感受性対策

 平常時における健康の保持増進策(休養、適当な栄養、鍛練、生活環境の改善など)は、非特異的ではあるが基本的に重要であるo特異的方法としては、予防接種、免疫血清やカンマグロブリンの使用、化学予防などがある。

 化学予防chemoprophylaxisとは、化学療法剤を用いて伝染病の感染または発病を予防しようという方法で、マラリアに対しては以前より実施されている。結核についても1975年より、小児に対する抗結核薬の予防的投与が初として登録して行われており、そのほか米国ではインフルエンザに対し、アマンタジンの投与が行われているo

 化学療法chemotherapyという言葉は、臨床的に認められた伝染病の治療またはその進展を抑えるために化学物質を使用する場合に用いられる。

 以上述べた伝染病発生の三大要因に対する対策のほかに、環境条件や宿主条件に対するいろいろな対策があるが、ここでは衛生教育と個人衛生および患者感染者の支援について述べておく。

 衛生教育health education一衛生教育とは、個人と集団が健康を保持、増進あるいは回復することを学ぶ過程をいう。この目的を効果的に達成するためには、人々がどのようにして行動をいろいろな方向に発展させていくか、いかなる要因が人々の行動を保持あるいは変容させているか、また人々が知識を獲得して使用する状況はどうであるかといった点が検討されなければならない。衛生教育は、まず人々のありのままの姿について始められる。この段階でも生活改善に興味を示す人がいるかも知れないが、最終的には人々に、個人として、また家族および社会の一員として健康に対する責任感を育成することをねらうべきである。伝染病予防の衛生教育に含めるものとしては、住民の伝染病に関する知識の評価、伝染病の発生と蔓延に関係のある習慣と態度の評価、およびそれらの結果に基づく問題点の解決方法提示などを挙げることができる。個人衛生personal hygiene一一司建康の保持増進と伝染病、特に直接接触感染による伝染病の蔓延防止は個人の責任に負うところが多い。大抵の伝染病の伝播を防止する個人衛生としては、次の項目を挙げることができよう。

 (1)大小便の直後と調理や食事の前には石けんで手を洗うこと。

 (2)汚れた手、器物、他人が便所で用いた物などを口、鼻、眼、耳、性器、傷などに近づけないこと。

 (3)食器、コップ、タオル、ハンカチ、クシ、ヘアーブラシ、パイプなどを共用したり、不潔にしないこと。

 (4)せき、くしゃみ、笑い、会話などの際に、鼻、口からの飛沫を他人にかけないようにすること。

 (5)患者やその持物を扱った後には十分に手を洗うこと。

 (6)石けんを用いた頻回の入浴によって身体の清潔を保つこと。

 患者・感染者の支援-エイズ問題の広がりに伴って、伝染病対策に新たな局面が重要となってきている。

 患者の管理、監視、医学的治療といった従来の患者・感染者本人に対する関わりではなく、一般市民に対する偏見をなくすための教育、非政府組織の活動を中心として患者感染者の心理的なサポートや生活等の支援、患者受入病院の確保など、病気を持った人の不安を軽減し、安心して生活が送れるような社会環境を民間組織とともに整えていくことが、ひいては伝播防止につながっていくというものである。エイズに関しては、数多くの非政府組織である患者支援グループや自助組織が活発に活動し、エイズ対策の1つの大きな力となっている。これに伴い、今までのらい、結核、肝炎対策なども見直すべきだとの考えも出てきている。