スローウイルス感染症

 スローウイルス感染症はほかの一般的なウイルス感染症とは異なった臨床的特徴を持っている。それは何年にも及ぶ長い潜伏期があり、いったん発症すると亜急性に比較的規則正しい経過をとって進行し、死の転帰をとるという点である。

 病原体が既知のウイルスであるかどうかによって、通常ウイルスによるもの(麻疹ウイルスによる亜急性硬化性全脳炎、パポバウイルスの1つであるJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症など)と、非通常ウイルスによるもの(クルおよびヤコブ・クロイツフェルト病)の2つに大別される。前者はすでに知られているウイルスの持続性感染を基盤として発症する疾患である。一方、非通常ウイルスとは、特定の病原ウイルスは同定されていないが、患者の脳組織を動物に接種することによって病気の伝播が可能であり、またフィルターで濾過しても感染性を除去できないという点からウイルスが病原体であると推定されたためにつけられた名称である。しかし、精力的な研究にもかかわらず現在までにウイルスの粒子や核酸は証明されておらず、ウイルスとは異なる病原体である可能性も十分考えられる。