伝染性単核症

 I 臨床的特徴  1.症状 典型は発熱、咽頭扁桃炎、頸部腋窩のリンパ節腫大、軽度の肝腫大と明らかな脾腫および後述する血液所見を特徴とする。発症は倦怠感、疲れやすさ、咽頭痛に始まり徐々に主症状が発現する。主症状はおよそ2週間続き、約1か月で軽快する。ときに発疹を伴う。発疹は孤立性の斑丘疹で出血性となることもある。黄疸はまれである。典型的症状は年長児から青年期に認められる。幼いときは非典型となり、発熱、リンパ節腫大、発疹が主徴で、発疹発現率が成人より高い・。 日本人は乳幼児期に感染を受けることが多く、不顕性感染や非典型例の方がはるかに多い。したがって、不定の熱性あるいは熱性発疹性疾患として鑑別すべき対象が多い。急性肝炎、アデノウイルス、風疹など多くのウイルス、細菌、リケッチア、トキソプラズマ感染症白血病悪性リンパ腫、原因不明性組織球増殖(特にLettererSiwe病)、全身型の若年性関節リウマチなどが挙げられる。特にわが国では地方病としてのリケッチア感染症、すなわち鏡熱(熊本)、日向熱(宮崎)、土佐熱(高知)、徳島熱、大阪熱が腺熱と同一視され、伝染性単核球症とも呼ばれていた。サイトメガロウイルス感染では臨床的に極めて類似した病像を示すことがあり、特にサイトメガロ単核症と呼ばれる。いずれも血清学的に鑑別する。  2.病原体 EBウイルスである。EBウイルスはBリンパ球に感染し、ヒトに単純な初感染として伝染性単核症を、持続感染によりがん原性を現すことがあり、日和見B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、上咽頭がんを生じると考えられている。最近T細胞リンパ腫などB細胞以外にもEBウイルスゲノムが見いだされている。  3. 検査 急性期の一般検査として、白血球増加(15、000/μ/以上、少なくとも5、000/μ/以上)、リンパ球増加(50%以上)、異型リンパ球増加(少なくとも10%以上)が特徴である。典型的臨床症状とこの血液像をもって疾患単位とする。ダビドソン吸収試験を併用したポール・バンネル反応陽性は診断根拠に加えられる。これはEBウイルス感染細胞の表面に誘導される細胞由来の蛋白に対する抗体と考えられている、伝染性単核症に特徴的な一種の異好抗体の検出法であり、診断価値が高い。しかし小児では幼若であるほどその値が低いので、陰性は除外診断とならない。数回の検査でわずかな変化をとらえることができる。このテストに簡易法があるo肝機能検査の異常は高率であるが、ビリルビンの高値は少ない。  特異検査はEBウイルスの多くの抗体検出法の中で、急性期に患者血清中のVCA-lgM抗体陽性、EA抗体陽性、特別な高感度法でなければEBNA抗体陰性であることが診断の基準となる。最近EIA法によるEA-IgM抗体り診断価値が注目されてきた。VCA-IgG抗体の動きだけを見ても再活性化と区別できず、診断の意義は不完全である。 リケッチアによる腺熱との交差反応は認められない。  II 疫学的特徴  1.発生状況 EBウイルスの初感染時期は社会経済的な状況と関係し、状況が悪いと乳幼児期に早く、状況がよいと遅い。わが国では以前は2歳ころまでに80%ほどの高感染率であったが、最近は感染年齢が上昇してきた。それでも典型的な発病者は少なく、多くは不顕性または非典型症状で終わっている。発生は散発で流行は示さない。  2.感染源 ヒトの唾液である。EBウイルスは初感染のときに唾液に存在し、回復期にいったん消失しても、持続感染のためときどき唾液中に排泄される。ヒトのB細胞中に存在し血液も感染巣となる。宿主の免疫状態により、ウイルス量も変動していると考えられている。  3.伝播様式 親から子へ、また青年、成人同士のキッスによって伝播する。子供同士または保育者の手を介して唾液のついた玩具などをなめる間接的な水平感染もある。輸血による感染もある。  4.潜伏期 2~6週間とされる。  5.伝染期間 伝染性単核症の発症前と急性期および回復期以降の不定の時期である。健康者の10~20%がウイルスを排出しているためである。  6.ヒトの感受性 EBウイルスに対する感受性は普遍的である。乳児期から感受性があり、よく感染を受け、感受性は年齢とともに低下する。初感染の年齢が高くなるほど伝染性単核症の典型を示す確率が高くなる。持続感染により、宿主の免疫状態が低下すると再活性化が起こり、伝染性単核症以外のリンパ増殖性疾患を起こす。  また、免疫、環境、素因のリスク因子によっては慢性活動性EBウイルス感染症となる。  Ⅲ 予防対策  A 方針  不顕性のEBウイルス排泄者が多いので、人の社会でEBウイルスの感染を避けることは困難である。伝染性単核症の患者のみを考慮する意義は小さいが、患者の急性期の唾液や血液の接触を避ける。  B 防疫  特にない。  C 流行時対策  通常散発性である。  D 国際的対策  特にない。  E 治療方針  抗ウイルス剤の試みはあるが特に確立されたものはなく、特異療法はない。