ギャンブル依存症のメカニズム

ギャンブルの嗜好はどのようにして身につくのでしょう。最初に勝ちを経験することが重要だとする説があります。初めてカジノに行った人が何度かブラックジャックにかけて、最初の5回で続けて負けたら、失望して帰ってしまうでしょう。ギャンブルに関連してネガティブなイメージしか残らず、二度と書けようとは思わない可能性が高くなります。逆に、最初に1回か2回買ったとすると、ギャンブル行動が正の強化を受けます。このように最初に成功体験から小さいながらもはっきりした快感を得た一部の人が、『快感の目標値』を得るためにより高い刺激を求めていく中で、ギャンブル依存を発症するリスクは高まっていく、という説です。

最近、サルやラットの実験から別のモデルが提案されています。それによると、脳はもともとある種の不確実性に快感を見出すようにできているといいます(認知神経科学の文献では、快感ではなく「報酬的」という用語が用いられます)。

ケンブリッジ大学のウォルフラム・シュルツらが、サルにコンピューターの画面を見せ、知覚のチューブから甘いシロップを出す時に画面上に合図を表示するようにして訓練する実験を行いました。同時に、サルの脳に埋め込んだ電極でVTAのニューロンの活動を記録しました。

画面上に光の合図が現れ、約2秒間表示されます。緑の光は、2秒後に必ずシロップが出てくるしるしです。赤の光では2秒経っても報酬は与えられません。

ここからは一頭のサルを追いながら実験の経過を見ていきましょう。最初の試行では光は点けずにシロップを与えます。シロップが与えられた直後に猿の脳内のドーパミンニューロンが短く発火します。訓練前のこの状態で、サルはシロップを本能的に報酬とみなしているのです。

次に、赤と緑の光をシロップを確実に予告するものであることを学習し、非常に興味深い変化が生じます。ドーパミンニューロンが徐々に報酬自体に反応しなくなり、代わりに緑の光の点灯時に発火を見せるようになっていきます。同時に赤い光が無報酬を確実に予告することも学習し、赤い光の試行ではどの時点でも発火しないようになります。

実験にはさらに手が加えられました。ルール違反をするのです。たとえば、この実験に十分慣れたサルに、緑の光を見せて、シロップを与えない。この場合、緑の光がついた時点でドーパミンニューロンが発火しますが、2秒後、一時的にニューロンの活動がほとんどなくなります。

こうした反応のあり方は、現実世界での学習を導くのに極めて有用であることがわかっています。いったん成立した連合学習の内容が現実と合わなくなり、新しい経験で書き換える必要があるという場面は、実際よくあります。そのため、サルの脳の快感・報酬回路は、学習理論の研究者が予測誤差と呼ぶものを計算できるようになっていなければなりません。予測誤差というのは、起こると予想されることと実際に起こったこととのずれのことです。

シュルツらは、さらに別の合図、青い光を表示する実験を行いました。青い光が予告するのは、ついてから2秒後に、五分五分の確率でランダムに報酬が出たり出なかったりするということでした。この思考を繰り返すと、サルのニューロンは青い光が点いたときに短く発火した後、気妙なふるまいを見せます。最初の発火が収まってから青い光が消えるまでの約1.8秒の待ち時間に、ドーパミンニューロンの発火レベルが徐々に高まっていき、青い光が消える瞬間に最大値に達するのです。しかも、青い光の実験でシロップを増量してやると、待ち時間の最大発火レベルも高まることがわかりました。

この研究者たちがやったことは、基本的にいわばサルのカジノを作ることでした。青い光が点いてから消えるまで、報酬が確定しない間の待ち時間に、VTA標的領域の快感経路は徐々に活動を高めました。このモデルでは、ギャンブル好きになるのに初期の報酬は必要ないということになります。むしろ、見返りの不確実性そのものが快感を導きます。

進んでリスクをとろうとする神経系は、進化上も適応的だったとするシナリオが提案されています。このような神経系を持つ動物は、重要な出来事に直面した時、より確実な予備因子が見つかるまで判断を保留する能力を持ちます。