全奇胎妊娠、部分奇胎妊娠、間葉性異形成胎盤の症例報告

間葉性異形成胎盤
珍しい良性疾患である間葉性異形成胎盤(PMD)は、胎盤肥大とブドウ状の囊胞が特徴であり、超音波および肉眼的胎盤検査にて奇胎妊娠に類似している。PMDはMoscosoらによって初めて特定され、絨毛基部の過形成とアルファ胎児蛋白濃度の上昇、および超音波画像にて部分胞状奇胎様に肥大化した胎盤を呈することがわかった。従ってPMDに関しては、健康な胎児を伴う囊胞性胎盤と判断すべきである。本稿では超音波検査所見と病理学的相関関係に重点を置き、PMDの1症例について説明する。
症例報告
超音波検査で正常な外見の胎児と、異常な外見の囊胞性胎盤を呈していた21歳の女性(妊娠3回;出産歴0111[正期産0回、早期産1回、流産1回、出産1回])が、妊娠19週に母体胎児診療所[Maternal Fetal Medicine clinic]へと搬送された。そして母体血清マーカー検査が行われたところ、アルファ胎児蛋白濃度の上昇(中央値の倍数、5.4;ヒト絨毛性ゴナドトロピン[HCG]中央値の倍数、6.95)と正常な胎児核型(46mIU/mL)、およびβ-HCG値の増加(167402)以外は正常であることがわかり、さらに胸部X線写真と肝酵素濃度、尿検査値も正常であった。そして甲状腺刺激ホルモン濃度がバセドー病の徴候を示していたため、プロピルチオウラシル投与が行われた。
双子を伴う全奇胎妊娠、部分奇胎妊娠、絨毛血管腫またはPMDという鑑別診断が挙がったため、同患者は子癇前症(27%)と慢性的な絨毛性疾患(GTD;45%)、胎児死亡(62%)、および妊産婦罹患のリスク増加を了承した上で、妊娠の継続を選択した。妊娠24、28、および32週において(図1)、胎盤超音波検査法にて水腫性の肥大化を呈していたが、胎児の成長曲線は妊娠全期間を通して正常であった。32週には24時間蓄尿検査(150mg)で正常であったものの、その6時間後に血圧上昇と正常な検査測定値を呈したため、妊娠性高血圧という診断が下されている。
その後、同患者は33週に切迫早産(9cm)で再来院し、1時間以内に女児(1802g;40%)を出産しており、アプガースコアは4および7点であった。絨毛の水腫化によって胎盤はかなり肥厚しているようであったが(図2)、新生児科医は赤ん坊の健康状態を正常と判断した。そして患者は順調に回復したため、分娩の2日後には退院している。出産後2週間でB-HCGは113mIU/mLにまで減少したが、その後は患者が来院しなかったため、追跡評価はそこで終了した。
胎盤はかなり肥大化(1380g)していたため、胎児面には動脈瘤性の拡張部位があり、さらに拡張した複数の絨毛膜血管が走行していた。そして切断面を見ることよって、絨毛血管腫(3.0cm)を伴う一見正常な実質組織に、数多くの膨張した囊胞が散在していることがわかった。顕微鏡用切片は絨毛の顕著な過形成とその根元の槽[cistern]の拡張、繊維筋性血管の肥厚、粘液性間質の弛緩、および絨毛血管腫の脈管構造を示していた(図2)。栄養膜細胞は非増殖性であったが、p57染色では数少ない同細胞と絨毛間質細胞核の存在が明らかとなり、形態学的に異なる2つの胎盤部位を対象に行ったXおよびY染色体の蛍光in situハイブリダイゼーションでは、これらの細胞が2倍体であるということがわかった。
解説
超音波検査にて胎盤の囊胞化と正常な胎児を確認した場合には、珍しい良性疾患であるPMDの鑑別診断を考慮しなければならない。PMDはまれな疾患であり、さらに3.6:1で女性優位に発生するため、その正確な発生率は不明である。PMDでは重度の母体合併症がなく、胎児が正常に発育することができる。
3倍体の異常な胎児を呈する部分奇胎と診断した場合には、妊娠中絶という結果をもたらす可能性があるため、PMDを部分奇胎と区別することが重要になる。また、双子を伴う全奇胎では母親が重大な疾病(持続性GTD)を患うことから、これとPMDを見分けることも課題となる。甲状腺刺激ホルモンの分泌低下と妊娠関連の高血圧は、PMDでも生じると思われる。PMDはその症例の25%がベックウィズ-ヴィーデマン症候群(巨大児、腹部異常、巨大舌、臍帯ヘルニア、頭蓋顔面異常、耳の奇形)に関連しているため、患者に対しては未熟児や胎児発育遅延、または子宮内胎児死亡とともにベックウィズ-ヴィーデマン症候群のリスクを説明しなければならない。その上、胎盤の血管分布状態が合併症の原因となり、胎児の発育遅延や子宮内死亡、母体の高血圧をもたらすことがある。
PMDを超音波検査すると、双子を伴う全奇胎や部分奇胎妊娠および絨毛血管腫を示唆する低エコー領域と、胎盤の肥大化を確認することになる(表)。また、双子を伴う全奇胎や部分奇胎妊娠では胎盤が部分的に固体化して囊胞状を呈するため、この場合には胎盤が異種起源であるかのように見える。胎盤の胎児面に位置する絨毛血管腫は、超音波検査にて周囲の胎盤とは異なるエコー輝度を示す。
在胎期間のPMD胎盤は、絨毛膜血管の動脈瘤性拡張と繊維筋過形成によって肥大化し、全奇胎妊娠に見られる囊胞と同様のものを生じさせる。顕微鏡観察を行えば、この囊胞の大きさが正常な絨毛基部の血管拡張と相関していることがわかる。病理学的には絨毛基部の血管拡張と栄養膜細胞の非増殖性によりPMDを鑑別することが可能である。
結論として、超音波検査胎盤の囊胞性病変と一見正常な胎児を確認した場合には、PMDの鑑別診断を行う必要があり、さらに胎児核型やGTD発症率などを慎重に評価しなければならない。患者に対しては子癇前症と持続性GTD、胎児死亡、母親の罹患、およびベックウィズ-ヴィーデマン症候群の高いリスクを説明する必要があり、小児科医にそれらの疾病の関連性を報告することも不可欠となる。また、切迫早産と妊娠による高血圧性疾患は珍しいことではないため、綿密な追跡評価が必要である。そして胎盤の病理検査結果が、診断を行う上での最優先事項となる。従って、PMDに関連する合併症の種類とその実際の発症率をさらに調査していかなければならない。

