マサイ族で高血圧症が急増


マサイ族は、泥と混じった牛の糞で固めた「ボーマ」という、トーチカのような形の伝統的な家に住んで生活しています。そのマサイのボーマを一軒、一軒、アフリカの共同研究者と訪ねて回って、ひょうたんで作っているヨーグルトを分析するという実験が行われました。

そのときにわかったそうなのですが、マサイ族はすでに携帯電話を使い始めていて、そしてボーマの周りにはペットボトルが山積みになっていました。なぜそういうことが起こったのかというと、「キブユ」を洗うのに牛の尿を使うのは、あまりにも不潔だということで、政府が規制してペットボトルで清潔な水を配るようになったのです。

そのことはいいのですが、マサイ族はそれまで飲む水がなく、唯一飲んでも大丈夫な水分と言えば、牛のミルク。しかもヨーグルトで発行して腐ることも少ない、そういうミルクに頼っていたのです。しかしペットボトルが配られるようになれば、これはただ単にひょうたんを洗うのに使うより、直接飲んでしまえば、もうヨーグルトをつくる必要がないのです。

初回調査で注目したのは、尿の分析の中で、ヨーグルトに多く含まれる成分です。ヨーグルトはもともと牛の成分ですから、その成分にはカルシウムやマグネシウムが多く含まれています。初回調査ではマサイ族は、世界中で24時間の尿を測って上から並べますと、10番目以内に入るくらいの量を摂っていました。一方、ダルエスサラームの都会の人々は、尿の中のマグネシウムが世界平均の半分のちょっと上ぐらいしか出てきませんでした。

ところが2回目の調査では、塩を使い出したマサイ族の食生活が変わり始めました。塩を付けた焼き肉をどんどん食べだしたマサイ族は、マグネシウムは都市部の人、あるいはそれ以下にまで急激に減っていたのです。

そして伝統食のヨーグルトをだんだん飲まなくなっているということがわかりました。ヨーグルトを飲まなくなったマサイ族に高血圧が増えました。そしてマグネシウムの少ない都市部の住民にも高血圧が多い。

ただ単に食塩感受性で、食塩に敏感に反応するから血圧をあげているのだということだけの説明でいいのでしょうか。マグネシウムに注目することが重要と考えられます。