うわさ話は諸刃の剣

噂話は評判が悪いですが、噂話の研究者たちは、それが広く行われているのを発見しただけでなく、有益であり、私たちが社会で生きていく方法を学ぶ道であることにも気づきました。心理学者のダンバーは、人間の噂話は他の霊長類の社会的グルーミングに相当すると考えています。グルーミングは霊長類が費やす時間の多くを占めます。グルーミングに最も多くの時間を使う霊長類はチンパンジーで、最長20%の時間、これをやります。ヒト科の動物が進化する間の一時点で、集団が大きくなり始め、固体は集団の中で関係を維持するためにグルーミングしなければならない相手が増えていきました。やがてグルーミングの時間は食べ物あさりに必要な時間にまで食い込むようになりました。これが言語が発達し始めた時点だと、ダンバーは主張します。もし言語がグルーミングの代用として始まったのなら、食べ物を探したり移動したり食べたりといった、ほかのことをしながら「グルーミングする」つまりうわさ話に興じることもできたでしょう。こうして私たちは、口を食べ物でいっぱいにしたまま話すようになったのかもしれません。

しかし、言語は諸刃の剣にもなります。言語の長所は、一度に何人もの相手にグルーミングが可能で、より広いネットワークで情報をやり取りできること。短所は、ごまかされるかもしれないこと。身体的グルーミングの場合、固体は上質で個人的な時間を注ぎ込みます。そこにごまかしはあり得ません。言葉の場合は新しい要素が加わります。「嘘つき」です。今まではないことについて話せるので、話が真実かどうかはなかなか確かめられません。また、身体的グルーミングは一つの集団内の全員が、その目で見て確認できるところで行われますが、噂話はこっそり行うことができ、その真実性はあまり問題にされません。しかしこの問題で、言葉に助けられることもあります。ある特定の個人に前にひどい目に遭わされた友人が、警告してくれることもあるかもしれません。社会集団が大きくなり、拡張するにつれて、だれが人をだましたりただ乗りしたりするのか把握しておくのは難しくなります。噂話は、一つには、不届きものを抑え込む手段として進化したのかもしれません。

人間は起きている時間の平均80%を他者と一緒に過ごしていることが、さまざまな研究によってわかりました。私たちは毎日平均して6~12時間を、たいていは知り合いと一対一で、会話して過ごしています。そうと知って驚く人もいないでしょう。London of Schoolの社会心理学者ニコラス・エムラーは、会話の内容について研究し、約85%は名前を挙げた周知の人物に関するもの、つまり世話話だということを突き止めました。一般的な話題は、芸術、文学、宗教、政治などに関する個人的な意見が含まれるかもしれませんが、全体から見ればほんのわずかに過ぎません。これはスーパーでの立ち話だけでなく、大学のキャンパスや会社の昼食会での会話にも当てはまります。昼食をとりながらの大物たちの会議の席上では世の中の諸問題が討議・解決されていると思いきや、実際は、その時間の90%を占めているのは、ボブのゴルフの開始時間とか、ビルの新しいポルシェとか、新しい秘書などの話題です。もし、この統計値が誇張されていると思うなら、これまであなたが散々漏れ聞いた迷惑な携帯電話の会話のことを考えてください。誰かが隣のテーブルやレジの列で、アリストテレス量子力学バルザックについて話しているのを耳にしたことがあるでしょうか。

他の研究から、会話の中身の3分の2は自分に関する打ち明け話であることがわかっています。そのうち11パーセントは心の状態(「女房の母親ときたら、もう頭にくるよ」)とか体(「あの脂肪吸引をぜひやりたいわ」)に関するもの。残りは妬み(「おかしいのはわかってるけど、ほんとにロサンゼルスが好きなんだ」)や予定(「金曜から運動を始めるつもりよ」)、そして、いちばん多いのが、やったこと(「昨日、あいつをクビにした」)。実際、やったことは他人に関する会話の最大のカテゴリーです。噂話は社会の中で多くの目的に役立っています。噂話の相手との関係を発展させ、特別なグループに属して受け入れられたいという要求を満たし、情報を聞き出し、評判をとり、社会的規範を維持強化し、他社との比較を通じて各自が自己評価できるようにします。そのおかげで集団内での地位を高められるかもしれないし、単に気晴らしになるだけかもしれません。噂話のおかげで人々は自分の意見を言ったり、助言を求めたり、胴囲や不同意を表したりできます。

幸福について研究しているヴァージニア大学の心理学者ジョナサン・ハイとは、「噂話は警官であり数値である。噂話なくしては、無秩序と無知だらけになる」と書いています。噂話に興じるのは女性に限りません。もっとも、男性は情報交換とかネットワーク作りとか呼びたがりますが。男性が女性より噂話に時間を使わないのは、女性が同席している場合だけです。そのときは約17%の時間、より高価な話題が話し合わされます。男性と女性の噂話の唯一の違いは、男性は3分の2の時間を自分自身を話すのに使います(それでその魚を釣り上げたら、間違いなく10キロ以上あったよ)が、女性は自分のことを話すのには3分の1の時間しか使わず、他人のことにもっと興味を示します(それでこの前、彼女に合ったら、間違いなく10キロ以上太ってたわよ)。

会話の中身のほかに、ダンバーは、会話に加わる人数は無制限に増えず、たいてい、約4人止まりになることも発見しました。最近出席したパーティを思い出してください。人々は様々な話の輪に加わったりそこから外れたりしますが、いったん4人を超えると、二つの会話グループに別れる傾向が確実にみられます。ダンバーは、これは偶然かもしれないとしながらも、チンパンジーのグルーミングとの相関関係を示唆しています。4人で会話する場合、話しているのは一人だけで、ほかの3人は聞いています。チンパンジー用語でいえば、グルーミングされています。チンパンジーは一対一でしかグルーミングできません。そして彼らの社会集団の大きさの上限は55匹です。もし私たちが、会話グループの沖差に示されているように、一度に3人のグルーミングができたら、その場合3人のグルーミング相手に55をかけると、165になります。これはダンバーが人間の大脳新皮質の大きさから計算した社会集団の大きさに近いです。