悪性黒色腫(メラノーマ)の病期(stage)別治療指針

 

 メラノーマは4病期に分かれ、それぞれ治療指針が異なっている。薬物療法は初回治療と再回治療とは異なり、患者の既治療歴によって考慮すべきである。

1. 病期Ⅰの治療
この病気は初発病巣のみで腫瘍細胞の侵襲の浅いものである。Clarkのlevel 3(真皮乳頭層までの浸潤)、あるいはBreslowの腫瘍の厚さが1.5皿以下の場合で、所謂、早期である。この病期では腫瘍辺縁より2cm前後離して切除すれば良好なる予後が得られる。

2.病期IIの治療

 病期Iと同様初発病巣のみであるが、腫瘍細胞の侵襲がやや深く、 level4(真皮網状層に達する浸潤)、あるいはBreslowの1.5~4cmの腫瘍の厚さを有するものである。この病期では腫瘍辺縁より3~5cm離して切除することが必要で、さらに所属リンパ節郭清、化学療法、時に免疫療法の併用が必要となる。特に厚さが3cm以上の時には予後が不良となるので慎重に対処しなければならない。また、この病期の化学療法はDAV (dacarbazine、ACNU、 vincristine後述)療法ならびにPAY (pepleomycin、 ACNU、vincristine)療法が主に。適用される。原則としてこの病期の化学療法は術前1クールを含めて3クール施行することが望ましい。

 3.病期Ⅲの治療

 この病期は2つに大別される。1つは初発病巣のみで、浸潤の深さが皮下に達するもの、あるいはBreslowの腫瘍の厚さが4cm以上のものである。1つは所属リンパ節に転移のあるものである。何れも予後は不良である。治療指針は病期IIとほぼ同様であるが、所属リンパ節廓清はしばしば深部廓清が望ましい。また、化学療法も所属リンパ節に転移のある時は5クール以上施行した方が予後が良好である結果が得られている。

 4.病期Ⅳの治療

 所属リンパ節を越えた皮膚、リンパ節転移と血行性転移である。この時期にはそれぞれの転移に対する治療を含めた集学的治療が必要である。5年間生存した症例はほとんどなく、3年生存率がO~10%である。この時期の化学療法は既にDAVやPAVの施行した症例ではその感受性が低下していることが多く、この場合、新しい化学療法としてCDV (cisplatin、 dacarbazine、 vindesine)療法が適用される。また、化学療法と併用して養子免疫療法も行われることもある。

 皮膚悪性腫瘍には多くの種類がある。例えば、基底細胞癌、有棘細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚T細胞リンパ腫(菌状息肉症)、 Paget病、 Bowen病などである。この中、発生頻度や悪性度より薬物療法の対象となるのは悪性黒色腫と有棘細胞癌である。


 本腫瘍はメラノサイトあるいは母斑細胞由来の悪性腫瘍であり、予後が極めて不良で、その罹患は死刑宣告にも値すると言われる程恐れられた腫瘍である。早期発見と完全なる治療が要求され、この時期を逸すると予後は急速に不良になる。すなわち、他に転移がなく、原発巣のみでも腫瘍の厚さや浸潤の深さにより悪性度が増してくる。また、早期でも安易な治療を行うと予後が不良となる。従って、何れにせよ、初回の治療を慎重に、かつ、完璧に行う必要がある。一般に本腫瘍の治療については病期別治療指針があり、これを中心として記載し、薬物療法に言及したい。