検疫について

 検疫の語源はイタリア語の40日間を意味しており、 1377年ペスト予防のためにイタリアのラグザ(現在はクロアチア共和国のドブロブエク)において、レバントおよびエジプトより入港する船を、初めは30日間、後に40日間繋留したのが始まりである。その後、検疫という言葉は伝染病に曝露した健康接触者をその潜伏期間中、病気の伝播を防ぐ目的で行動制限を行う意味に用いられる。

 検疫を行動制限の程度によって分けると次のようになる。

 ① 完全停留absolute or complete quarantine―伝染病に曝露されたことがある健康な人あるいは家畜の行動の自由を、その伝染病の通常見られる最大の潜伏期以内の期間制限することをいう。これにより未曝露者との有効接触を予防することができる。

 ② 部分停留modified quarantine―ヒトまたは家畜の行動の自由を、選択的かつ部分的に制限することをいう。この制限は、通常感受性に関する既知または推定の差異に基づいて行われたり、伝染病伝播の危険性のために実施される。これは特別の事情の場合に行うのであって、例えば学童の登校禁止とか、感受性があればこのような行動制限を適用するが、免疫のある者には免除するとか、軍隊で部署についたり、兵舎に入ったりするのを制限するといったことである。

 対人監視personal surveillanceと分離措置segregationもこれに含まれる。前者は、接触者の感染や発病を迅速に発見するために、行動の制限を行うことなく医学的またはそのほかの監視を厳重に実施することをいい、後者は伝染病対策を容易にするため、一部の人や家畜をほかから切り離して、特別の注意、管理または観察を行う場合を指している。例えば、感受性のある小児を免疫者のみがいる家庭に移したり、集団内で未感染者を感染者より守るために衛生境界線を設けたりすることである。

 わが国では、国際伝染病という言葉がよく用いられる。これは1976年(昭51) 2月にラッサ熱患者と同じ航空機に搭乗した5人の日本人乗客が帰国して検疫伝染病棟に収容されるという事件を契機に、このような国内には常在せず、予防法、治療法が未確立なため致命率が高く、感染性も強い伝染病を便宜上こう呼ぶことになった。厚生省公衆衛生審議会伝染病予防部会には、国際伝染病委員会が設けられており、ここではラッサ熱、マールブルグ病、エボラ出血熱の3疾患を国際伝染病として特別の対策(①患者を収容する高度安全病棟と患者搬送体制の整備、②患者の確定診断と病原ウイルスの研究が可能な高度安全検査室の整備、③①、②の要員に対する研修と情報の収集など)を講じることにしている。

 なお、危険な病原体の取り扱いに関連して現在、わが国でもバイオハザードbio-hazard (生物災害)対策が進められており、国立予防衛生研究所では病原体等安全管理規程の一部として、病原体の危険度分類基準、分類表、クラス別安全設備基準をまとめて1980年4月より施行している。これによると、病原体の危険度は低いものより順にクラス1 ・ 2a、 2b・3a、 3b・ 4に分けられており、クラス4は最も危険な病原体ということになるにれは、米国CDCのクラス1~4に、家畜伝染病関係のクラス5を加えた分類を参考につくられた)。