医師はなぜアメリカ西海岸に居を構えるのか

医師が新しい技術を習得、実践する場が日本ではなくなったら、という問題があります
空洞化という言葉があります。一国の経済で空洞化が起こると何が問題なのでしょう。簡単に言えば投資のための資金が海外に流出してしまうことです。それをケインズ経済学的に説明すると、以下のようになります。社会全体の総供給は有効な需要によって決定されます。その需要とは、消費需要、投資需要、政府受容、輸出入に関する需要です。近年の日本の不況は、需要の6割を占める消費が低迷していることが大きな原因です。こういった場合には投資が重要です。政府が赤字なのでそんなに大きな政府需要がないとすれば、民間の投資が重要になります。その数少なく重要な投資が国内でなく海外で行われています。これが国内から見た空洞化の問題です。
医療関係では、すでに「治験の空洞化」すなわち薬を製品化するための患者への投薬研究が国内ではなく海外を中心に行われるようになってきました。しかし、今後は「医療の空洞化」「医師の空洞化」が起きる危険もあります。
優秀な医師が諸外国に活躍の場を求める可能性は十分にあるし、現在すでに基礎医学系の医師やビジネス志向の医師にはそれが起きています。
たとえば、バイオサイエンスの非常に著名な研究者がシンガポールに研究の場を求めたり、医療周辺ビジネスの世界でも、バイオビジネスに投資している医師や、バイオベンチャーを起こした医師は、たとえばアメリカ西海岸に居を構えています。これはなぜでしょう。やはりアメリカをはじめとする海外のほうがベンチャーを起こしやすいのでしょう。
日本においても医学教育、医師のキャリア形成の早急な改革が必要ではないでしょうか。さらに、新しい技術を学び、使える場も必要です。そうしないと優秀な医師が日本からいなくなってしまうといった可能性も大いにあり得ます。