知っているからではないでしょうか。