細菌性肺炎 

 1 臨床的特徴

 1.症状 上気道炎や中耳炎に続いて悪寒、戦慄とともに発熱し、咳嗽は乾性から湿性となり、呼吸は浅薄で促進し、不安状、乳幼児では陥没呼吸を示し、年長児、成人では呼吸困難を訴える。 2日後には粘性痰、一部血性痰、次第に膿性痰となり、サビ色の痰を喀出することもある。頻脈、傾眠、鼻翼呼吸を呈する。老人の場合、発病は必ずしも急性ではない。胸部理学的所見は、初期には呼吸音減弱、棯髪音をときに聴く程度で、胸部エックス線撮影によって初めて肺炎の所見を認めることも少なくない。乳児では発熱、嘔吐、痙攣で初発し、後に呻吟やチアノーゼが現れることもあり、胸部理学的所見は年長児に比べて乏しく肝を大きく触れ、腹部膨満も見られる。右下葉の肺炎では右下腹部疝から虫垂炎を、右上葉の肺炎では項部硬直から髄膜炎が疑われやすい。

 胸部エックス線像では気管支肺炎像が小児や高齢者で区域性肺炎や大葉性肺炎よりも多い。病変部には濁音や小水泡音が認められる。患側の呼吸運動の遅れは胸膜腔への滲出物の貯留を示唆している。

 肺炎球菌性肺炎は乳児や老人では主要な死因の1つである。

 2.病原体 肺炎球菌 S鈿ゆtococcusカneumoniae。グ`ラム陽性双球菌で莢膜を有する。この莢膜多糖体の型特異性に基づいて現在84の血清型に分類されている。米国では成人の全身感染症を起こす血清型1、 2、 4、 5、 7、 12型により引き起こされ、小児の肺炎は3、 6、 14、 18、 19、 23型によることが多いとされている。わが国では肺炎球菌血清型別は普通行っていないが、全国的に収集された肺炎球菌の血清型分布では、その79%が23価ワクチン株(後述)に属していることが判明している(福見ら)o最近ペニシリン低感受性株の増加が著しく、高度耐性、多剤耐性株も存在する。

 3.検査 血液、胸水、肺穿刺物から肺炎球藕を分離すれば確実である。洗浄喀痰や気管支洗浄液から本菌を有意に証明すれば診断に役立つ。莢膜抗原を血清、胸水、濃縮尿から証明する。この場合、抗血清はデンマーク血清研究所製omni serumを用いる。型別には同血清研の特異型血清を用いてNeufeld莢膜膨化試験を行う。ペニシリン感受性はオキサシリンディスクによってスクリーニングする。肺炎球菌性肺炎

 II 疫学的特徴

 1.発生状況 すべての年齢、特に乳児、老人に散発する。開発途上国パプアニューギニアなど)では罹患率、死亡率ともに高い。これは低栄養、低収入、住居内での密集性、煙草、炊飯の煙などが関与すると指摘されている。季節との関係は少ないが、冬、春に高率である。ウイルス感染、ことにインフルエンザの流行に伴って、肺炎球菌による二次感染率が高くなる。わが国では肺炎球菌性肺炎の発生状況は明らかにされていない。

 2.感染源 ヒト。肺炎球菌は健常なヒトの上気道に広く常在している。

 3.伝播様式 肺炎球菌は鼻咽頭から侵入し、直接あるいは菌血症を通して肺炎を引き起こす。伝播はヒトからヒトヘ呼吸器分泌物の飛沫感染によるものが普通で、汚染された器物を介して起こることはまれである。

 4.潜伏期 不明、2~3日か。

 5.感染期間 呼吸器分泌物中に多量の肺炎球菌を含有しなくなるまで感染する可能性があると考えられるが、至適抗菌薬の投与によって喀痰中の肺炎球菌は48時間以内に減量~消失する。しかし、鼻咽頭には比較的長期間保菌されこれを消滅させることは難しい。

 6.ヒトの感受性 ウイルス感染が先行すると、気道粘膜の繊毛運動を抑制し、肺胞マクロファージ機能を減弱させて肺炎球菌二次感染を容易にする。生体防御力の面では2歳未満児で莢膜多糖体抗体の欠除が認められている。牌機能低下または牌摘出を受けた患者では電撃型の肺炎球菌感染症を引き起こすことがある。そのほか、アルコール中毒、大気汚染、慢性疾患、糖尿病、慢性血管障害、慢性腎不全、臓器移植、AIDS、その他の免疫不全症候群、白血球(顆粒球卜減少も発症因子となる。

 予防対策

 A 方針

 密集した集団生活を避け、気道ウイルスや肺炎球菌感染症の機会を少なくする。肺炎球菌多価ワクチンによる予防接種を行ナ。

 B 防疫

 保健所などへの届出、症例報告の義務はない。隔離の必要もないが、ペニシリン耐性および多剤耐性菌による肺炎に対しては接触者の菌検索、患者の気道分泌物で汚染された器物の殺菌も必要になる。

 予防対策として肺炎球菌莢膜多価ワクチン接種がある。 WHOでは肺炎球菌感染症の80%以上。の血清型を含む23価ワクチン(肺炎球菌23価ワクチンには1、 2、 3、 4、 5、 6B、 7F、 8、 9N、 9V、 10A、 11 A、 12F、 14、 15B、 17F、 18C、 19A、 19F、 20、 22F、23F、 33Fの莢膜多糖体抗原が含まれている)を勧めている。米国では菌血症を伴う肺炎球菌感染症の90%を占める23価ワクチンを65歳以上の高齢者を含むリスクファクタ一の高い患者(特に無牌症候群や鎌形赤血球症、慢性肺・心疾患、肝硬変、腎不全、糖尿病の成人患者)に対して1回投与が勧められている。追加免疫は副反応のため行わない。小児に対する本ワクチンの適応も定められているが、まだ十分に普及していない。わが国でも米国の基準に準拠してハイリスク群に試みられつつある。しかし、多糖体ワクチンがT細胞依存性でないために18か月未満児での抗体産生は期待できず、T細胞依存性にした複合ワクチンが検討されている。

 C 流行時対策

 特にない。

 D 国際的対策

 WHOのARI研究グループでは、肺炎球菌全身感染症の血清型分布を調査し、肺炎球菌ワクチン株の検討と接種の励行、さらにその効果を検討中である。

 E 治療方針

 ペニシリンG静注が第一選択であるO年長児や成人の軽症肺炎は経ロペニシリン剤で外米治療できる。ペニシリン低感受性/耐性株は世界的に広がりつつある。わが国でも低感受性株が最近40%に達しているので感受性テストは必須である。ペニシリン耐性株ではセフェム剤を始め多剤耐性の有無を検査する必要がある。多剤耐性株にはバンコマイシン投与も必要になる。