亜急性硬化性全脳炎

 I 臨床的特徴  1.症状 2歳以前に麻疹罹患歴を持つ小児に徐々に発症することが多い。麻疹ワクチン接種歴のないものが多い。学業成績の低下、人格変化、異常行動などで初発する。その後、ミオクローヌス、痙攣、錐体路錐体外路症候、運動失調などが加わり、知能低下はさらに進行する。次第に意識障害も出現し臥床状態となり、2~3年以内に死亡する例が多い。一部の症例では症状が安定あるいは改善する時期があり、全身管理が良好な場合には10年以上生存する例もある。  2.病原体 本症の患者脳からパラミキソウイルスに属する麻疹ウイルスが分離されている。しかしこのウイルスは、一般の麻疹ウイルスの構成蛋白のうちmatrix (M)蛋白が欠損した変異株である。このため遊離のウイルスが産生されず、ウイルス感染の拡大には細胞融合が必要である。  3.検査 血清、髄液中の麻疹ウイルス抗体価が上昇している。髄液ではlgGが増加している。脳波では、高振幅徐波のバーストが周期的に全般性、両側対称性に出現する。CTでは脳萎縮と脳実質内に巣状散在性の低吸収域が見られる。  Ⅱ 疫学的特徴  1.発生状況 各国からの報告があり、世界中で発生していると考えられる。わが国のSSPE調査会の調査結果によれば、全国で年間にO~20例の発生がある。男女比は約3:2と男児にやや多い。5~11歳の発症が多く、6歳台が最多である。また麻疹ワクチンの接種歴がなく、0~1歳に麻疹に罹患したものが多かった。麻疹ワクチン接種が本症の発生を予防することが知られており、わが国および米国ではワクチン接種後の本症の発生は、麻疹罹患後の発生に比べ十数分の1に減少している。  2.感染源 通常の麻疹と同様である。  3.伝播様式 通常の麻疹と同様である。  4.潜伏期 本邦例ではO~16年と幅があるが6年が最も多い。  5.伝染期間 SSPEを発症している患者からの伝染は知られていない。  6.ヒトの感受性 患者の多くは2歳以前に麻疹に罹患しているため、免疫機能の未熟性など何らかの宿主要因が発症に関与していると考えられるが、詳細は不明である。  予防対策  麻疹ワクチンの接種率を上昇させることによって、本症の発生を減少させることができる。  根治的な治療法は知られていないが、イソプリノシンの投与により症状の進行を抑制し、生存期間を延長させ得る。