病院は「患者獲得」と「技術向上」のどちらを優先しているのか

地域医療計画は、地域の医療ニーズに応じた医療提供施設の体系的整備と医療抑制を目的に1985年の医療法改正により制度化されました。この医療計画には、医療圏(医療計画の単位となる区域)の設定および基準病床数(地域ごとの医療提供上必要とされる病床数)の算定のほか、地域医療支援病院の整備の目標などに関する事項、医療関係施設相互の機能の分担及び業務の連携などに関する事項などについて定めることとされています。
そのなかで、二次医療圏(特殊な医療を除く一般の医療需要で、主として病院における入院医療を提供する体制の確保を図る区域)が、地理的条件や日常生活や交通事情などの社会的条件を考慮し、全国で369圏域定められています。また、三次医療圏、すなわち特殊な医療施設(先進的技術を必要とする医療や発生頻度が低い疾病に関する医療など)に対応するために設定する区域も、基本的に都道府県単位で定められています。
基準病床数は、これらの医療圏ごとにどの程度の病床数を整備すべきかという整備目標として位置づけられるとともに、それ以上の病床の増加を抑制する基準となっています。
この基準は病床が多いと医療費が増加するという医師誘発需要仮説を根拠とし、医療費抑制の目的を持っています。
しかし、この地域医療計画は、医療における規制の代表例のように言われ、内閣府の総合規制改革会議の指摘が出されました。それは、
① 病床規制により医療機関の競争が働きにくく、既存病床の既得権益化が生じ新規参入が妨げられていること。
② 基準病床数の算定方法が現状追認型で、対人口比の地域間格差があること。
③ 地域に実情、ニーズに応じた適切な機能別の臨床数の確保ができていないこと。
の3点が問題であるという指摘でした。これを受けて現在、医療計画の見直しが進められています。
さて、このような規制がないほうがよいという根拠は、規制がないと「競争」が起きやすいからです。では競争について考えてみましょう。
資本主義経済では倒産や撤退なおDNAによる企業穏当外市場からの退出は、自然だと考えられます。畔なら企業リスクの損じあは、企業に堪えず効率化や変革を迫り、そうした企業相互の競争が市場の効率化を促し、ひいては消費者に利益をもたらすからです。最近ではこの規律にM&Aが加わりました。すなわち、株主による評価です。
消費者のニーズの変化に応えることができなかったり、革新的な行動を取ることができなたかったために、競争に敗れた企業は退出を迫られます。つまり競争理論では、同じ資源の投入に対する純粋なリターンの比較によって、投資されるかどうかが決まります。「自らの効用を最大にしないという意味で非合理的な行動をとっている経済主体は、競争的環境においては生き残ることはできないだろう。それゆえ、合理的経済人だけを想定することは、決して不当なことではない」という考えが、市場と競争を結び付けたものであることは容易にわかるでしょう。この考えは、「非合理性を淘汰する」存在としての市場メカニズムへの信頼(市場の合理性)を基礎としています。
なお、退出企業のあとには、むろん、何らかの新規企業の参入が続かなければなりません。したがって、この議論を病院などの医療機関に当てはめる場合には、医療の継続性を考えなければなりません。
さて、ここで競争の有無、程度が問題にないます。
フリードリヒ・ハイエフによると、競争とは「他人も同時に獲得しようと努めているものを、獲得しようと努める行為」です。医療機関の場合には「獲得しようとするもの」を、なんと定義するかで競争条件が変わってきます。すなわち、患者を「獲得しようとするもの」にするのか、患者の求める医療提供を「獲得しようとするもの」にするかです。
すなわち、単純化していえば顧客獲得をめぐる競争は主に価格をめぐって行われ、患者の求める医療提供を求めるプロ同士の競争は主に品質をめぐって行われます。
余談ですが、医師免許に対しても二つの見方ができます。それは品質の保証の手段であると同時に参入を規制しているという見方です。以下はアメリカにおける医療経済学の議論です。
免許は、医師の供給を規制するので、免許制にすると自由競争のもとでは医療サービスの費用が上昇します。医師の教育費用はコストです。従って、参入費用がコストを上回らないと参入できません。原理的には、医学部などへの補助金は医療サービスの値段を下げるはずですが、学校が少ないことで相殺されています。
医学教育の費用は他のどの専門職よりも高いです。学費が同じか少し高いだけなのに、医学教育への補助金が高く、医師の収入が高い。そこで補助金で誘引をつくる必要があるかどうかを疑問視したり、もしこれを認めても、なぜ補助金の額が他より高いかが不明瞭であるという見方もあるのです。