「セコム」の医療業界参入が与えた衝撃  

 警備保障の最大手『セコム』は98年、破綻した倉本記念病院(千葉県船橋市)の土地と建物を買収し、それを法人へ貸し付けるという方式で病院経営に参画した。その翌年、病院名にセコムと入れようとし、これが大問題に発展する。セコムの入った病院名はまかりならんと、千葉県および船橋市医師会が猛反発。やむなく『セコメディク病院』とせざるを得なかった。その直後、厚生省(当時)は、「病院名に企業名を冠することはならず」という通達を出し一連の騒動にダメを押した。企業が病院経営にかかわろうとすると「こうなるぞ」という脅しの効果はバツグンたった。これ以後セコムだけが、セコメデック病院のような「提携病院」を増やしているが、それでもまだ6病院にすぎない。

 セコムと並んで、医療業界に斬り込んでいるのがオリックスだ。同社の宮内義彦会長は、政府の規制改革・民間開放推進会議の議長を務め、株式会社による病院経営への参入や「混合診療」の解禁を推し進めており、政府の医療政策開放にも自らが先導役を務める、いわば旗振り役だ。宮内会長は、プロ野球のオーナーと企業のワンマン経営者という2つの顔を持つ。そして、現在もっとも全面に出ている第3の顔、それが「構造改革の旗手」という、小泉首相構造改革路線を進める牽引車という側面である。

 セコムやオリックスにとって、今後、30兆円の国民医療費が市場に開放されれば、巨大なビジネスチャンスが到来する。そこを見込んでのことだろうが、オリックスの場合はセコムのように、病院経営に乗り出すつもりはないようだ。一向に進まない規制緩和や医師会との摩擦などを考えれば、あえて火中の栗を拾うことはないと考えているのかもしれない。

 オリックスの医療業界への参入は、診療報酬と引き替えの融資や割賦売買などの金融であり、病院の再生事業である。特にオリックスが開発した「診療報酬請求権付融資」(レセプト譲渡)商法は、自治体系病院が採用するまで広がりを見せている。

 だが、診療報酬請求権の譲渡を受けるという手法は、いわゆる病院乗っ取りグループが用いたものだ。そのため、医療界では『禁じ手』とされてきた診療報酬請求権の譲渡を迫るオリックス流ビジネスに、違和感を覚える医療機関は多い。これまで銀行とは付き合いがあっても、オリックスのようなノンバンクとの付き合いがない医師にとっては、ついていけない部分があるのは確かなようだ。

 一方、提携という形で医療機関を運営をしているセコムの場合、金融面での支援が中心だが、同時に人材を重要ポストに送り込み、経営にタッチさせていることがオリックスとは違う。また、金融支援は直接融資ではなく債務保証という形を採る。しかもセコムの場合は、その信用力をバックに医療機関に債務保証することによって、銀行からの融資を引き出し、再生させると本業の警備保障や各種医療関連事業との有機的連携をしていくことにビジネス目標を置いている。現時点では、オリックスより、さらに深くアプローチしていると言える。