良性疾患である間葉性異形成胎盤は、超音波および肉眼的検査で奇胎妊娠と混同しやすいため、正常に見える単胎児と囊胞性胎盤の保存的管理を考慮する必要がある。我々は予後良好な間葉性異形成胎盤の1症例を紹介する。
キーワード:全奇胎妊娠、部分奇胎妊娠、間葉性異形成胎盤

図1 間葉性異形成胎盤の超音波画像
妊娠19週における胎盤の超音波画像は間葉性異形成胎盤を示しており、この肥大化した胎盤は双子の全奇胎妊娠や単胎児の部分奇胎妊娠、あるいは正常な胎児を伴う絨毛血管腫を示唆する低エコー領域を有している。引き続き検査を行ったが、超音波画像に変化は見られなかった。

図2 間葉性異形成胎盤の肉眼および顕微鏡観察所見
左図では絨毛膜血管が大きく拡張し、いくつかは動脈瘤性を帯びている(矢印)。胎盤実質からはさまざまなサイズの囊胞が確認できる。右図の顕微鏡像における囊胞は、拡張した絨毛基部(星印)と繊維筋性血管(矢印)を示しており、画像の下の部分では囊胞と標準サイズの三次絨毛が入り交じっている。栄養膜細胞は増生していなかった(ヘマトキシリン-エオシン染色:拡大率、40倍)。