急性骨髄性白血病(ANLL)の代表的薬剤:ダウノマイシン、ノバントロン、ナンラビン、ロイケリンなど

 

 白血病とは血液幹細胞のあるレベルで異常が起きた細胞が,クローン性に増殖した状態で,その結果,正常血液細胞の増殖が抑制され,全身諸臓器に白血病細胞の増殖,浸潤をきたす疾患である。一般に症状は,正常造血の抑制による,貧血,感染,易出血症状と,臓器浸潤による肝脾腫,リンパ節腫などによる症状が主体となる。分類に関しては白血病細胞の由来からリンパ性と骨髄性に分けられるが,両方の性格を有するタイプもある。経過からは急性と慢性に分けられ,急性白血病では細胞は増殖能が強く,分化能をほとんどもたないが,慢性白血病では増殖能だけでなく分化能も有する。本稿では急性,慢性さらに骨髄性,リンパ性におけて治療の概略を説明し,代表的な薬剤について説明を加えた。


 急性骨髄性白血病(ANLL)

 近年,化学療法,骨髄移植療法の進歩により,急性骨髄性白血病は治癒可能な疾患であると言っても過言ではなくなってきた。急性白血病では薬物療法が治療の主体をなすが,治療体系は完全寛解導入療法と導入後療法に大別され,それぞれに重要な意義がある。

 寛解導入療法とは診断時に1012個存在していた白血病細胞を109個以下に減少させ,正常造血能を回復させることを目的としている。この段階で血液学的にはほとんど異常を認めなくなり,この状態を完全寛解と呼んでいる。寛解導入時に白血病細胞を薬剤耐性獲得前にいかに急速かつ大量に減少させることができるかどうかは,予後を左右する因子として重要である。しかしこの程度の白血病細胞の減少で治療を中止した場合には,通常2~6ヵ月前後で再び白血病細胞は増殖してしまう。

 急性骨髄性白血病の初回寛解導入時における骨髄内白血病細胞の減少動態を検討したが1),完全寛解にいたる症例(CR例)といたらない症例(NR例)では減少動態に大きな差があることがわかった。またこの曲線を2次微分することにより,白血病細胞が最大に減少してから減少が止まる期間に,この減少に対してマイナスに働く要素(第2相の減少加速度)が算出でき,完全寛解に達したあとも,このマイナス要素が小さい例では予後が良好であることがわかった。このマイナス要素は薬物効果の減衰だげでなく,薬物感受性の低い非増殖期の細胞群の存在,自然耐性を含め,既に薬剤耐性を獲得しているかもしれない細胞群の存在をあらわすと思われ,寛解導入後の治療は残存細胞を根絶するということを目的として,さらに強力な治療法が必要となってくるといえる。臨床的には地固め療法でこれを行うが, 1980年Weinsteinらの概念2)が登場して以来,この寛解後強力療法(Intensive postremission therapy)の考え方は治癒的治療法として急速に導入された。

 実際のANLLの治療はara Cとdaunorubicinの臨床導入以後急速な発展を遂げた。実際に施行されているANLLの薬物療法プロトコールについて,その成績をみると、現在わが国における寛解導入療法はBHAC-DMPないしDCMP療法が基準となっており,60~80%の症例が完全寛解に導入できるようになってきた。また欧米では一般的である,すべての症例に対して同量,同一期間の薬剤投与によるセット療法に比較し,治療効果を常に把握しつつ,薬剤に対する反応に応じて投与期間,投与量を調節するresponse oriented individualized therapy が主流となっている。

 地固め療法では,寛解導入療法に使用した抗白血病薬と交叉耐性のない薬剤を使用することで良好な予後が得られることが期待され, ara-Cの大量ないし中等量, mitoxantron, etoposide等の薬剤が用いられることが多い。これらを用いた強力な療法の導入により2年寛解持続率は40%以上が達成されている。以下に代表的な薬剤の作用機序,用量,血球減少以外の副作用を紹介する。

代表的薬剤
①daunorubicin (ダウノマイシン)
 DNA架橋によるRNA合成阻害
 20mg~40mg/㎡
 心不全

②mitoxantron (Jバソトロン
 DNA切断
 2~7㎎/㎡
 心不全

③cytarabine (キロサイド,サイトサール)
 DNA polymerase 阻害
 2娵~2g/㎡
 食欲不振

④enocitabine (サンラビン)
 cytarabineと同様
 30~200㎎/㎡
 食欲不振

⑤6 - mercaptopurine ( pイケリン)
 プリン代謝阻害
 70mg/㎡
 肝障害

⑥etoposide (ベプシド,ラステット)
 DNA合成阻害
 60~lOOmg/㎡