薬害に見る政府と企業の姿勢

 またもや薬害エイズか、と一瞬心臓が凍るような思いをしたのが、ヒスタグロビンに関するニュースだった。

 

 ヒスタグロビンはアトピー性皮膚炎やアレルギー性の鼻炎の注射用治療薬として輸入されているものだ。原料は血液成分の一種、グロブリンを用いている。

 

 ドイツのUBプラズマ社が、十分エイズ検査をしないまま大量の血液成分を輸出していたことがわかり、ドイツはもちろんのこと、UBプラズマ社の製品の輸出先であるヨーロッパ各国がパニックに陥った。

 

 日本の厚生省は、日本にはUBプラズマ社からの血液成分や、それを材料としてつくった薬は、一切輸入されていないといったんは発表した。しかし、間もなくこの発表を取り消し、実は九二年の一月からこれまでに、一四〇万本に上るUBプラズマ社の血液成分で製造したヒスタグロビンを輸入していたと発表したのだ。

 

 ヨーロッパのパニックから三週問以上遅れていた。しかも訂正は、厚生省やヒスタグロビンの販売元、日本臓器製薬が自ら調査してのものではない。同社にヒスタグロビッを輸出してい  るスイスのビオバザール社が通知してきた結果だったのだ。

 

 現代の最先端医療は、技術面でも素材面でも国境を超えて複雑なルートで入ってくる場合が多い。ヒスタグロビンの場合も、日本臓器製薬はこれをスイスのビオバザール社から輸入していたが、その製造素材である血液成分をオーストリアのイムノ社から購入していた。そしてこのイムノ社が実は、問題となったドイツのUBプラズマ社から血液成分を買っていたのだ。

 

 ここで思い出すのは、日本臓器製薬も厚生省も、かつて輸入血液製剤エイズ汚染の危険ありと指摘されたのに、その警告を検証せずに非加熱濃縮製剤の杣人を続け、その結果、多くの血友病患者をエイズに感染させたことだ。そしてその結果、厚生省も日本臓器製薬も今、東京HIV訴訟の被告の席に座らされていることを忘れてはならない。

 

 すでに犯した過ちに思いを至すならば、今回のヒスタグロビンに関しての両者の姿勢はなんとしたことか。ほとんどなんの調査もせず「ドイツのUBプラズマ社の血液もその血液でつくった薬も日本には入って来ていない」と宣言した。いったいどういう厚生行政であり企業姿勢だろうか。本来ならば、いち早く輸出元をたどって自社製品の血液の出所を調べるべきであろう。そのような努力をした跡が今回まったく見られなかったことは、厚生省、そして日本臓器に代表される製薬メーカーは、これからも薬害を引き起こし続けるだろうということだ。

 

 薬害といえば前例のないほどの被害がヘルペスの治療薬ソリブジンによって引き起こされたばかりだ。九月三日の発売後間もなく、ソリブジンの副作用で死亡したと思われるケースが続出した。調査をしてみると、発売後わずかIヵ月で一四人が死亡していたことがわかった。

 

 問題のソリブジンは臨床段階から抗ガン剤と併用すると白血球が急激に減少することが判明していたが、取扱い説明の欄には単に「抗ガン剤との併用を避けること」とのみ記載されていた。さりげなく書かれたこの説明書からは、死をもたらす副作用が起きることは、推測し難い。また、ガンの告知の是非について世論の分かれている日本で、ガン患者のすべてが自分のガンについて知っているとは限らない。だとすれば、ヘルペスの治療にソリブジンを投与しようとする医師は、患者が抗ガン治療を受けていることを知る術がないともいえる。つまり、ソリブジンと抗ガン剤の危険な組み合わせを避ける道は確立されていないということだ。

 

 このような医療風土に十分考慮せず、強い副作用のあるソリブジンを承認した厚生省、副作用を甘く評価した製薬メーカーの姿勢こそが薬害の温床である。ヒスクグロビンをめぐる両者の責任と併せて、医療行政および業界の姿勢は厳しく間われるべきだ。