体内時計(概日リズム)の存在を明らかにした画期的な実験

概日リズムとは、英語のcircadian rhythmの訳語です。この言葉はラテン語のcirca(およそ)とdies(一日)を組み合わせたもので、約24時間で繰り返される生体活動のリズムを意味します。したがって目覚めと睡眠の繰り返しもこの概日リズムに含まれます。

1729年、フランスのドゥ・メロンはオジギソウの葉が昼間は開き、夜は下に垂れてしぼむ現象に興味を持ち、オジギソウを昼夜の明暗の変化も、温度変化もない洞窟に入れてみたところ、オジギソウの葉は上下運動を毎日、規則的に繰り返したのです。現在からみて、これは驚くべき早い時期に行われた重要な発見でした。

この現象は19世紀に入って初めて研究者の興味を引くようになりました。英国のチャールズ・ダーウィンもその一人です。しかしまだ19世紀の実験技術では、この現象の研究は進展しませんでした。

概日リズムが動物、植物にあまねく存在することが明らかとなり、多くの研究が爆発的に進展するのは20世紀半ばころからです。ここでは多くの報告のうち、ノネズミの活動の概日リズムを調べた米国のピッテンドリックの研究を紹介します。ノネズミをまず光照射1時間、暗黒23時間の条件下で飼育します。まず最初の1時間の照射が終わって暗黒状態になるとのネズミは歩き回るなどの活動を12時間続け、ついで次の1時間照射までの残りの11時間は休止します。この活動・休止のリズムは驚くべき正確さで何十日も続いていきます。

60日後に、今度は全く照射を行わず24時間の暗黒状態におきます。なんとノネズミは、このようないつも光の無い状態に長くおかれても、独自の活動―休止のリズムを何日も繰り返しました。

光照射の無い暗黒状態で規則的に繰り返される活動―休止のリズムは、明らかにノネズミの体が持っている固有の概日リズムによるものです。この固有の活動・休止リズムは、驚くべき正確さで繰り返されます。しかしその固有リズムの周期は一日の長さとは少し違います。暗黒中のリズムは時計の時刻に対して一定の割合でずれてゆきます。

約30日後に今度は照射18時間、暗黒6時間に条件を変えてみたところ、ノネズミはやはり、照射により休止し、暗黒になると活動しました。さらにまた光照射なしの暗黒状態に切り替えると、ノネズミは再び独自のリズムで活動―休止を規則的に繰り返します。

以上のみごとな結果から、動物の体内には独自の概日リズムを作り出す体内時計があること、またこの概日リズムは光照射によってリセットされる、つまり再調整されたのちスタートすることがわかります。まさに大自然の女神が、巧妙な実験により神秘のベールを一瞬はずして、横顔を研究者に垣間見せてくれたのです。