Alda-1はニトログリセリンによるALDH2不活化を抑える

ニトログリセリンとほかの有機硝酸エステルは現在でも、安定および不安定狭心症心筋梗塞(MI)や心不全の患者に対する治療で最も頻繁に用いられている(1)。ニトログリセリンはその有益な効果が、一酸化窒素(NO)へと変換されるそれ自体の能力に由来するため、冠動脈拡張による心臓への血流量増加や、静脈拡張による心負荷の減少をもたらす。しかし、継続的な治療の後に生じる耐性が、ニトログリセリンの効果を制限してしまう(3)。ニトログリセリン耐性の一因となるメカニズムには、酸化ストレスの増大や内皮機能障害、血管収縮因子に対する感受性増強などがある(3)。ニトログリセリン耐性のメカニズムに関する分子レベルの見識はChenらの研究から得られたものであり(4)、彼らはミトコンドリア酵素アルデヒドヒドロゲナーゼ2(ALDH2)が、NO放出と血管拡張をもたらすニトログリセリンの生物変換反応に必要であることを示した。しかしニトログリセリンへの長期暴露はALDH2を不活化し、ニトログリセリンの生体内活性を低下させる結果、ニトログリセリンの血管拡張作用を消失させることになる。
エタノールの中間生成物であるアセトアルデヒドを代謝することで最もよく知られているALDH2は、4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)などの脂質過酸化産物の代謝でも重要な役割を担っている(5)。毒性の高い反応性アルデヒドはタンパク質へと付加してタンパク質機能異常と組織損傷をもたらすため(6)、ヒトにおける癌やMIなどのさまざまな疾患の原因になると考えられている(7-9)。最近になって我々は、ALDH2のアロステリック活性化剤「Alda-1」によるALDH2活性化が、虚血傷害による心損傷を抑えるということを明らかにした(10)。これはALDH2の心保護作用を示唆している。また、ニトログリセリン耐性関連のALDH2不活化によって、梗塞サイズはexvivoで大きくなった(10)。継続的なニトログリセリン治療期間中にMIを引き起こす患者が、潜在的なリスクを負うということをこれらのデータは示している。継続的なニトログリセリン注入は通常、急性冠症候群患者を対象とした救急部の血管形成術前などに行われるため、治療中に同患者がMIを発症させた場合には、心損傷リスクが増加する可能性がある。本試験ではラットモデルを用いて、持続的なニトログリセリン投与によるMI重症度の増加リスクをin vivoで調べた。
結果
NAD[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の酸化体]からNADH[NAD+の還元体]への変換を測定し(340nmの高い吸光度で確認)、組換えALDH2酵素活性に対するニトログリセリンとAlda-1の作用を判定するため、精製済みの組換えALDH2を用いてまず最初にin vitro試験を実施した。ニトログリセリン(1μM)を加えて1時間インキュベートしたところ、ALDH2のデヒドロゲナーゼ活性が85±3%低下した(図.1A)。後続のAlda-1投与ではALDH2活性がわずかに65%増加したが(P<0.05 対 ニトログリセリン単独投与)、この増加は中程度のもの(Alda-1投与後ALDH2活性の基礎レベル25%)であった。その一方、ニトログリセリンとAlda-1の同時投与では、ニトログリセリン誘発性ALDH2不活化が完全に阻害された(図.1A)。

持続的なニトログリセリン投与はin vivoALDH2を不活化する
我々は以前に、in vivoにおける16時間の持続的なニトログリセリン投与(1日当たり7.2mg/kg)が、ex vivoのMI(ラット摘出心臓を対象にランゲンドルフ装置を用いたところ虚血発作が生じた)と心筋ALDH活性の有意な低下をもたらすことを明らかにした(10)。この処置方法では臨床的に妥当なニトログリセリン用量および投与時間を採用し、救急治療室における急性狭心症患者対象の静脈注射治療などをシミュレートした。そして、ウィスター系雄ラットの左冠動脈前下行枝(LAD)をinvivoで結紮して虚血再潅流を誘導し、そこから得られたMIのin vivoモデルを用いて、ニトログリセリン前処理がALDH2活性を47%低下させるということを示した(図.1B)。MIの全過程(虚血とその後の再潅流)を通してニトログリセリン投与を継続したため、データはMI発生時および発症期間における心筋のALDH2活性低下を示唆している。その一方、Alda-1(1日当たり16mg/kg)との同時連続投与では、ニトログリセリンによる心筋のALDH2活性低下が抑制されたため、Alda-1がニトログリセリン誘発性の不活化からALDH2をin vivoで保護している可能性がある(図.1B)。