デング熱

 I 臨床的特徴

 1.症状 突然の発熱で始まり、熱は5日、まれに7日以上続き、ときに二相性、激しい頭痛、眼球深部の痛み、関節や筋肉痛、発疹を特徴とする急性熱性疾患。ときに全身に初期紅斑がある。発疹は通常発熱後3~4日に起こり、斑紋丘疹性またはしょう紅熱様である。皮下出血は足、腿部、腋下、手掌に発熱期の最後または解熱後間もなく現れる。回復期に疲労感とうつ状態が続く。通常、白血球減少、血小板減少、リンパ節腫脹が見られるO流行は爆発的であるが致命率は低い。デング出血熱は別項とする。

 鑑別診断はほかのアルボウイルス性出血熱、インフルエンザ、風疹など。

 2.病原体 フラビウイルス科のフラビウイルス属に入るウイルスで1、 2、 3、 4型の免疫型がある。これらは後述のデング出血熱の病原体でもある。

 3.検査 出血時間、血液凝固時間、血小板計数、ヘマトクリット値測定などの臨床検査のほかに、血球凝集抑制反応、補体結合反応、 ELISA、中和反応が診断に有用。ウイルスは血液を蚊、蚊細胞および脊椎動物細胞への接種により分離される。同定は単クローン抗体による。

 Ⅱ 疫学的特徴

 発生状況 デング熱は現在アジア熱帯域の大部分の国(スリランカ、インド、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、ラオスカンボジアベトナム、マレーシア、シンガポールインドネシア、ニューギェア、フィリピン)、北オーストラリアや西アフリカで常時流行している。1971年以来デング熱の流行はポリネシアの大部分、ミクロネシアタヒチ、中国、台湾にも拡大した。 1977年からはカリブ海沿岸、中南米の諸国にしばしば流行するようになった。日本では1942~45年にウイルスが輸入され、神戸、横浜、那覇などの港を中心に多数の患者発生があった。現在では国内発生例はないが、単発の輸入例は続いている。媒介蚊が存在し、ウイルスが導入されれば、都市、地方を問わずどこにでも流行は起こると考えられる。

 2.感染源 ヒトと蚊。西マレーシア、西アフリカではサル・蚊の結びつきが病原巣となっていると思われる。低率ではあるがデングウイルスの蚊での経卵感染が存在すると考えられている。

 4.潜伏期 3~15日、通常5~6日。

 5.伝染期間 ヒトからヒトヘ直接の伝染はない。患者が蚊への感染源となるのは、発病前日から5病日である。蚊は吸血後8~11日で伝染可能となり、生涯続く。

 6.ヒトの感受性 ヒトはすべて感受性。子供は成人より軽症。同型の免疫は永続的だが、異型の免疫は存在するが短く軽い不明熱を示す程度であろう。

 予防対策

 A 方針

 媒介蚊の発生数、発生場所の調査と防除法の策定。蚊に刺されないようにする工夫、例えば忌避剤、防虫網の設置。

 B 防疫

 患者を発症後少なくとも5日間蚊に刺されないようにする。ほかの患者の発見に努める。特異的予防、治療法はない。

 C 流行時対策

 ヤブカの発生源の調査と適当な駆除法の実施。蚊に刺されやすい職業の人の忌避剤の使用。

 D 国際的対策

 国際的協定により、ヒトや蚊による伝播を防ぎ、交通機関による蚊の移動を防止する。